懐郷 (新潮文庫 く 31-1)熊谷 達也新潮社このアイテムの詳細を見る |
♪「懐郷」熊谷達也著 新潮文庫
丸善でこの本を買ったのは、裏表紙の解説に「仙台駅駅裏へと続くX橋。その路地にいつも立つ娼婦がいた・・・」との文章があったから。
仙台出身者のそれなりの年齢の者で、X橋を知らないものはまず居ない。
思わずレジに持っていってしまった。
終戦から暫く経った昭和三十年代を生きた女性の物語を集めた短編集だ。
戦後の混乱が漸く収まってきた時代、まだまだ貧しく精一杯やらなければ食えなかった時代の東北の女性たち。
僕が生まれたころから小学校に入るぐらいまでの時代の話なので、なんか人事とは思えない親しみを感じる主人公ばかりだ。
東北の田舎町に嫁ぎ、なかなか周りに馴染めない「都会」の仙台出身の若妻(「お狐さま」)。
安保闘争に巻き込まれ膝を負傷し、生まれ変わるために出羽三山を縦走するワンゲル出身の女性(「銀嶺にさよなら」)。
出稼ぎで東京に出ている夫を、十時間かけて鈍行列車で追いかける妻(「鈍行列車の女」)。
朝鮮戦争に転属となった米兵を、仙台駅北口のX橋に毎日立って待ち続ける「元オンリーさん」のパンパンガール(「X橋にガール」)・・・。
僕が生まれた年の2年後に「赤線」が廃止となった。
X橋の淑子は、赤線廃止後も橋の袂の居酒屋の前にひっそり佇み続ける。
僕が生まれた頃も淑子は立っていたのかなぁ・・・。
七編の短編の中で僕のお気に入りは、この「X橋にガール」と、中卒で集団就職した教え子を師弟愛を超えた感情で訪問する若手女性教師の「鈍色の卵たち」
特に涙を誘うわけではないが、結構ずっしりと胸に迫ってくる話だ。
著者の熊谷達也は僕の二つ下で仙台出身。県北の佐沼高校卒業だ。
50年前の宮城県人が普通に使っていたであろう「仙台弁」が妙にリアルだ。
この人の直木賞受賞作「邂逅の森」は読もうと思いながら手をつけていなかった。
今度絶対に読もう!