チェロ弾きの哲学ノート

徒然に日々想い浮かんだ断片を書きます。

ブックハンター「腸と脳」

2019-06-28 09:21:28 | 独学
187. 腸と脳 (エムラン・メイヤー著 高橋洋訳 2018年7月)
   The Mind-Gut Connection    Copyrights©2016 by Dr.Emeran Mayer
  体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか
  How the Hidden Conversation within Our Bodies Impacts   Our Mood,
    Our Choices, and Our Overall Health

 生物は、極端な言い方をしますと、口と肛門と腸があれば、成立します。イソギンチャクや貝類などは、このような生物として存在します。
 私たちは、食べ物は,胃や腸で消化されると考えられますが、腸内微生物との共生関係によって行われる複雑な仕組みは、多くの分野で、現在研究中です。

 本文に以下のような記述があります。
 「 数千種類にのぼる血中代謝物質のうち、およそ四〇パーセントが腸内微生物に由来することはすでに述べた。さらにいえば、特定のポジティブ、もしくはネガティブな情動に対する内臓反応は、腸内微生物が食物を原料に生成する代謝物質の構成を劇的に変える場合がある。
 つまり、腸内微生物が身体の各部位に向けて送るシグナル分子を大々的に編集し直すのだ。私の予想では、これまで長らく科学者たちが無視してきた腸内に宿る兆単位の微生物が、情動から影響を受けるばかりではなく、逆に腸ばかりか思考や感情に対しても、強力な影響を行使する能力を備えていることが判明するだろう。 」

 さらに健康なマイクロバイオームの基準について、以下のように述べている。 「 一般に認められているマイクロバイオーム(腸内微生物群)の基準の一つは、多様性と、それを構成する微生物種の多さである。自然の生態系と同じく、マイクロバイオームの多様さのレベルが高ければ攪乱に対する回復力は強く、低ければ弱い 」 とあります。

 この腸内微生物の多様性を保つには、多様な食物(できれば全体食)を食べる、このためには、私たちの住んでいる環境の生物多様性を保つことも重要です。

 確実に言えることは、胃や腸での消化には、消化酵素と腸内微生物群とせん動運動と時間の経過によって、体内に選択的に吸収することが可能になります。
 私たちは、胃や腸の状態によって、気分が変化することは、経験的に知っています。胃や腸は、私たちの体の内部でありながら、外部であります。たとえば、危険な食べ物を食べてしまったとき、激しい嘔吐や下痢によって、外部に排出しようとします。

 食べ物やそこに含まれる体内に好ましくないものが、入ってきたときのために、腸壁には、多くの神経細胞が存在し、脳とのコミュニケーションを取りながら、あらゆる状況に対応しているらしいことも、私たちは経験的に知っています。

 本書は、327ページの本なので、まともに読んでも、本書のすぐれた部分を伝えることは、できませんので、今回は、「日本の読者へのあとがき」と目次を紹介致します。

 これらを読めば、私が理解している程度の理解は、出来ると考えます。本書に書かれていることは、健康とは何か、栄養とは何か、心と体とは何か、医学とは何か、精神とは何か……を考えるヒントになると考えます。では、読んでいきましょう。

 『 二〇一六年夏に本書をアメリカで最初に刊行して以来、私は規模の大小を問わず、国内各地で一般読者や専門家を相手に対話を行ない、脳腸相関、栄養、最適な健康、福祉などのテーマに強い関心を寄せる人々と出会ってきた。

 一連の経験を通して、心と脳と腸内微生物の相互作用、いわゆる「脳ー腸―マイクロバイオーム」相関、およびそれが気分や健康全般に及ぼす影響に対する関心が、世界中で科学者のみならず、福祉・健康コミュニティに属する患者やスタッフのあいだでも、もっとも頻繁に取り上げられるトッピクの一つになってきたことを実感する。

 今や、脳と腸の相互作用の阻害は、活力の喪失、食物感受性、機能的消化管障害などの身体的な問題から、抑うつ、食物依存症などの精神疾患、さらにはアルツハイマー病やパーキンソン病などの脳疾患にいたる、さまざまな健康問題を引き起こすと考えられるようになった。

 数々のアイデアや仮設のなかには思いつき程度のものもあるとはいえ、実験動物を用いた研究で裏づけられているものもあり、さらには少数ながら人間の被験者を対象に行われた、よく練られた実験で検証されているものもある。

 これまでに発表されてきた人間を対象とする研究の大多数は、腸内微生物と脳のあいだに因果関係があることを証明せずして、脳の変化や、(うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病にともなうもののような)行動異常と腸内微生物の構成の結びつきを示唆している。

 しかし現在では、因果関係を明らかにし、よくある脳障害の治療の新たな標的を特定することを目標に、十分に練られた実験、研究が続けられている。

 現代のアメリカ的食生活のもたらす弊害に焦点を絞ることによって、私は、植物性複合炭水化物、魚類、植物性脂肪、穀物、自然発酵食品を基本とし、赤肉、動物性脂肪、精製糖、加工食品の割合が少ない食事が、世界のいかなる地域でも、健康な食事の見本になることを確信するようになった。

 さらにいえば、オリーブオイルや赤ワインに含まれるポリフェノールや、ウコン、クルクミン、ショウガなどの抗炎症効果を持つ植物性食物、あるいは微生物に富むさまざまな発酵食品の効果を加えれば、腸内微生物、腸、そして脳に有益な食事のシンプルな見本ができあがるだろう。

 本書では、私たちと腸内微生物の健康に寄与する食事の一例として、欧米の科学雑誌に数多く発表されている免疫学的な実験研究の裏づけのある、地中海式食事法に焦点を絞って取り上げた。
 しかしながら、脳の健康や食に関する研究を続けていくうちに、世界中のさまざまな地域に伝わる伝統食のほとんどが、個々の素材は各地域の事情で異なるとはいえ、地中海式食事法と非常によく似たパターンを示すことに気づいた。

 日本、韓国、中国を含めたアジアの伝統食は、魚類、ポリフェノールや抗酸化物質に富む多様な植物性食物、穀物、大豆発酵食物などの自然発酵食品の消費量が高く、肉類や乳製品などの動物性食物の消費量が低い点で、地中海食事法と共通する。

 加えて、地中海地域やアジア地域の諸文化のもとで発展した伝統的な食事の際には、複数の小ぶりの食器を用いて料理を分け合う、共同体的要素が色濃く認められる。
 日本の食事は、味噌汁の入った汁椀、ご飯を盛った茶碗、魚料理の皿、和え物や漬物などの野菜料理が入っていくつかの鉢からなる。使われる食器はすべて小さい。

 このような、複数の皿に少量の食物を盛って皆で分け合う日本の食事様式は、スペインのタパスや、発酵食品を主体とする韓国のバンチャンという食事様式にも類似する。
 日本食のもう一つの重要な要素は、食事の準備から食べるときの作法に至る、審美的側面への配慮である。

 伝統的な日本食は、車を運転しながら、あるいは講義に耳を傾けながら食べるような類のものではない。日本を訪問したときの経験や、ロサンゼルスの日本食レストランでの経験に基づいていえば、日本食は、味覚のみならず視覚や舌触りを含むあらゆる感覚に訴えかけ、食べる人がその感覚を楽しめるよう配慮している。

 しかし世界の他の地域と同様、数千年の長い伝統に根ざす伝統的な日本食は、自然や環境との宗教的なつながり、あるいは食をめぐって構築された親密な社会などを含め、ファストフードや魚類から肉類への消費の移行をはじめとする急速な「食の欧米化」によって脅かされつつある。

 中国や韓国と同じく、二十世紀以降の日本は、経済的要因、都市化、入手可能な食料の全体的な増大のために、栄養面で劇的な変化を経験してきた。東京都民の赤肉の消費量は、一九四七年の時点と比べてほぼ二〇倍に増大し、日本史上初めて、海産物の消費量を上回りつつある。

 伝統的な日本食が長寿をもたらす秘訣であり、また、心循環器系や脳の健康に恩恵をもたらすものだということは、十分に立証されている。アメリカで暮らす日本人のあいだでは、肥満、メタボリックシンドローム、アルツハイマー病など欧米の典型的な疾病の有病率が大幅に上昇しており、日本人以外のアメリカ在住者の割合に近づきつつある。

 のみならず、アメリカで暮らしていない日本人に関しても、ここ数十年における認知症の有病率が高まっている。この現象を説明する要因の一つとして、魚類や植物性食物を主体とした食事から、肉類などの動物性食物を主体とする食事への漸進的な転換が指摘されている。
 データが示すところでは、日本におけるアルツハイマー病患者の増加に最も強く結びつく食物関連の要因は、動物性脂肪の消費量の増大である。(私、このブログの作成者の考えでは、精製された食品(白米、精製小麦、白砂糖、精製塩、人口甘味料、防腐剤、抗生物質など)による微量元素の不足と身体を蝕む食品が起因していると推測しています。)

 日本や世界各地の伝統食がもたらす健康への恩恵は、腸内マイクロバイオータの構成や多様性と何か関係があるのではないだろうか。

 日本や世界各地の伝統食が長寿をもたらす健康への恩恵は、腸内マイクロバイオータの構成や多様性と何か関係があるのではないだろうか。本書で論じたように、植物性食物を主体とした食事は、より健全な腸内マイクロバイオームの構築、並びに身体や脳に低レベルの炎症をきたす危険性の軽減と結びついている。

 ところが残念なことに、アジアのあらゆる国々で、植物性食物と動物性食物の消費量の割合の逆転が進んでおり、食習慣の欧米化が人々の健康のさまざまな側面をおびやかすようになってきた。
 沖縄料理を含めた伝統的な日本食の健康への効果は、理由は本書で述べたとおりだが、腸内マイクロバイオームとの相互作用における「最適な調節」に由来すると、私は考えている。

 食事関連の要因に加え、禅の精神やマインドフルネス、さらには日本食特有の審美的な様式は、心と腸内マイクロバイオームのコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしている。
 そしてこのコミュニケーションは、腸内微生物が宿る体内の環境を決定するという重大な役目を、脳に与えているのである。

 私は、日本の読者の皆さんに、脳と腸とマイクロバイオームがいかに相互作用し、健康とどのような影響を及ぼすかを理解してもらうことだけでなく、伝統的な日本食の価値や、マインドフルネスがもたらす健康への恩恵を再発見し、最適な健康を維持するための戦略として非常に有用だと認識してもらえることを願っている。 』 (日本の読者へのあとがき)

 目次
 第1部 身体というスーパーコンピューター
  第1章 リアルな心身の結びつき
  第2章 心と腸のコミュニケーション
  第3章 脳に話しかける腸
  第4章 微生物の言語
 第2部 直観と内臓感覚
  第5章 不健康な記憶
  第6章 情動の新たな理解
  第7章 直感的な判断
 第3部 脳腸相関の健康のために
  第8章 食の役割
  第9章 猛威を振るうアメリカ的日常食
  第10章 健康を取り戻すために 
     
 以上が部と章の構成です。次に各章の項目を見て行きます。

 第1章 リアルな心身の結びつき  (第1部 身体というスーパーコンピューター
 機械モデルの代価/一般的な健康状態の劣化/スーパーコンピューターとしての消化器系/マイクロバイオームの夜明け/「脳ー腸―マイクロバイオータ」相関のバランスの崩れ/細菌の役割/あなた=食べ物――ただし腸内微生物も含む場合に限る/健康と新たな科学

 第2章 心と腸のコミュニケーション
 嘔吐が止まらない男/腸内の小さな脳/銃創と内臓反応/腸の情動反応をプログラムミングする脳/腸がストレスを受けるとき/腸内の鏡像

 第3章 脳に話しかける腸
 過敏な脳/消化管で感じる/消化管の気づき/消化管と脳を結ぶ情報ハイウェイ/セロトニンの役割/情報としての食物

 第4章 微生物の言語
 幼少期における浣腸の負の効果/腸にたいする嫌疑/腸と脳のコミュニケーションを媒介する微生物/微生物語の夜明け/太古の契約/微生物語と体内インターネット/体内における無数の会話

 第5章 不健康な記憶   (第2部 直感と内臓感覚)
 ストレスによるプログラミング/幼少期のストレスと過敏な腸/親から子に伝わるストレス/ストレス下のマイクロバイオーム/健康なスタートに必要な微生物/生存のための適応/脳腸相関の障害に対応するセラピー

 第6章 情動の新たな理解
 腸内微生物が脳を変える?/マイクロバイオータは人体のザナックス工場?/うつとマイクロバイオータ/ストレスの役割/ポジティブな情動/情動が腸内微生物にもたらすその他の影響/腸内微生物が人間の行動を変える?/新たな情動理論の構築に向けて

 第7章 直感的な判断
 個人差/初期の情動の発達/人間の脳の独自性/自分独自のグーグルを構築する/内臓感覚に基づく判断はつねに正しい?/夢を通じて内臓感覚にアクセスする

 第8章 食の役割   (第3部 脳腸相関の健康のために)
 ヤノマミ族の食事レッスン/アメリカ的日常食は腸内微生物に有害?/すべてはどこではじまるか/腸と脳の会話と食事の役割/食習慣とマイクロバイオータ/食習慣はいかに腸と脳の会話を変えるか

 第9章 猛威を振るうアメリカ的日常食
 すばらしい新食品/動物性脂肪の多い食事が脳を損なう/腸内微生物が食欲をコントロールする/気晴らし食品の誘惑/食物依存症――欲望と高脂肪食/工業型農業と腸と脳/アメリカ的日常食と腸内微生物/アメリカ的日常食と脳の慢性疾患/地中海式食事法の再発見

 第10章 健康を取り戻すために
 最適な健康とは何か/健康なマイクロバイオームとは何か/いつ最適な健康に投資すべきか/マイクロバイオームの改善による健康増進の指針/内臓感覚に耳を澄ます/脳とマイクロバイオータをフィットさせる

 第10章の最後に書かれていた 「マイクロバイオームの改善による健康増進の指針」
 〇 自然で有機的なマイクロバイオームを育成する
 〇 動物性脂肪を控える
 〇 腸内微生物の多様性を最大化する
 〇 大量生産された食品や加工食品は避け、なるべく有機栽培で育てられたものを食べる
 〇 発酵食品やプロバイオティクスを摂取する
 〇 妊娠時には栄養とストレスに留意する
 〇 食べ過ぎない 
 〇 断食をして腸内微生物を飢えさせる
 〇 ストレスフルなとき、怒っているとき、悲しいときは食べるのを控える
 〇 皆で食事を楽しむ
 (第186回)





  



 












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