漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「畐フク」 <みちる> と 「福フク」 「副フク」 「幅フク」「蝠フク」「匐フク」「蔔フク」「輻フク」「富フ」「逼ヒツ」

2025年02月28日 | 漢字の音符
   フク <みちる>
 フク・ショク  田部 fú・bì    

解字 甲骨文字は注ぎ口のある酒つぼの象形。金文は注ぎ口が長く底の部分が丸く描かれている。[角川新字源]は「首の長い酒つぼの形にかたどる」とする。篆文は上部が「亠+口」に変化し[説文解字]は「満ちる也(なり)。高の省に従う」として、「上部は高の省略形に従う」とともに、意味は「満ちる」として、酒つぼの中が「みちる」とする意味を新たに提出した。この意味は以後の音符字の形成に大きな影響を残している。
意味 (1)みちる(畐る)。(2)容器の名。(3)巾(はば)(=幅)

イメージ 
 「みちる」
(畐・福・富・幅)
 うつわが「ふくらむ」(蝠・副)
 「形声字」(逼・匐・輻・蔔)

音の変化  フク:畐・福・幅・蝠・副・匐・蔔・輻  フ:富  ヒツ:逼

みちる
 フク・さいわい ネ部 fú・fù
解字 「ネ(示:祭壇)+畐(みちる)」の会意形声。神の恵みが満ちていること。後漢の[説文解字]は「祐ユウ(神のたすけ)也(なり)。示に従い畐フクの聲(声)」とする。
意味 (1)さいわい(福)。しあわせ。神からさずかる助け。「幸福コウフク」「福音フクイン」(①よろこばしい知らせ、②キリストの説く救いの教え)「福祉フクシ」(福も祉も幸福の意。満足すべき生活環境)(2)よい。めでたい。「福運フクウン」(幸福と幸運)(3)姓。「福沢フクザワ」「福田フクダ」など。(4)地名。「福井フクイ」「福島フクシマ」など。
[冨] フ・フウ・とむ・とみ  宀部 fù
解字 「宀(いえ)+畐(みちる)」の会意形声。家の中に財宝が満ちること。冨は異体字。
意味 (1)とむ(富む)。とみ(富)。ゆたかにある。「富裕フユウ」「豊富ホウフ」「貧富ヒンプ」(2)とます(冨ます)。財産を増加させる。「富国フコク」「富国強兵フコクキョウヘイ」(3)「富士山フジサン」(日本一高い山)「富岳フガク」「富嶽フガク」(富岳の旧字)「富嶽三十六景フガクサンジュウロッケイ」(葛飾北斎による富士山版画集)(4)姓。「富田とみた」「富岡とみおか」など。(5)地名。「福井ふくい」「福岡ふくおか」など。
 フク・はば  巾部 fú・bī
解字 「巾(ぬの)+畐(みちる・いっぱいにひろげる)」 の会意形声。布をいっぱいに広げた時の横はば。
意味 (1)はば(幅)。物の横はば。「幅員フクイン」「全幅ゼンプク」(幅いっぱい。あらんかぎりの)「幅跳はばとび」(陸上競技の一つ。踏切板から飛んだ距離を競う)(2)掛け物。掛け軸。また、それを数える語。「画幅ガフク」「一幅イップク

ふくらむ
 フク  虫部 fú
解字 「虫(動物)+畐(ふくらむ)」 の会意形声。蝙蝠ヘンブク(コウモリ)に使われる字。蝙ヘンは「虫+扁(平らでうすい)」の会意形声で、平たい翼でひらひらと飛ぶコウモリ。これに対し、蝠は中央の身体の部分がふくらんでいるのを表現しているものと思われる。つまり、蝙蝠は平たい翼で空を飛び膨らんだ身体をもつ動物の意。

コウモリ(蝙蝠)(「ウィキペディア」より)
意味 蝙蝠ヘンブク(コウモリ)に用いられる字。フクの発音が福に通じるため、中国では縁起の良い動物とされている。「蝙蝠傘こうもりがさ」(広げた形がコウモリの翼の形に似ているところから)
 フク・ヒョク・そう  刂部 fù・pì
解字 「刂(刀)+畐(ふくらんだもの)」 の会意形声。ふくらんだものを刀で二つに分ける形。ひとつだったものが、二つに分かれたことから、二つが寄り添う意となり、正副の「副」の意となる。
意味 (1)そう(副う)。そえる。つきそう。(2)そえ(副え)。たすける。「副将フクショウ」(主将を補佐する将)(3)ともなう。「副作用フクサヨウ」(4)ひかえ。うつし。「副本フクホン」(原本の写し)

形声字
 ヒツ・ヒョク・せまる(ヒツは慣用音)  辶部 bī  
解字 「辶(行く)+畐(フク⇒ヒョク)」の形声。ヒョクはフク・ヒョクに通じる。フク・ヒョクは、酒つぼの形である畐が二つ合わさった形であり、そう・よりそう意。そこに辶(行く)がついた逼ショクは、よりそう意を強めた字で、せまる意となる。発音はヒョク⇒ヒツに変化した慣用音が使われる。これはヒョクに続く音との連続がしにくいためと思われる。
意味 (1)せまる(逼る)。さしせまる。「逼迫ヒッパク」(さしせまる。ゆきづまる) (2)せばまる。縮まる。「逼塞ヒッソク」(八方ふさがり。おちぶれる)
 フク  勹部 fú 
解字 「勹(人が身をかがめる)+畐(フク)」の形声。身をかがめて腹這(はらば)うことを匐フクという。[説文解字]は「地に伏(ふく)するなり」とする。「匍匐ホフク」として用いることが多い。

河原のツルヨシの匍匐茎(「gooブログ「多摩の自然」より)
意味 はう。はらばう。「匍匐ホフク」(腹ばいになること)「匍匐前進ホフクゼンシン」(はらばって進む)「匐枝フクシ」(地上をはう枝)「匍匐茎ホフクケイ」(這うように伸びる茎)
 フク・や  車部 fú
解字 「車(車輪)+畐(=副。よりそう。たすける)」 の会意形声。車輪中心部のこしき(轂。ハブ)から外輪まで何本も出て車輪を支えたすけているスポーク(や)。

①車輪の輻(「古文・漢文の世界」より)②荷車の車輪(原サイトなし)
意味 や(輻)。車輪のスポーク(や)。中央から外へ何本も出ること。外から中央へ集まること。「車輻シャフク」(車輪のスポーク)「輻射フクシャ」(ある一点から周囲に放射すること)「輻輳フクソウ=輻湊」(いろいろな場所から物事が一か所に寄り集まる)
 フク  艸部 bo・pú
解字 「艸(くさ)+匐(フク)」 の形声字。フクという名の草。「蘿蔔ラフク」という語に用いられる。「蘿蔔ラフク」は、2000年以上前から地中海方面で栽培されていたアブラナ科の植物(現在の大根)で、中国に伝来した当初、現地語の発音から「蘆菔ロフク」また「莱菔ライフク」と表記されていた。のち中国で「蘿蔔ラフク」(簡体字で「萝卜luó boるおぼ」)と表記され、日本でも大根の漢名として使われる。
意味 「蘿蔔ラフク」とは大根の漢名。日本で「蘿蔔だいこん」「蘿蔔すずしろ」とふりがなをすることがある。なお、日本の「大根」は『古事記』に「於保禰(おほね)」という記述があり、「おほね」から「大根(おおね)」に鎌倉時代に転訛したとされる。
<紫色は常用漢字>

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