漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「蜀ショク」<いもむし・はなれオスの獣>と「触ショク」「嘱ショク」「属ゾク」「独ドク」「濁ダク」

2020年07月06日 | 漢字の音符
 ショク  虫部

 イモムシの仲間であるカイコ(「幼虫の写真図鑑」より)
 鹿蜀(~『山海経』談義~より)
解字 甲骨文は大きな目をもち、長く曲がった胴をもつ生物の象形。これは蛾や蝶の幼虫であるイモムシとされる。写真はイモムシの仲間であるカイコだが、頭部に眼状紋という模様があり目と間違いやすい(これは体を大きくみせて身をまもるためとされる)。他のイモムシにも眼状紋をもつ種類がある。甲骨文は何故イモムシを描いたのか。それは野蚕としてのイモムシを描いたと考えられる。おそらく、木の葉を食べるイモムシがサナギ(蛹)になるとき作るマユを集め、糸を作るのに利用していたのであろう(これらの野蚕から選びだされたイモムシが後に家蚕のカイコになった)。
 字形は金文で虫がつきイモムシであることをはっきりさせ、篆文をへて現代字の蜀になった。しかし、意味は甲骨文で地名、金文からは国名で現在の四川省地方を言う。なお、古代中国の神話と地理書である「山海経センガイキョウ」(戦国時代~秦・漢代)に「蜀には鹿蜀ロクショクという獣がいる。馬に似るが、頭は白く胴は虎の縞模様で赤い尾を持つ。鹿蜀の毛皮を身につけると子孫に困らない」という記述がある。「子孫に困らない」という記述は鹿蜀がオスであることを暗示している。蜀の音符家族をみると、「オスの獣」というイメージでなければ解けない字が多くあり、これらの音符字はオスの獣としての鹿蜀獣の伝説の影響を受けていると考えられる。
 蜀は古くから現在の四川省を指す地名・国名に使われている。四川省は西に急峻な山岳地帯、東に四川盆地が広がり中心都市の成都を中心に古くから文化が栄えた。1986年、成都に隣接する広漢市で三星堆サンセイタイ遺跡が発掘され、約3,000年前に古蜀の地に存在した青銅器文化が明らかになった。
意味 (1)いもむし。あおむし。 (2)ひとつ。ひとり。(=独)。 (3)古代中国の神話のなかの野獣の名。「鹿蜀ロクショク」(南山の杻陽山(ちゅうようざん)にいる獣。馬の姿に似ているが、頭は白く胴は虎の縞模様で赤い尾を持つ。鹿蜀の毛皮を身につけると子孫に困らないとされた。 (4)中国古代の国名。 ①古代の蜀にあった国「古蜀コショク」(建国者を蚕叢サンソウといい、叢ソウ(草木がむらがり生える)の中のイモムシ(野蚕)からカイコ(家蚕)を作りだしたとされる。後期には三星堆文化を産んだ) ②三国時代の国「蜀漢ショッカン」(劉備が建てた国) ③五胡十六国のひとつ。 ④五代十国のひとつ。「後蜀ゴショク」 (5)四川省地方。蜀の別名。「蜀江ショッコウ」(蜀の成都付近を流れる川)「蜀江の錦」(蜀から産出した錦にしき。蜀は漢代から蜀錦ショッキンの名で知られた錦の特産地だった)「蜀黍ショクショ・もろこし」(コーリャンの別称)「玉蜀黍とうもろこし」(中南米原産の一年生作物)「蜀道ショクドウ」(蜀に通じるきわめて危険な山道。蜀の桟道がある)

イメージ 
 「いもむし」(蜀・蠋・触・躅)
 「オスの獣」(属・嘱・矚)  
 オスの獣は群れから「はなれる」(独・燭・髑)
 「同音代替(ダク)」(濁)
音の変化  ショク:蜀・蠋・嘱・矚・触・燭   ゾク:属  ダク:濁  チョク:躅   ドク:独・髑

いもむし
 ショク  虫部
解字 「虫(むし)+蜀(いもむし)」の会意形声。蜀は、もともと「いもむし」の意だが、国名に当てられたので、本来の意味を表すため虫をつけた。
意味 (1)蠋(いもむし)。チョウ・ガの幼虫で毛の無いものの総称。春夏にかけて草木の葉を食べる。体の色が緑色のものを「あおむし」ともいう。
 チョク・たちもとおる  足部
解字 「足(あしの動き)+蜀ショク⇒チョク(いもむし)」の会意形声。いもむしは草や木の葉にとりついて食べ続け、それが終わると近くの葉に移動する。したがって意味は、①じっと立ち止まる。②行っては止まる。となる。
意味 たちどまる。行っては止まる。たちもとおる。「躑躅テキチョク」(①行っては止まる。ためらうこと。②つつじ)「跼躅キョクテキ」(行きなやむ) 
[觸] ショク・ふれる・さわる  角部
解字 旧字は觸で「角(つの)+蜀(いもむし)」の会意形声。この蜀はイモムシが羽化し成虫になった蛾や蝶から出ている角(つの)で触角をいう。頭部にある感覚器官で、転じて触れる・触る意となる。
意味 (1)ふれる(触れる)。さわる(触る)。あたる。「触角ショッカク」(多くの節足動物の頭部にある感覚器官)「触覚ショッカク」(触れた感覚)「接触セッショク」「抵触テイショク」 (2)広く通達する。ふれ。おふれ。「触書ふれがき

オスの獣
[屬]ゾク・つく  尸部

解字 旧字はで、「尾の変形(メスの尾)+蜀(オスの獣)」の会意形声。オスの獣がメスの尻にのって交尾をすること。また、交尾の結果、同じ母親から次々と生まれてくる子供たちとその家族のグループを指す。新字体は、尾の毛と蜀⇒禹に変化した属になった。
意味 (1)つく(属く)。くっつく。つきしたがう。従属関係にある。「属国ゾッコク」「帰属キゾク」 (2)身内。血族。「尊属ソンゾク」(父母と同列以上の親族、すなわち、父母・祖父母など) (3)なかま。たぐい。同類。「金属キンゾク」「属性ゾクセイ
[囑] ショク  口部
解字 「口(くち)+属(つきしたがう⇒つながる)」の会意形声。口で依頼して自分の意をしてもらうこと。相手に物事をたのむ・相手にまかせる意となる。また、相手とつながりをつける意から、(関係を)つける、(期待などを)よせる意となる。
意味 (1)たのむ。まかせる。ゆだねる。「嘱託ショクタク」(たのんでまかせる)「委嘱イショク」(たのんでゆだねる)(2)つける。よせる。「嘱望ショクボウ」(望みをよせる=望)「嘱目ショクモク」(目をつける=目)
 ショク  目部
解字 「目(め)+(=属。つながる)」の会意形声。目でつながること。注目してよく見る意。
意味 みる(矚る)。注目する。つける。「ショクボウ」(望みをかける=嘱望)「ショクモク」(①注目する。②人の将来に期待をかける。=嘱目)

はなれる
[獨] ドク・ひとり  犭部
解字 旧字は獨で、「犭(けもの)+蜀(はなれる)」の会意形声。群から離れて棲むオスの獣。いわゆる離れオスである。新字体は、旧字の蜀から虫を取り出し、独とした。
意味 (1)ひとり(独り)。ひとつ。相手がいない。「独身ドクシン」「独占ドクセン」(一人で占める) (2)一人よがり。自分だけの。「独善ドクゼン」「独創ドクソウ」 (3)ドイツ。「独語ドクゴ
 ショク・ソク・ともしび  火部
解字 「火(ひ)+蜀(はなれる)」の会意形声。たき火でなく、地上から離れて人の手で管理される火。
意味 ともしび(燭)。あかり。「燭台ショクダイ」(ろうそくを立てる台)「燭光ショッコウ」(ともしびの光り)「蝋燭ロウソク」(蜜蜂の巣である蝋を固めてつくった灯火具)「華燭カショク」(結婚式場などのはなやかなともしび)「手燭てショク」(携帯用の蝋燭立て)
 ドク  骨部
解字 「骨(ほね)+蜀(はなれる)」の会意形声。風雨にさらされた死骸から離した骨の意で、特に頭蓋骨をさす。
意味 されこうべ。風雨にさらされて白くなった頭骨。「髑髏ドクロ」(されこうべ。しゃれこうべ。髑ドクは、はなれた頭骨、髏は、つながった骨の意。髑髏とは野ざらしとなった死骸から、はなした頭骨をいう。されこうべ。しゃれこうべ。※「され」は、さらす(晒す)意で、「されこうべ」は日光や風雨に晒された頭骨の意。しゃれこうべは、その転音)

同音代替
 ダク・にごる・にごす  氵部
解字 「氵(水)+蜀(ダク)」の形声。ダクは濯タク・ダク(すすぐ)に通じ、水をかき混ぜること。自然のたまり水をかきまぜると底の泥が混じって濁る。また、オスの獣が水たまりで水浴して濁ると解することもできる。
意味 (1)にごる(濁る)。にごす(濁す)。「濁流ダクリュウ」「濁音ダクオン」(五十音図のガ・ザ・ダ・バ行の各音節) (2)みだれる。けがれる。「汚濁オダク」(よごれけがれる)
<紫色は常用漢字>

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