漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「兪ユ」<ぬきとる>と「愉ユ」「癒ユ」「諭ユ」「喩ユ」「輸ユ」

2022年06月14日 | 漢字の音符
 渝ユを追加しました。
 ユ  入部

解字 金文は「舟(容器)+手術刀+印(患部からでた膿)」の会意。舟は容器の意。患部を手術刀で切り、出た膿(うみ)を容器でうける形。手術刀で身体の化膿した部分を切開し、中の患部や膿をぬきとる意。愈・癒の原字[字統]を参考にした。但し、字統は手術刀(針)を余としているが、余とは少し形が異なる。しかし、本来の、ぬきとる意味は、愈・愉・癒で表されるようになったので、仮借カシャ(当て字)され、しかり・はい、の意で使われる。現代字は、手術刀の上部が「入+一」に、下部の刀と膿が「くく」に変化した兪になった。新字体で使われるとき兪⇒俞となる。
意味 (1)しかり(兪り)。はい。 (2)姓。「兪氏ユシ」(兪姓の一族)「俞樾ユエツ」(清末の学者) (3)ますます。いよいよ。=愈。 (4)いえる。いやす。やすらぐ。=愈。

イメージ 
 患部の膿を「ぬきとる」(兪・愈・愉・癒・諭・喩・偸・鍮)
 「とりだす」(輸・揄・逾・踰)
 「形声字」(楡・渝・瑜)
音の変化  ユ:兪・愈・愉・癒・諭・喩・輸・揄・逾・踰・楡・渝・瑜  トウ・チュウ:偸・鍮

ぬきとる
 ユ・いよいよ  心部
解字 「心(心臓)+兪(ぬきとる)」の会意形声。手術で患部を抜き取り、心臓の鼓動が順調に回復すること。術後の経過がますます良くなること。
意味 (1)いえる。病気がなおる。=癒。 (2)いよいよ(愈)。ますます。「愈」(ますます多し)「愈数しばしば」 (3)まさる。すぐれる。
 ユ・たのしい  忄部
解字 旧字は、「忄(心)+兪(ぬきとる)」の会意形声。成り立ちは愈と同じ形だが、愈が体の回復を示すのに対し、愉は回復した心の喜びを表す。新字体は愉に変化。
意味 たのしい(愉しい)。たのしむ。よろこぶ。「愉快ユカイ」「愉悦ユエツ」(心から楽しみよろこぶ)
 ユ・いえる・いやす  疒部
解字 旧字は、「疒(やまい)+愈 (いえる)」の会意形声。愈は病がいえること。これに疒(やまい)をつけて病がいえる意を強めた字。また、傷が治って皮膚がくっつく意ともなる。新字体は癒に変化。
意味 (1)いえる(癒える)。いやす(癒す)。病気がなおる。「治癒チユ」「平癒ヘイユ」 (2)傷口がふさがる。くっつく。「癒合ユゴウ」(傷口がくっつくこと)「癒着ユチャク」(①皮膚がくっつくこと。②必要以上に組織や人が結びつくこと) 
 ユ・さとす  言部
解字 旧字は、「言(ことば)+兪(ぬきとる)」の会意形声。言い聞かせて疑念やしこりを取ってあげること。新字体は諭に変化。
意味 さとす(諭す)。言い聞かせる。教え導く。「教諭キョウユ」(学校の先生)「諭告ユコク」(さとし告げる)「諭旨ユシ」(趣旨をさとし告げる)
 ユ・たとえる・さとす  口部
解字 「口(いう)+兪(ぬきとる)」 の会意形声。口でしゃべって心のわだかまりをとってあげる意。諭と同じ意味だが、他のものにたとえて、さとす意もある。
意味 (1)さとす(喩す)。=諭。教えさとす。「喩告ユコク」(さとし告げる) (2)たとえる(喩える)。たとえ。「比喩ヒユ」(比べてたとえる)「隠喩インユ」(直接的でなく間接的な表現(暗示)でたとえる=暗喩アンユ
 トウ・チュウ・ぬすむ  イ部
解字 「人(ひと)+兪(ぬきとる)」の会意形声。中身を抜きとる人。また、その動作。
意味 (1)ぬすむ(偸む)。ぬすみ。「偸盗チュウトウ」(ぬすみ。ぬすびと) (2)むさぼる。「偸安トウアン」(目前の安楽をむさぼる)
 チュウ・トウ  金部
解字 「金(=銅)+兪(ぬきとる)」の会意形声。金は、ここで銅を含む鉱石をさす。この鉱石を製錬し純粋な銅をとりだしたものをいう。また、自然銅の純度の高いものをいう。なお、現在は銅と亜鉛の合金をいう。
意味 (1)製錬した純粋な銅。「真鍮シンチュウ」(純粋な銅。現在は銅と亜鉛の合金をいう)「鍮石トウセキ」(純度の高い自然銅の鉱石) (2)銅と亜鉛の合金。加工しやすくさびないので、広く用いられる。黄銅。「真鍮シンチュウ」(銅と亜鉛の合金)

とりだす
 ユ・シュ・おくる  車部
解字 旧字は「車(くるま)+兪(とりだす)」の会意形声。取り出したものを車ではこぶこと。新字体は輸に変化。おくる・運んで献上する・運んでおさめる意などとなるが、勝者に納める意から、負ける意ともなる。
意味 (1)おくる(輸る)。うつす。はこぶ。「輸送ユソウ」「空輸クウユ」「輸血ユケツ」 (2)献上する。税をおさめる。「輸財ユザイ」(財産や物資を政府に寄付する)「輸租ユソ」(租税を納める) (3)まける。「贏輸エイユ・エイシュ」(勝ちと負け。は勝つ輸は負ける)
 ユ  扌部
解字 「扌(て)+兪(とりだす)」 の会意形声。手で取り出すこと。ひきだす意となる。また、揄揚ユヨウ(ほめそやす)から転じた、からかう意もある。
意味 (1)ひく。ひきだす。ひきずる。「揄揚ユヨウ」(ひきあげる。ほめそやす) (2)もてあそぶ。からかう。「揶揄ヤユ」(揶も揄も、からかう意)
 ユ・こえる・いよいよ  辶部
解字 「辶(ゆく)+兪(とりだす)」の会意形声。とりだして持ってゆく意で、場所が変わるので、ある地点をすぎる、こえる意となる。また、愈ユに通じ「いよいよ」の意を表す。
意味 (1)こえる(逾える)。すぎる。「逾月ユゲツ」(翌月)「逾侈ユシ」(度をこしたぜいたく)「逾邁ユマイ」(逾も邁も、すぎる意)「日月逾邁ジツゲツユマイ」(月日がどんどん過ぎてゆくこと) (2)いよいよ(逾)。「江碧鳥逾白」(江(こう)碧(みどり)にして鳥(とり)逾(いよいよ)白く:杜甫)
 ユ・こえる  足部
解字 「足(あし)+兪(=逾。こえる)」の会意形声。足でこえること。逾と同じ「すぎる」意と、足で高いところを越える意がある。
意味 (1)こえる(踰える)。=逾。こす。すぎる。「踰年ユネン」(年をこえる)「心の欲する所に従い規矩(のり)を踰えず(論語)」 (2)のりこえる。とびこえる。「踰越ユエツ」(のりこえる)「踰牆ユショウ」(垣根(牆)を越える)

形声字
 ユ・にれ  木部
解字 「木(き)+兪(ユ)」 の形声。ユ(兪)という名の木で、にれ(楡)をいう。
意味 にれ(楡)。ニレ属の落葉高木の総称。ハルニレ・アキニレ・オヒョウなどがある。日本では一般にハルニレをさす。樹高は30 ~35メートル、直径は1メートルに達し、日本産のニレ属樹木としては最大である。材は堅く細工物に適する。「楡英ユエイ」(にれの花)「楡柳ユリュウ」(にれと、やなぎ)
 ユ・かわる  氵部
解字 「氵(みず)+兪(ユ)」 の形声。ユという名の川。現在の四川省重慶市域を流れる嘉陵江の古称である渝水をいう。かつて重慶一帯を渝州と言ったので、渝は重慶の略称として用いられている。また、水流が「かわる」「あふれる」意味で用いられる。
意味 (1)かわる(渝わる)。かえる。「渝盟ユメイ」(盟約をたがえる) (2)あふれる。「渝溢ユイツ」(渝も溢も、あふれる意) (3)川の名。地名。「渝水ユスイ」(重慶市域の嘉陵江の古称)「渝州ユシュウ」(隋唐代に今の重慶市付近に置かれた州)「思君不見下渝州(李白「峨眉山月歌」)」(君を思っても(君は)見え(不)ず(船は)渝州に下っていく)
 ユ  玉部
解字 「王(玉)+兪(ユ)」 の形声。ユという名の玉。美しい玉の名をいう。
意味 (1)美しい玉の名。「瑾瑜キンユ」(瑾も瑜も、美しい玉の意)「瑾瑜匿瑕キンユトクカ」(すぐれた才のある立派な人物でも小さな弱点がある。瑕カは玉のキズ。全体が素晴らしい宝石に小さなキズがあっても、価値は下がらないという意)「瑾瑜キンユ瑕(きず)を匿(かく)す」とも読む。(2)梵語(サンスクリット語)の音訳字。「瑜伽ユガ(yoga)」(古代インド発祥の瞑想を主とする宗教行法。現在の身体運動をともなうヨーガ(ヨガ)の源流)
<紫色は常用漢字>

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