久の解字をやり直しました。
久 キュウ・ク・ひさしい ノ部
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解字 久の字源は諸説ある。[説文解字]は、人の後ろからお灸をする形とする。白川氏は[字通]で、死体を後ろからつっかい棒を当てた形とし、柩(ひつぎ)と関連づけて説明している。一方、[新字源][漢字源]は、人と後ろに引っ張るしるしの乀がついた字とする。しかし、これらの説明でどうして「久しい(時間が長い)」という意味がでてくるのか。白川氏は久が死体だから死後の世界は永遠になると説明するが、この解字では素直にうなずけない。この字はもっと複雑な字から一部分を抜き出したものではないのか? そういう疑問をいだき、伝承古文字の中に手がかりはないか探ってみた。
明代の[六書通]は伝承古文字を集めた字典として知られる。ここに久の異体字として「镹キュウ」という字が収録されている。この字は「長(ながい)+久」の合字である。そこで、長の字と、この伝承古文字を並べてみよう。
長の字形(上)と、久の伝承古文字(下)
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長の甲骨文第一字は長髪の人の象形。第二字は老と同じく杖をついた長髪の人を象り、いずれも長髪の老人を象っている。金文は下部に杖を持つ形がうけ継がれ、篆文を経て現代字は長となったが、上部は長髪、下部は杖をもった人が変化した形。
一方、伝承古文字「長+久」①は、長の甲骨・金文の頭部と形が近く古形を残しているが、杖の変形部分は篆文にちかい。そして②の長の部分は篆文の形をほぼ継承している。そこで、両字は①が古く(金文と篆文のあいだの時期)、②は新しい形(篆文の時期)と思われる。また、①②の右側の人は両字ともお尻をタテの線の上につけて腰かけているようにみえる。そこで、镹の字は人がタテの線(字通のつっかい棒)に長時間、腰かけているさまと解釈することができ、時間がひさしい意となる。
この伝承古文字から人が腰かけた形が単独字として久となったと考えたい。なお、久のつっかい棒の意味として[周礼]に「(これを)諸牆ショショウに久して以て其の撓(たわ)みを観る」([武器の長柄を]壁に押し当ててそのたわみを調べる[全訳漢辞海による])との文に残っている。
意味 ひさしい(久しい)。長い間。「久遠クオン」「久故キュウグ」(長いあいだの知人)「永久エイキュウ」「耐久タイキュウ」(長く耐える)「恒久コウキュウ」(久しくかわらない。永久。)
イメージ
「ひさしい」(久・灸・疚・匛・柩)
「キュウ・クの音」(玖・粂)
「その他」 (畝)
音の変化 キュウ:久・灸・疚・匛・柩 ク:玖 ホ:畝 くめ:粂
ひさしい
灸 キュウ・やいと 火部
解字 「火(ひ)+久(ひさしい)」の会意形声。長いあいだ残る火。モグサ(ヨモギの葉を乾かして綿のようにしたもの)に火をつけて長いあいだ効果を持続させるお灸をいう。
意味 きゅう(灸)。やいと(灸)。皮膚の上にモグサを置いてこれに火をつけ焼き、その熱によって病を治療すること。「灸治キュウジ」(灸による治療)「灸術キュウジュツ」
疚 キュウ・ク・やむ・やましい 疒部
解字 「疒(やまい)+久(ひさしい)」 の会意形声。病気がながく続くこと。また、「病む」が形容詞化し「病(やま)し」⇒「病(やま)しい」(病気の感じ)⇒うしろめたい意へと変化する。
意味 (1)ながわずらい。やむ(疚む)。 (2)やましい(疚しい)。病気の感じがする。気がとがめる。うしろめたい。「負疚フキュウ」(気がとがめる)
匛 キュウ・ひつぎ 匚部
解字 「匚(はこ)+久(ひさしい)」の会意形声。久しい間(長く)納めておくはこの意。人の遺体をながく納めておく「はこ」の意でもちいる。現在の日本では火葬が中心だが、古代は土葬が中心で石や陶器(土器)・木などで箱をつくり、そこに遺体を納めてながく保存した。木製の匛が柩となる。
柩 キュウ・ひつぎ 木部
解字 「木(き)+匛(ひつぎ)」の会意形声。木製のひつぎ(匛)の意。
意味 ひつぎ(柩)。死体をいれる箱。「柩車キュウシャ」(ひつぎを乗せて運ぶ車)「霊柩レイキュウ」(霊[=遺骸]をいれたひつぎ)「霊柩車レイキュウシャ」
キュウ・クの音
玖 キュウ・ク 王部
解字 「王(玉)+久(キュウ)」の形声。キュウ・クという名の黒色の美しい石。また、同音の九キュウに通じ、九の代用字となる。
意味 (1)黒色の美しい石。「玖鏡クキョウ」(黒玉鏡) (2)「九」の代用字。 (3)地名。「玖珠町クスまち」(大分県)「玖馬キューバ」(キューバ共和国)
粂 <国字> くめ 米部
解字 「久(く)+米(め)」の形声。久(く)と米(め)を合わせてクメと読ませ、姓名や屋号を表す国字。
意味 姓名や屋号に用いる字。「粂くめ」(姓)「横粂よこくめ」(姓)「とり粂とりくめ」(屋号)
その他
畝 ホ・せ・うね 田部
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解字 篆文の俗字は畞で、「田(田畑)+十(タテとヨコの意)+久(=あし[夂]の変わった形)」 の会意。十はタテとヨコを表し、久は夂(あし)の変形とみて、農夫が田畑をタテとヨコに歩いて測った田の面積の意[角川新字源]。現代字は俗字の十 ⇒ 亠に変化した畝となった。字体が変遷しているので、語呂合わせ(下記)で覚えると便利。
意味 (1)土地の面積の単位。周代では6尺平方を歩とし、百歩を畝とした。約1.82アール。 (2)田畑。耕地。「田畝デンポ」(田畑)(3)[国]せ(畝)。面積の単位。1反(300坪)の十分の一。30坪(約1アール)。 (4)うね(畝)。畑で一定の間隔をおいて土を細長く盛り上げた所。「畝を立てる」(野菜などを育てるため畑に畝をつくる) (5)地名。「畝傍うねび」(奈良県南部の古地名)「畝傍山うねびやま」
覚え方 なべぶた(亠)た(田)く(久)で、うね(畝)。(なべぶたたく=鍋蓋焚く)
<紫色は常用漢字>
久 キュウ・ク・ひさしい ノ部
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解字 久の字源は諸説ある。[説文解字]は、人の後ろからお灸をする形とする。白川氏は[字通]で、死体を後ろからつっかい棒を当てた形とし、柩(ひつぎ)と関連づけて説明している。一方、[新字源][漢字源]は、人と後ろに引っ張るしるしの乀がついた字とする。しかし、これらの説明でどうして「久しい(時間が長い)」という意味がでてくるのか。白川氏は久が死体だから死後の世界は永遠になると説明するが、この解字では素直にうなずけない。この字はもっと複雑な字から一部分を抜き出したものではないのか? そういう疑問をいだき、伝承古文字の中に手がかりはないか探ってみた。
明代の[六書通]は伝承古文字を集めた字典として知られる。ここに久の異体字として「镹キュウ」という字が収録されている。この字は「長(ながい)+久」の合字である。そこで、長の字と、この伝承古文字を並べてみよう。
長の字形(上)と、久の伝承古文字(下)
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長の甲骨文第一字は長髪の人の象形。第二字は老と同じく杖をついた長髪の人を象り、いずれも長髪の老人を象っている。金文は下部に杖を持つ形がうけ継がれ、篆文を経て現代字は長となったが、上部は長髪、下部は杖をもった人が変化した形。
一方、伝承古文字「長+久」①は、長の甲骨・金文の頭部と形が近く古形を残しているが、杖の変形部分は篆文にちかい。そして②の長の部分は篆文の形をほぼ継承している。そこで、両字は①が古く(金文と篆文のあいだの時期)、②は新しい形(篆文の時期)と思われる。また、①②の右側の人は両字ともお尻をタテの線の上につけて腰かけているようにみえる。そこで、镹の字は人がタテの線(字通のつっかい棒)に長時間、腰かけているさまと解釈することができ、時間がひさしい意となる。
この伝承古文字から人が腰かけた形が単独字として久となったと考えたい。なお、久のつっかい棒の意味として[周礼]に「(これを)諸牆ショショウに久して以て其の撓(たわ)みを観る」([武器の長柄を]壁に押し当ててそのたわみを調べる[全訳漢辞海による])との文に残っている。
意味 ひさしい(久しい)。長い間。「久遠クオン」「久故キュウグ」(長いあいだの知人)「永久エイキュウ」「耐久タイキュウ」(長く耐える)「恒久コウキュウ」(久しくかわらない。永久。)
イメージ
「ひさしい」(久・灸・疚・匛・柩)
「キュウ・クの音」(玖・粂)
「その他」 (畝)
音の変化 キュウ:久・灸・疚・匛・柩 ク:玖 ホ:畝 くめ:粂
ひさしい
灸 キュウ・やいと 火部
解字 「火(ひ)+久(ひさしい)」の会意形声。長いあいだ残る火。モグサ(ヨモギの葉を乾かして綿のようにしたもの)に火をつけて長いあいだ効果を持続させるお灸をいう。
意味 きゅう(灸)。やいと(灸)。皮膚の上にモグサを置いてこれに火をつけ焼き、その熱によって病を治療すること。「灸治キュウジ」(灸による治療)「灸術キュウジュツ」
疚 キュウ・ク・やむ・やましい 疒部
解字 「疒(やまい)+久(ひさしい)」 の会意形声。病気がながく続くこと。また、「病む」が形容詞化し「病(やま)し」⇒「病(やま)しい」(病気の感じ)⇒うしろめたい意へと変化する。
意味 (1)ながわずらい。やむ(疚む)。 (2)やましい(疚しい)。病気の感じがする。気がとがめる。うしろめたい。「負疚フキュウ」(気がとがめる)
匛 キュウ・ひつぎ 匚部
解字 「匚(はこ)+久(ひさしい)」の会意形声。久しい間(長く)納めておくはこの意。人の遺体をながく納めておく「はこ」の意でもちいる。現在の日本では火葬が中心だが、古代は土葬が中心で石や陶器(土器)・木などで箱をつくり、そこに遺体を納めてながく保存した。木製の匛が柩となる。
柩 キュウ・ひつぎ 木部
解字 「木(き)+匛(ひつぎ)」の会意形声。木製のひつぎ(匛)の意。
意味 ひつぎ(柩)。死体をいれる箱。「柩車キュウシャ」(ひつぎを乗せて運ぶ車)「霊柩レイキュウ」(霊[=遺骸]をいれたひつぎ)「霊柩車レイキュウシャ」
キュウ・クの音
玖 キュウ・ク 王部
解字 「王(玉)+久(キュウ)」の形声。キュウ・クという名の黒色の美しい石。また、同音の九キュウに通じ、九の代用字となる。
意味 (1)黒色の美しい石。「玖鏡クキョウ」(黒玉鏡) (2)「九」の代用字。 (3)地名。「玖珠町クスまち」(大分県)「玖馬キューバ」(キューバ共和国)
粂 <国字> くめ 米部
解字 「久(く)+米(め)」の形声。久(く)と米(め)を合わせてクメと読ませ、姓名や屋号を表す国字。
意味 姓名や屋号に用いる字。「粂くめ」(姓)「横粂よこくめ」(姓)「とり粂とりくめ」(屋号)
その他
畝 ホ・せ・うね 田部
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解字 篆文の俗字は畞で、「田(田畑)+十(タテとヨコの意)+久(=あし[夂]の変わった形)」 の会意。十はタテとヨコを表し、久は夂(あし)の変形とみて、農夫が田畑をタテとヨコに歩いて測った田の面積の意[角川新字源]。現代字は俗字の十 ⇒ 亠に変化した畝となった。字体が変遷しているので、語呂合わせ(下記)で覚えると便利。
意味 (1)土地の面積の単位。周代では6尺平方を歩とし、百歩を畝とした。約1.82アール。 (2)田畑。耕地。「田畝デンポ」(田畑)(3)[国]せ(畝)。面積の単位。1反(300坪)の十分の一。30坪(約1アール)。 (4)うね(畝)。畑で一定の間隔をおいて土を細長く盛り上げた所。「畝を立てる」(野菜などを育てるため畑に畝をつくる) (5)地名。「畝傍うねび」(奈良県南部の古地名)「畝傍山うねびやま」
覚え方 なべぶた(亠)た(田)く(久)で、うね(畝)。(なべぶたたく=鍋蓋焚く)
<紫色は常用漢字>
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