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映画『東京家族』について

映画 『東京家族』 (その36)  朝吹真理子(1)

2013年08月07日 | 映画『東京家族』

※『きことわ』の文庫版が発売されて、それを読み、あわせて「Amazon」にレビューを投稿した。ここにそれを再録しておく。理由は以下の本文に、実は続きがあり、「映画」に言及する予定だからである。

 〔関連〕 当ブログ 『写経24 「YASOITU NIKKI(2013.7.16)』

※「Amazon」社は国際的企業であり、日本に税金を納めていないから利用すべきではない、という意見がある。もっともである。また報道では、「ワシントン・ポスト」の買収もするそうである。これらの意味するものも、この場所でこれから考えてみたい。

※投稿者の名前は、「白田81」というペンネームを使っている。当ブログの「白田ナオミ」との関係は、そのうち説明する(笑)。





 『きことわ』文庫版 朝吹真理子著 「カスタマーレビュー 『E2-E4』」(2013.8.7付)


 


 “音に合わせて道路灯が符のようにつづいた。たしかに時間のうえを走行していた。夢の時間軸ではいったいどの線上を走り過ぎているのか。エンジン音がひびき、どこからかつたう水のにおいに空気もしっとりと濡れる。”

 

    埋(うず)めても埋まらない“空隙”。
    ことばよりも音よりも、水で満たせばいいのだろうか。
    ひと壜全部、ひとりで食べつくした“紅しょうが”。
    こどもだったわたしたちは、海の潮に渇いていた。

 


 冒頭に引用した文章は、作中の永遠子(とわこ)と貴子(きこ)が、走る車のリア・シートにふたりでいた、夢幻の光景の場面だ。そこに流れる音楽は、「マニュエル・ゴッチングの『E2-E4』」。サンプル音源を聴いてみたら、あまりにもいい音楽なのでCDで買うことにした。まだそれが届いていないのでたしかなことはいえないが、チェスの棋譜を音楽に模したというこの曲は、永遠のように繰り返されるふたつの和音(対局者)の上を、色とりどりの音(手)がきらめく構造になっているように聴こえる。そして、それはそのまま、『きことわ』の小説に息衝いているようにも思える。
 
「夢」と「現」のふたつの(規則的でない)和音の上を、たとえば虫が、時が、植物が、数字が、雪が、幽霊が、古いことばが、鉱物が、雨音と心音が……
 ひとつだけ、「赤」という具体例を挙げてみよう。

 赤い靴下 → (紅葉しはじめたイロハモミジ) → 赤いバケツ → 一九九九年七月と赤字の入ったカレンダー → 赤黒いなめし革の装幀本 → 赤いマフラー → (頬が紅潮) → (花火の)赤…  → (自分の血流音) → (アスファルトで擦ったてのひらからは血が…)

 ことばは変奏を繰り返し、夢と現実の和音の上をかけ去ってゆく。

 

 この小説の題名『きことわ』とは、「きこ(ちゃん)、とわ(ちゃん)」という意味だが、読む前にはそれを、配送まで時間があったのでいろいろ考えた。

 1,「(なかよ)きことは(美しきかな) 武者小路実篤」
 2,「原田貴和子→KIWAKO→(並べ替え)→KIKO(TO)WA」

 1,は全くの的外れだったが、2,は小説の最後に、ある「音」が出てくるので、完全な間違いとも言い切れない気もする。

 
 けれども、小説を読み終えてからは、私はこう想った。

 3,「きこ(える、)とわ(のおと)」

 
 “ニクロム線からちりちりと音がする。こうして流れつづける音の一音一音はたしかに減衰して消滅しているというのに、終わりもなくまたはじまりもないように、いつまでも聞こえる。”

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