「ねえ知ってる?ひとは人生で平均4回しか引っ越ししないんだって」
というCMをはじめて目にした。
ホンマかそれ。と思ったぼくがさっそく検索したのは言うまでもない。
国立社会保障・人口問題研究所が5年に一度行っている人口移動調査の最新データ(第9回、2023年)の結果によると、日本人の平均引っ越し回数は3.24回。男女別にみると、男性が3.29回に対し女性が3.19回と男性の方がやや高くなる傾向がみられる。
つまり、川口春奈さんには申し訳ないが、「ひとは人生で平均4回しか引っ越ししないんだって」という彼女の言葉は正しくなく、ホームズのあのCMは、「ねえ知ってる?ひとは人生で平均3回しか引っ越ししないんだって」と修正されなければならない(笑)。
(出典:国立社会保障・人口問題研究所 第9回人口移動調査『結果の概要』より)
年齢別にみると、20歳代前半から40歳代前半にかけて急速に増加し、60~64歳まで回数が上昇する。降下するのはそれ以降、すなわち高齢者というお墨付きが与えられたころからである。
(出典:国立社会保障・人口問題研究所 第9回人口移動調査『結果の概要』より)
グラフの分類にしたがってぼくの場合を数えてみると、
5~9歳で1回
10~14歳で2回
15~19歳で2回
20~24歳で2回
25~29歳で5回
30~34歳で2回
と、これまでに都合14回の引っ越しをしている。日本人平均の4倍以上だ。
家財道具をほとんど持たず、関西から関東を経由して東北へと移動した20歳代後半がもっとも多いのは、今となっては懐かしい思い出でしかないが、ぼくの人格形成に引っ越しが影響を与えたと思われるのは、もっとも回数が多いそこではなく、保育園から小学校時代における、いずれも父の転勤に伴って強制的に移動させられた3度のそれだ。
よかったのかわるかったのか。どちらの側面もあり一概には言えないが、今のぼくをかたちづくっているものに、その引っ越しの影響がまちがいなくあることを思えば、総論的にはポジティブに解釈するべきだろう。
抗いようもない転居は、年端もゆかぬ子どもにはけっこう辛く悲しい。別れがあれば出会いがあると気分を変えてのぞみはするが、人の移動が少ない田舎のことなれば、移ったら移った先で待ち受けているのは、皆がみな、ウエルカムな人ばかりではない。そこでどう立ち居振る舞い、自己をどう処するか。
それが人格形成期である少年時代に何度かあったことが、その後の人生に影響をおよぼさないはずがない。
「ねえ知ってる?ひとは人生で平均3回しか引っ越ししないんだって。でもね、じっちゃんは14回も引越してるんだよ」
そんなこと、自慢にもならないけど、話のタネぐらいにはなるはずだ。全貌をあきらかにするには、3日3晩にわたってぼくと飲み明かさなければならないけれど。