日曜日、柚子の剪定をしていて、顔に傷をつくった。
どのくらいの人がご存知かはチトわからないが、柚子には鋭利な棘(とげ)がある
その棘がつけた傷である。
ことほど左様に、柚子の剪定作業は棘とのたたかいだ。しかし、アッチで刺さりコッチで引っ掻きするものだから、たいていの場合は、軽い痛みをともないつつ作業をつづけており、作業中には気づかない。作業が終わり、「さていっぱいやるか、おっとその前に風呂だ」というそのときに、はじめて気づくことが多い。
くだんの顔の傷もそうだった。
鏡の前に立ってみたら、右の鼻腔の下から上くちびるの右端に向けて、長さ2センチ程度の傷が一筋ついていた。堂々とした向う傷だ。その具合から判断して、しばらくは消えそうにもない。
あいにくと、翌朝は役所との打ち合わせが予定されている。
「あゝあ、かっこ悪いな」
そう思ったが仕方がない。若いころなら絆創膏でも貼ってごまかしたのだろうが、今となってはそのような選択肢もなく、なにより、後ろめたい傷ではないのだもの、そのまま出勤すると、自分の顔にそのような傷がついているのもすっかり忘れ、役所との打ち合わせを含めた諸事業務をこなした。
それからまた一日すぎたきのう、ある社外の女性(Aさん)と立ち話をしていて、とつぜん質問された。
「その傷、どうしたんですか?」
軽く説明したあと、あることに気づいたわたし。
「じつはね、その質問したの、アンタがはじめて」
「えー誰も訊かないんですか?」
「うん、なんも言わん」
「それって訊けないんですよ」
「訳あり、やと思うて?」
「そう」
「そうか、そうやなあ。それに・・・」
「なんですか?」
「オレって話しかけにくい?」
「それはわたしの口からは・・・」
「おんちゃんはヒジョーにさびしー、のだよ」
翌日、昼すぎのこと、これも会社の外でだ。
Bさんがニコニコしながら寄ってくる。
「その傷、どうしたの?」
待ってましたとばかりに相好を崩してわたし
「柚子のね・・・」
と言いかけたのをさえぎって彼
「誰も訊いてくれんのやろ?」
「なんで知っちゅうが?」
「Aさんがね」
「あ、やっぱり」
「だ~れもきいてくれんってアンタが嘆きよったって」
「そうそう。で、彼女、傷の理由をなんて言うた」
「言わん」
「え?」
「言わん」
「なんにも?」
「言わん」
ということで、4日目となってもなお「訳あり」のまま、傷はわたしの顔に鎮座ましましている。
繰り返すが、柚子の剪定作業でできた傷、である。
↑↑ インスタグラム ーisobegumiー
↑↑ 土木のしごと~(有)礒部組現場情報