市の俳句教室に一年通いましたが、進歩どころか少しも興味が湧きませんでした。そんな時、偶然に多留男会に入ることが出来ました。居心地が良くて、九年の月日が流れました。
今回、雲水先生から句集発刊のお話がありました時、下手な句を載せて良いものかと、一瞬思いました。けれども私の人生で残すものはこれしかない、と思い返しました。
掲句は、拙いのを承知の上で新米の私の句を、多留男先生が取り上げて下さいました。当然一点も入っておりませんのを「誰も取ってねえんだよなー」と、仰いました。勿論、愚作を承知で励まして下さったのでしょう。
この時、一人で歩いて行かなければならなくなった自分を励ますつもりの句なのです。あの時の、暖かい光景を思い出しながら、九年間休まず作句して参りました。後、いつまで続けられますことか…。今後共、よろしくお願い致します。
水芭蕉ふた株ばかりの白さかな
菜の花の咲きゐる椀の病院食
昼の鯉ぽこんと花を吐きにけり
坂下り風の道あり鳳仙花
簡単服少しおどけし妣の顔
海底に骨落としたる夏の夢
高原の霧のしづくを夏薊
一滴のレモン汁効き今朝の秋
ログ屋根を何実ころげる夜更かな
秋蝉の一声空のかぎりなし
海霧の暮れて顕はる島あかり
お持たせの菓子の紙音秋うらら
潔く裸身をさらす烏瓜
百幹の杉の霊気や行く秋ぞ
補聴器をはづし素の音秋ひそか
霧昇る天の岩屋を開けるごと
片隅にくらす気安さ石蕗の花
凭れきし髪やはらかや七五三
算盤の音のきこゆる冬障子
滴りて雪の笑窪となりにけり
梵鐘へ降り込む雪へ返す音
十二月氷砂糖をカチと噛む
仰ぎ見る大注連縄に雪の声
日のひかり風の詩きき掛大根
似顔絵の若き横目に年歩む
(岩戸句会第五句集「何」より 杉浦佳津)
スイカズラ(忍冬)