M資金」を巡り、過去最悪の被害と見られる事件が明らかになった。 6月11日、神奈川県警は66歳の男をはじめ3人を詐欺容疑で逮捕した。「国家予算外の秘密資金2800億円を提供する人を紹介できる」――会社役員の
【画像】同様の詐欺が原因で散弾銃自殺した芸能人
男性役員は資金提供を信じて3人に繰り返しお金を支払い、その額は30億円を超えた。しかし資金は提供されず、3人に連絡が取れなくなったという。
7・2・2020
いまだに多くの人が騙される「M資金詐欺」
「逮捕された1人は、企業の社長などにM資金の提供を持ちかけるブローカーとして古くから名前が知られ、元大物官僚の甥と言われていました。最近はファッションショーの運営などを手掛けるという会社を設立し、代表に就いていました」(M資金に詳しい調査会社社員)
M資金とは、戦後日本を統治したGHQ(連合国軍総司令部)が旧日本軍から接収したとされる、数兆円とも言われる巨額資金のこと。GHQ経済科学局のウイリアム・マッカート局長の頭文字を取ってM資金と呼ばれる。その資金は後に日本政府に極秘に返還され、経済発展のために特別に選ばれた経営者に提供されている、というストーリーが語られる。
M資金ブローカーが大企業の社長等に接触し、資金提供を持ちかける。「西武鉄道の堤義明さんもM資金を提供されて成功したのです」と、大物経済人の名前を囁き、手数料等の名目で金を要求する(堤義明氏がM資金を提供された事実は確認されていない) 。
近年ではM資金の名称が使われることは少なく、冒頭の事件では「基幹産業育成資金」という名称が使われた。他にも、「国家予算外特別委託管理保護資金」や「国家経済復興資金」などの仰々しい名称が使われる。
ベッドの上で散弾銃の引き金を引き……
70年代に活躍した俳優の故・田宮二郎氏も被害者だ。 主演ドラマ「白い巨塔」放送中の1978年12月、自宅のベッドの上で散弾銃の引き金を引いて自殺。43歳の若さだった。 「田宮氏は1000億円を超える資金が提供されると信じ、新規事業に投資し、不動産を購入しました。しかし資金が提供されることはなく、話を持ちかけてきたブローカーは消えてしまった。周りに迷惑をかけたことを苦にしていたと言われました」(同) 70年代以降、自動車メーカー、航空会社、大手鉄鋼企業などの社長や役員が次々とM資金を信じたとされる。
被害者は2015年以降は再び増えている
M資金の場合、被害に遭った経済人が名乗り出ることはほぼなく、その存在を信じた理由が明らかになることは稀だ。しかし時に大きく報じられ、詐欺として事件化することもある。それでも秘密資金の存在を信じる経済人は後を絶たず、2015年以降は再び増えている。
近年問題になることが多いのは、M資金の受け取りを了承する「確約書」への署名だ。 <資金者殿 この資金をお受け致します。宜しくお願いします> A4判の社用紙にこう手書きされ、名刺のコピーが貼られ、その下に署名・住所・携帯電話の番号が記される。パスポートの顔写真と署名が記載されたページのコピーが添えられていることも多い。
この数年で確約書に署名したとされるのは、食品会社社長、旅行会社創業者、衣料品メーカーの常務など、いずれも上場企業の幹部。その数は実に20人を超えた。
中には、大手ゼネコンの副社長、地方銀行の専務、信金の専務と、確約書に署名した後に突然辞任する経済人も出ている。 「お金を出したかは定かではありませんが、確約書にサインすると、しばらくしてそれがM資金ブローカーの間に出回る。ブローカーが次々と本人の携帯に電話をかけ、『こんなものにサインしていいのでしょうか?』と詰め寄る。その企業に出向くこともあり、逃げられなくなるのです」(同)
上場企業の会長が失踪
17年末、売り上げ2兆円を超える東証1部上場企業の会長が、体調不良を理由に突然辞任した。
半年前から、この会長の名前で署名された確約書と、会長の顔写真が写ったパスポートのコピーがM資金ブローカーの間で出回りはじめた。ブローカーが入れ替わり立ち替わり会長の携帯に電話を掛け、自宅を訪れる者もいたという。 「会長が電話に出なくなり、そして辞任。携帯電話も解約されました。しばらくして実家まで探しに行った人もいますが、帰っていなかった。失踪してしまったのです。確約書に署名したことを詰められただけではなく、もっと深い理由があるのでは、と……」(同)
2年半が過ぎた現在、親族に聞いたが「どこにいるか分からない」という。 M資金ブローカーは、今も動いている。 「紹介を通じたり、自宅を訪問したりして上場企業の社長に接触し、コロナ感染対策と称し、期間限定で7000億円を提供できると持ち掛けているグループがいます」(同)