2500万円の退職金を株式投資で「消滅」させた、82歳男性の「悲惨な老後」
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1/4(水) 7:03配信
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退職金の使い方はどうする?
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会社員にとって退職金は大切なお金ですが、厚生労働省による調査では2003(平成15)年の大卒男性の退職金平均は定年の場合で2499万円、2008(平成20)年には定年で2323万円、2013(平成25)年には1941万円、2018(平成30)年は1788万円(修正前)と残念ながら下がり続けています。
【写真】年金を「60歳、65歳、70歳、75歳」からもらって一番おトクなのは…?
そして減額されることなく退職金を受け取ることができた世代であったとしても、その使い方を誤ると悲惨な老後を迎えてしまいます。
「せっかく2500万円以上の退職金を一括で受け取ったのに、株式投資に失敗して手元にはほとんど残っていません。これからの老後の暮らしを考えると、どうしても不安が募ってきます……」
と話す筒井正志さん(仮名・現在82歳)も、その一人でした。筒井さんは建設会社 に38年間勤務していました。
家族は3歳年下のしっかり者の妻・信子さん(仮名)、現在は金融機関に勤め別居している息子の武さん(仮名)です。仲のいい家族だったのですが、現在は2人と筒井さんとはかなりぎくしゃくしているそうです。筒井さんはその事情を筆者に話してくれました。
長年勤務の会社を定年でサヨナラ
筒井正志さんが60歳で退職したのは、2001(平成13)年3月のことです。当時はちょうど「えひめ丸事故」やKSD事件が起こった年、
「自民党をぶっ壊す!」をスローガンに小泉内閣が誕生したのもその頃です。
現役で会社勤めしていたとき、筒井さんは勤務先で適格退職年金制度に加入していました。適格退職年金制度とは、会社が積み立てた掛け金を信託会社(信託銀行、保険会社など)が運用し、退職一時金・年金等の「給付」額を確定する確定給付企業年金制度の1つです。
当時の運用の予定利率は年5.5.%と、現在では考えられないくらい破格な利率でした。会社側も従業員に、5.5%で運用されたとして確定された金額で、退職一時金や退職年金を用意していました。
もちろん筒井さんの退職金も例外ではなく、退職一時金であれば2600万円、退職年金だと5年に分けて毎年520万円に5.5%で運用された利益を上乗せされて受け取るという、今から見れば破格の好条件でした。その当時、筒井さんは、退職一時金で受け取るか、退職年金で受け取るか迷ったと言います。
退職金、一時金で受け取る? 年金で受け取る?
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もし、筒井さんが退職一時金で受け取れば退職所得となり、2600万円から勤続38年として退職所得控除の2060万円を差し引いた540万円の2分の1、すなわち退職所得270万円に10.21%の所得税(27万5670円)がかかります。
一方、退職年金で受け取れば、5等分された520万円は公的年金等の雑所得373万5000円となり、所得税は37万7235円です。予定通り5.5%で運用されたとしても、運用益は税引き前で28万6000円なので、所得税の合計額はこちらの方が多くなりそうです。
なお筒井さんが退職した当時は、企業年金の制度が大きく変わるタイミングでした。というのも、規程により「掛け金を5.5%で運用する」前提で退職金額が確定されていたにもかかわらず、金融市場での金利は下がっており、当初の予定利率を達成できなくなっていたからです。
確定された額の退職金を用意できない企業は、足りない分を負債として決算書に載せなければなりません。市場の実態とそぐわなくなり、2012(平成24年)3月に適格退職年金制度は廃止されます。
筒井さんが退職した直後の2002(平成14)年には確定給付企業年金法は成立し、受益者(退職金受給者)の3分の2以上の同意を取り付ければ、給付金の減額など不利な条件変更も可能になりました。当時は掛け金運用の最低予定利率が5.5%から2.9%へと下がっていたので、退職金の減額は避けられません。
ただしすでに退職していた受給者に対しては、多くの厚生年金基金が減額せずに退職金を支払っていました。ギリギリで減額されずに退職金を受け取れた筒井さんたちは、非常にラッキーな世代です。
住宅ローンが残っていた筒井さん受け取り方
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迷った末、結局筒井さんは退職金2600万円を一時金で受け取ることにしました。約27万円の所得税を引かれ、約2572万円ものお金を手にしましたが、その時はこれが「悪夢の始まり」だとは夢にも思っていません。
その当時、筒井さんはまだ住宅ローンを抱えていました。1984(昭和59)年に3LDKの自宅マンションを購入する際に、変動金利で住宅ローンを借りたのです。借りた当時は8%だった金利もそれから3.5%まで下がり、支払いはだいぶ楽になっていましたが、変動金利なのでまた上がってしまうのが心配でした。
そこで筒井さんのファイナンシャル・プランナーの資格を持っている息子にも意見を聞き、退職一時金の一部を使い住宅ローンの残額1200万円を支払いました。
もし退職年金でもらっていたら?
住宅ローンを返済しても、手元にはまだ1300万円以上残っています。懸念だったローンが片付き安心した筒井さんは、すっかり気が大きくなりました。
そのタイミングで先述の通り年金制度が変わりました。すでに退職していた人であっても、退職年金で受け取っていた場合は新しい予定利率2.9%が適用され、退職金の総額が減っていたかもしれません。
「一時金として一括で受け取った自分の決断は正しかった」――妙に自信をつけた筒井さんは、新たな退職金の使い道を模索します。そして目を付けたのが、以前から気になっていた株式投資でした。
1300万円の退職金を受け取って、気が大きくなっていた筒井さん。あろうことか、某大手航空会社と食品会社の株に投資してしまったことで、退職金のほとんどを失う悲惨な事態を迎えてしまいます。
株にのめり込んだ筒井さんを襲う悲劇については、【後編】『退職金での株式投資に「大失敗」し、家族が「バラバラ」になった82歳男性の悲劇的な現在』で詳しく紹介しましょう。
以下はリンクで、