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先住民ヤノマミの人びとに医療を──ブラジル アマゾン最前線での医療援助

2024-11-29 | 先住民族関連

国境なき医師団2024-11-28 17:05

MSF施設の発足式における、先住民の人びとによるセレモニーの様子 Ⓒ Diego Baravelli/MSF

国境なき医師団(MSF)は、ブラジル北部ロライマ州で現地保健当局と協力してマラリア対策に取り組んでいる。MSFが拠点とするアウアリスという地域は、アマゾンの熱帯雨林に属する地域だ。MSFは、先住民ヤノマミの人びとが持つ「健康」感に寄り添いながら、医療援助活動を進めている。

先住民ヤノマミの保護区で

活動のなかで、MSFの医療チームは、コルルという先住民の村落に入った。そこに到着した際の光景は、忘れられないほどの興奮と喜びに包まれたものだった。多くの人びとが川辺で待ち、チームが船から降りて上陸する様子を熱心に見守っているのだ。

コルルは、ヤノマミという先住民の保護区にある。保護区全体は900万ヘクタールを超える広さで、ポルトガルの面積に匹敵する。ブラジル国内の先住民保護区の中でも最大規模だ。

2023年以降、ブラジル政府はこの保護区について、マラリアや栄養失調の流行を理由に、公衆衛生上の緊急事態宣言を発している。MSFのチームは、2023年4月から当保護区に入り、現地保健当局を支援してきた。現地では、違法発掘による環境破壊が健康危機を深刻化させている。

ヤノマミ先住民保護区に入るMSFのスタッフ Ⓒ Diego Baravelli/MSF

体重計の上ではしゃぐ子どもたち

ある日、そのコルルで MSFは、マラリア、下痢、スナノミ症など、この地域でよく見られる病気に対する定期医療・定期予防活動を実施した。診察を待つ人びと──女性、子ども、赤ちゃんが大半だ──が列を作っている。

地面がデコボコしているため、子ども用の体重計を水平に保つのも難しい。スタッフは、体重計をテーブルの上に置くという解決策に落ち着いた。ちょっとしたトラブルだが、子どもたちにすれば、体重を測るために抱っこしてもらう「楽しいイベント」になったようだ。

マラリアの予防と治療に重点を

アウアリス地域におけるMSFの活動は基礎医療が中心だが、なかでもコルルでは、マラリアの予防と治療に重点を置いている。ブラジル保健省によると、2024年第1四半期にアウアリス地域では、1622件のマラリア患者を記録した。これは、ヤノマミ保護区全体のなかでも最多だ。(なお、これでも、2023年の同時期と比較すると、患者数は26%ほど減少している)

アウアリス地域の拠点病院は、現地住民約5000人の医療ケアを担っている。ヤノマミ保護区の中でも、アウアリス地域は人口が最も密集した地域だ。それだけに、医療体制を改善することで、多くの人びとが医療にアクセスできるようになる。今年1月から7月にかけて、MSFのスタッフを含めた現地医療従事者たちが当地域で実施した診療件数は約6600にのぼる。

MSFは、保健当局とのパートナーシップの一環として、40万ユーロを投じて、現地診療所の改修と拡張に携わった。現地の人びとがマラリア治療を受けられるようにするのが目的だ。さらには、なるべく州都に患者を移送することなく、保護区内において質の高い医療を提供するためだ。

また、MSFは、先住民の村落を訪れて、マラリアに関する啓発活動、スクリーニング、検査活動も実施している。検査結果が陽性の場合、その場でただちに治療に取り掛かっている。

医師、人類学者… 多職種のチームで活動を展開

MSFの医療コーディネーター、カテリーナ・ガリツィオーリはこう語る。

「私たちの目標は、交通不便な土地であっても、できるだけ多くの人びとに手を差し伸べることです。すでに、この地域の村落はほぼ全て回ったところです」

こうした活動にあたって、MSFは約20名の専門家による多職種チームを構成している。そのチームの中には、医師、心理士、看護師、顕微鏡技師、ヘルスプロモーター、人類学者、異文化仲介担当者などが含まれる。

ブラジル北部・先住民ヤノマミの人びとに寄り添う医療を──異文化仲介担当の重要性とは【国境なき医師団】

現地の人びとは、マラリアを「シャワラ」の一種と考えている。「シャワラ」とは、「外部から持ち込まれた病気」を意味する。そして、シャワラは伝統的なシャーマンではなく、医師が治療すべきものと捉えている。

先ほどのガリツィオーリが、さらに語る。

マラリアは、このヤノマミ保護区のみならず、アマゾン全域における風土病となっています。この病気は、予防も治療もできます。マラリアの発生率を下げるためにも、啓発活動が不可欠です。

そのため、MSFのヘルスプロモーターと異文化仲介担当者が、各村落で健康講座を開いている。それでもなお、マラリアによる死者は依然として発生している。そのたびに、村落は悲しみに包まれる。

現地の人びとへの心理的社会的支援に取り組むMSF Ⓒ Diego Baravelli/MSF

悲しみを皆で分かち合う

MSFのチームがコルルへの訪問を終えて、アウアリスの拠点病院に戻ってきた日のことだった。早朝、危篤状態で病院に運ばれたばかりの2歳の子どもがマラリアで亡くなった。いつもはさまざまな言語が飛び交い、賑やかな雰囲気にある現場が、深い悲しみに覆われた。

つい数時間前、コルルでの医療活動中に子どもたちが楽しそうにしていた様子を思い出さずにはいられない。あの場にいた皆が喜びを共有していた。今は悲しみが共有されていく。

MSFの心理士デボラ・ゴンサルベスは次のように話す。

「私たちは、互いに分かち合うという観点から、悲しみという感情に向き合ってきました。現地の人びとは、健康というものを「ウェルビーイング」(心身ともに良好で満たされた状態)として捉えているように思います。つまり、村落の生活や周りの自然と深く結びついたものなのです。すべての生きとし生きるものは、互いに分かち合うコミュニティの一部なのです」

コミュニティの誰かや何かが不調になれば、それが全体に影響を及ぼします。MSFは、そうした包括的な視点を尊重しながら、心理的社会的支援を進めています。村落の人びとのウェルビーイングを維持することに重点を置いているのです。

ブラジルにおけるMSFの活動

MSFは1990年代にブラジルで活動を開始。当時アマゾン地域の先住民や川辺の村落でコレラが流行していた。1993年、MSFのチームは、マラリア流行を受けてロライマ州で活動を開始した。また、MSFは当時、医療を提供するだけではなく、医療従事者を育成する研修も実施。それ以来、移民コミュニティへのサポート、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応など、さまざまなプロジェクトに取り組んでいる。

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