『ライフサイエンス』 吉森 保 著
写真の左側の本です。
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今のライフサイエンス=生命科学の知見をわかりやすく解説してくれた本です。
病気の事を知るにはきちんとした科学的思考(科学的な考え方)が大切ということを説明してくれています。
新型コロナについてもその他の病気についても、今はお医者様や研究者の説明をしっかり理解できないと自分の身は守れない。それほど生命科学の進歩と自己判断の必要性が高まっているようになってきていると言えるのでしょう。
様々な情報が氾濫している中から取捨選択する時に、きちんとした知識がないとデマや嘘に騙されやすくなってしまいます。科学的なものにはその基礎にきちんとした因果関係がないといけません。そういう科学的なものの見方を意識する必要があるので、体や病気を知るための知識をこの本で知ってほしいという事。
そういう基礎的知識として、まず私たち高等生物の体を作っている単位である細胞の構造を詳しく説明しています。
今の新型コロナはウイルスによる感染症ですが、その他にも病気を引き起こす細菌、アレルギー反応、がんなど、多くの話題をきちんと理解するには生命科学の基礎である細胞の働きを知らないと結局よくわからないということです。
細胞の働きに欠かせない遺伝子についてもわかりやすく解説されています。
私はその昔高校生の時の生物の時間に、当時はそれほど古くない知識としてワトソンとクリックのDNDの二重らせん構造のことや、細胞がいかにそのエネルギーを作っているかというATP回路について聞いて、すごくすごく感動しました。
その頃は今では常識になっているそういう知識をそれまで得る機会がなかったので、生物の体の中で起こっている事がこんなふうに説明できるのか!と。
その感動があったので、生物学を勉強したいなと思ったのですが、私の行っている高校は国立大学用の勉強をしていなかったので、生物学のある大学に行くことができませんでした(浪人するほどの根性もなくて)
実は、生物学に近いかなと思って私立の獣医学部を受けました。
当時は獣医学部は大動物(畜産関係)の勉強が主だったし、ペットの医療に今ほど関心がなかった時代だったので、獣医学部は偏差値もそれほどではなかったというのもありましたが。
結局生物の研究はできませんでしたが、この本を読んで高校生の頃の感動を思い出しました。
そして、今ではその頃とは比べ物にならないくらいの科学的な解析が進んでおり、さらに細胞の機能や遺伝子の仕組みが詳しくわかってきているのが、とても面白かったです。
その上で細胞から見た病気を説明しています。細胞レベルからの説明でウィルスをはじめとした病原体からの攻撃やアレルギー、がんの時にどうなるかという事を知ると、今起こっている新型コロナについての理解もしやすいと思います。
どのように免疫が働くのか、どうなるとがんになるのか、というのもわかりやすく説明しています。
後半にこの先生の専門分野である「オートファジー」についても説明されています。
オートファジーは日本人の大隅良典さんがノーベル賞を受賞して言葉だけは有名ですが、私もちゃんと理解していなかったのだなとこれを読んで分かりました。
簡単に言うと、オートファジーは細胞の中で行われているリサイクル機能だそうです。細胞の中で行われている非常に多くの活動によって出てくる不要物を取り除いたり作り変えたりするための機能。それが上手くいかないことによって、様々な弊害や疾患が起こることもあるというもの。
オートファジーによって細胞が新陳代謝を行うので、この機能が低下することによっての病気もあるし、他の病気の時にもその働きが弱ってしまったり、異常になってしまったりと、病気の原因の一つに関わっている事がわかってきているそうです。
私が昔感動した生物の仕組みの探究はどんどん進んでいて、今ではとても高度になっていて分かりにくくもなっています。でも、その基礎を知っておくのは自分の身体を知り、病気を知る時に大切な事だと思います。
この本はなるべく専門用語を使わずに一般の人にわかりやすく、知っておくと良いと思われることを説明してくれています。
自分の身体や病気についてのきちんとした知識を持つか持たないかで、自分や家族についてのしっかりした判断ができるかどうかが左右されくるようになってきている今。この本は非常に役に立つ知識をしっかりと教えてくれる本だと思いました。