蹄鉄について、疑問はまーだまだあります。
自分の仕事は獣医なんですが、同じ小動物の獣医仲間の方が書いた、いささか刺激的なタイトルの本がこちら
この本には、実に面白いことが書いてある。獣医、というか、整形外科の手術は間違いだらけ、という風に改名した方がいいんではないの?と思うくらい。この本のテーマなんですが、「骨折の手術に金属のプレートを使うのは絶対にやめるべき」というのが要旨。骨折の手術といえば、というか、骨折すると当たり前みたいに手術だ、となるのはマスコミも悪い。いかにも手術すりゃ治る、手術しないと治らない、と言わんばかりの報道でね。これ、大間違いなんですけどね。
金属製のプレートを骨にくっつける骨折治療法をプレートテクニックというのだが、こんな感じなんです。金属の板(プレート)を骨に合わせて曲げて(骨の箇所ごとに色んな形のプレートを売ってますけど)、骨ネジという、これも金属性のネジでもってくっつけて骨折した部位が動かないように固定する、という治療。
この絵を見ると、いかにもきちんと治しました風なんですけどね。現実には、こうは絶対になりません。骨の微妙な(しかも個別性が高い)カーブにプレートをきっちり合わせるなんて不可能だし、そもそも、体内の生きた骨には当然ながら筋肉や腱ががっちり張り付いている。それを傷つけずにこんな風に金属板を張り付けることなんかできるわけがない。のは、ケンタを食べた事のある人なら分かると思います。
アスリートの方が骨にプレートを入れる手術をすると、まずその後の経過が良くない。水泳の荻野君なんかが代表じゃないかと思う。肘を骨折して、曲がってくっついたけど、それでも金メダル、ちゃんと治そうとして手術してから成績がガタ落ちになってしまったのは、おそらく手術の影響ではないかと疑っている。可哀そうに・・・・・。
例えばギブス固定程度だと、まず骨は曲がってくっつく。けど、生き物とは凄いもので、時間をかけると段々元に戻ってゆく。年単位の時間がかかりますけどね。これは、自分も動物で経験したことです。若い犬が骨折して、でもお金がないし、ということで、じゃあ、1か月ただケージに押し込めて安静を守らせる、ケージレスト、という方法を使ったら、とりあえず治った。10年くらい経過してから同じ個所のレントゲンを撮ってみたら、骨折の痕さえ残っていない。骨が綺麗に元通り、ということでね。
じゃあ、金属プレートの何が悪いのか?上の本を要約すると、
1)金属と骨は、強度も弾性も全く違う。違うもので固定すれば、必ずずれが生じて、生きた組織に炎症が起きる。骨ネジ周囲に骨炎が起きて全く治らない。プレーティングの後、痛みが引かないのは、それが理由。
2)骨は、骨を覆っている骨膜から栄養を摂って生きている。プレートは骨膜からの栄養供給を遮断する、結果、プレート下の骨は死んでしまう。死んだ骨は二度と再生されない。どころか、死んだ骨を吸収しようと体が働くので、結果、プレートの下の骨がボロボロになる。プレートを外しても、もう死んでいる組織だからどうにもならない。だから、プレートを外す手術してもリカバリーができない。
という事がメインの理由ですが、他にも色々理由はある。いい事がない、というのだけははっきりしているんです。
3年くらい前に左手首を骨折したんです。その時、骨折のレントゲン写真を見た整形外科医4人がそろって「手術しろ」って言うんですよ。厚労省のサイトを見ても手首骨折にはプレート手術を推奨している。でーも、それを読んでいて気づいたこと。「術後10年経過しても痛みがある」って書いてある!!じゃないか~~。そんな馬鹿な!!
楽器弾き(ヴァイオリンですけど)でもある自分としては、そんなのとんでもないぞ~~、やっぱり手術はやめたやめた、と医者に言ったら「知らんぞ~~」と脅された挙句、レントゲンを週一撮ってオシマイ。リハビリの指示もないし。対応の冷たさにも仰天したんですけどね、それよりも、なんでこう、手術しろ手術しろって言うんだ?と思いましてね。ああそうか、と思いついたこと。整形外科って手術=仕事なんですわね。手術しないで放っといてもまあ、治りますよ、なーんて言ったら、仕事が無くなっちゃうわけよ、だからか~。
で、今どうなってるかといいますとね。バッハの無伴奏を弾けるところまで左手は戻りました。日常生活の上では何の支障もない。重いフライパンだって普通に持てる。別に痛くもない。ヴァイオリン弾いて、そいつがリハビリになった、というわけですわね。もちろん曲がって引っ付いてますけどね。
だから、マスコミが時々、骨折後も普通に活躍している人を指して「手術もしないで骨折を治したすごい人」みたいな紹介をする時がありますけど、それが普通なんだってば。
で、この話と蹄鉄と、なんの関係があるのか、というと。蹄鉄も、蹄とは、強度も弾性も全然違うでしょ、という事。きちんと合わせることも現実には不可能でしょ、という事。装蹄師=装蹄が仕事だから、いやあ、別にこんなもん打たなくても大丈夫でっせなんて言ったら、仕事がなくなる、から装蹄が必要だとかなんとか言ってるんじゃないの、という事ですね。そっくりですよねえ。
最近は、歯科領域でも似たような話が出てきている。インプラント。絶対やっちゃいけません。額骨が溶解しちゃいますよ。インプラントは儲かるってねえ。だって、アフターメンテしなくちゃならない、そのためにしょっちゅう歯科に通う、儲かるわけよ。
参考:バッハ 無伴奏ヴァイオリンソナタ1-ここんとこ練習してた曲