CD番号 フィリップス476 7856~7857(2枚組)
収録年 1989年
評価(A+、A-、B+、B-、Cの5段階評価)
総 合 A- 晴朗、清々しさが特徴だが歌手陣にまとまりが欲しい
指揮者 A- ネヴィル・マリナー(1924~ )
管弦楽団 A- アカデミー室内管弦楽団
合唱団 A- Ambrosian Opera Chorus
ザラストロ A- サミュエル・レイミー
夜の女王 A+ チェリル・スチューダー
タミーノ A- フランシスコ・アライザ
パミーナ A- キリ・テ・カナワ
パパゲーノ A- オラフ・ベール
音 質 A+ 静かな暗闇の中から音がスッと立ち上がる印象
”聴きどころ”
☆夜の女王役スチューダーの華麗なコロラトゥーラ・ソプラノ
マリナーはイギリス出身で専門の音楽教育を受けた後、始めのうちはバイオリニストとして活躍し、その後指揮者に転じている。これまで膨大な数の録音を遺しており、実にレパートリーも広い。
このマリナー指揮のアカデミー室内管弦楽団は、あの有名な1984年第57回アカデミー賞受賞作品「アマデウス」のサウンドトラックにも起用されている。
室内管弦楽団にしては比較的スケール感を感じさせるオーケストラである。しかも、何ら過不足のない、自然さを感じさせる録音だった。
ザラストロ(バス)は欲を言えば、もっと声量が欲しい気がしたがまあこれでいいだろう。
タミーノ役のアライザはあの♯11のカラヤン盤で俎上に上げたが随分良くなっている。これほど歌唱力があったとは。
注目すべきは、パミーナ役のカナワで、一段格上の立派なソプラノを聴かせてくれた印象がするのだが、独唱癖があるのか、どうもこのオペラの中に溶け込んでいない感じを受けるのである。独り歩きして「浮いている」といった表現になるのだろうか。
第一幕よりも第二幕の方でその印象が強くなる。抑制したときの声質はいいが、高い音がややヒス気味で聴き辛いところがある。独唱者としての歌唱力とオペラでの歌唱力とは必ずしもマッチングをしないという面白い事例かもしれないと思った。
いろいろと言ったが、この魔笛には好感を持った。全体的にテンポがやや速めでリズム感がよく実に小気味よい。また、全編を通じて澄み切った秋空のような晴朗さと清々しさを感じさせる。
堂々とした本格派の魔笛を感じさせるもので、いくつかのほころびをうまくカバーした指揮者マリナーはやはり豊富な経験を十分生かす術を知っている練達の士と思った。