1990年のチャイコフスキー国際コンクールで史上最年少で優勝した女流ヴァイオリニストの「諏訪内晶子(すわない あきこ)さん(1972年~)。
当時の優勝の模様をビデオに録画した記憶があるが深紅のドレスが見事な演奏に花を添えていたのが強く印象に残っている。
3歳のときからヴァイオリンを習い始め国内のコンクールを総ナメにして新人の登竜門として最後の栄冠を勝ち取ったものだが、とにかく才色兼備とはこういう人のことではないかと思うほど。
以前にもこのブログで取り上げたことのある著書「ヴァイオリンと翔る」は音楽の道に深くまい進するヴァイオリニストの悩みと克服に至る過程を克明に描き、単なる自己修飾のきれいごとに終っておらず音楽に対する深い敬意と洞察に包まれた本だった。
「ヴァイオリンと翔ける」(2000年、NHK出版協会刊) →
その彼女がテレビに登場したのを久しぶりに観た。
と き 2008年12月13日(土) 10時~翌日の2時
チャンネル NHKBSハイビジョン103チャンネル
番 組 名 ウィ-クエンドシアター「NHK音楽祭2008」
ヴァイオリン 諏訪内晶子
指揮者 ウラディミール・アシュケナージ
管弦楽 フィルハーモニア管弦楽団
一見して、当時と比べて「ちょっと痩せたな~」という印象。そういえば、つい最近の新聞の週刊誌の広告見出しでスキャンダラスな記事が掲載されていた。
さすがに(週刊誌を)購入してまで中身を見る気はしなかったが、結婚して一児(長男)をもうけたものの、ハズバンドが前ダイエーオーナーの中内氏の身内と仲良くなり、夫婦仲がうまくいっていないという趣旨の見出しだった(と思う)。
「火の無いところに煙は立たない」という諺があるが、ファンのひとりとしてどうか事実であって欲しくないと願うもの。ヨーロッパを中心に活躍している彼女には、雑音のない環境でもっと国際的なヴァイオリニストとして活躍してもらいたいし、それだけの資質にも十分恵まれていると個人的に思っている。
今回の曲目「シベリウスのヴァイオリン協奏曲」の演奏も、音楽性豊かといえば月並みな表現になってしまうがピアニッシモの美しさが抜群で思わず聴き惚れた。
シベリウスが37歳のとき、いわば創作の絶頂期にあたるこの作品は北欧風のリリシズムに満ち溢れた名曲で自分の愛聴盤にもなっており次のようにいろんな演奏者のCD盤を所有しているがこれらの中でもトップクラスに位置づけできる勢い。
1 ジネット・ヌヴー 2 カミラ・ウィックス 3 ヤッシャ・ハイフェッツ 4 ダヴィド・オイストラフ(2枚) 5 サルヴァトーレ・アッカルド
また、今回バックアップしたフィルハーモニア管弦楽団は創立1945年のイギリスのオーケストラでもちろんベルリンフィルとかウィーンフィルには及ぶべくもないがこの演奏ならCD盤を購入してもいいとさえ思った。
演奏後、テレビ解説者によると彼女の弾いているヴァイオリンは1714年製ストラディバリウスで愛称「ドルフィン」(イルカ)と呼ばれているという。ヴァイオリンの裏側の板の表面の模様が「イルカ」の姿に似ており、「イルカ」が飛び跳ねるような勢いのいい音に特徴があって、かってはあの名人ハイフェッツが弾いていた逸品だそうで道理でいい音がすると思った。
しかし、同じヴァイオリンでも奏者や弓などが変わればまた違った音色が出るとされており、その要因を前述の「ヴァイオリンと翔る」の中に諏訪内さんが次のように記載している。
1 どのような弦を張るか
G、D、A、Eの4本の弦のうちたった1本の違いで全体の音色が一変する。さらに4本の弦すべてが同一メーカーがいいとも限らない。
2 弓との相性
弦と本体とに相性があるようにヴァイオリンと弓との間にも相性がある。
3 顎当てや肩当てにどのような素材を使用するか
4 楽器と弾き手との関係
奏者の体型、骨格、指の大きさ、太さ、柔らかさ、本人の感性など
今回の演奏は名器「ドルフィン」により諏訪内さんなりの音色を思う存分楽しませてもらったが彼女はまだ30代後半、もっと伸びしろがあると思うので順調に年輪が深まれば今後一流オーケストラとの協演が続々と実現し世界でもトップクラスのヴァイオリニストになる予感が大いにする。
日本人として超一流のレベルにある音楽家はまずピアニストの内田光子さん、そしてそれに続くのは、おそらく諏訪内さんではなかろうか。