CD番号 ドイツグラモフォンUCCG-3435/6(2枚組)
収録年 1955年
評価(A+、A-、B+、B-、Cの5段階評価)
総合 B+ 静謐の中に沈み込んでしまった魔笛
指揮者 B+ フェレンツ フリッチャイ(1914~1963)
管弦楽団 B+ RIAS交響楽団
合唱団 B+ ベRIAS室内合唱団/ルリン・モテット合唱団
ザラストロ A+ ヨーゼフ・グラインドル
夜の女王 A- リタ・シュトライヒ
タミーノ A- エルンスト・ヘフリガー
パミーナ A- マリア・シュターダー
パパゲーノ A- ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ
音 質 B+ (モノラル:台詞と歌唱は別人)
”聴きどころ”
夜の女王役「リタ・シュトライヒ」のスタジオ録音盤はこれだけ。
第一幕夜の女王のアリア「恐れずに、若者よ」
第二幕 〃 「地獄の復讐がわが心に煮えたぎる」
第二幕ザラストロのアリア「イシス、オシリスの神よ、願わくば」
〃 「この聖なる殿堂には」
私 見
一流の歌手が勢ぞろいしている割にはどうも華やかさ、楽しさが足りない。
指揮者の意図なのだろうが全編に亘ってできるだけ感情の移入を抑制して、淡々と進行している印象で宗教劇を意識しているのかもしれないがまるでお通夜のように静かで元気がない。
魔笛の解釈もいろいろあるが、このオペラは基本的に架空のおとぎ話の世界なので、もっとおふざけに近い自由闊達さがあってもよいと思うのだが・・・。
歌手陣のレベルは非常に高い。
ザラストロと夜の女王は本格的な大物同士の対決という感じで圧巻。双方とも十分な出来栄えで、特にシュトライヒは2つのアリアとも安心して聴けた。タミーノ役もこれで十分。パミーナ役も好演だ。
とにかく配役はいいのだが、どうも情感に欠ける。例えば、聴かせどころである第一幕のパミーナとパパゲーノとの二重唱”恋を知るほどの殿方には”は何だか急ぎすぎていて曲趣が削がれる。
たとえば、皆さん、ご静粛にというような一呼吸の間があって、さりげなくヴァイオリンのスタッカートに始まり”恋を知るほどの殿方には・・・・女と男ほど気高いものはない、二人の存在は神に届くのだ”というこの二重唱は、モーツァルトが作曲した中でも最も優れた愛の讃歌なのだから朗々と高らかに歌い上げて欲しい。
指揮者フリッチャイは、まるでこの部分を横目で見て急いでやり過ごす印象で、この対応がこのオペラ全体のあり様をよく象徴している。
荘厳さ、スケール感、メルヘン的な楽しさ、天真爛漫、澄み切った秋の空を思わせる晴朗さ、リズムやテンポの良さ、歌手達の熱気など残念だがいずれにも該当しない。