見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

アイスショー"Carnival on Ice 2023"

2023-10-09 21:24:34 | 行ったもの2(講演・公演)

Carnival on Ice (カーニバル・オン・アイス)2023(2023年10月7日、18:30~、さいたまスーパーアリーナ)

 今年の三連休は遠出の予定がなかったので、直前に流れてきた広告を見て、衝動的にチケットを取ってしまった。COIは何度か見に来たことがあると思って記録を探ったら、2010年、2011年、2015年に観戦していた。8年ぶりか~さいたまアリーナへのアクセスもすっかり忘れていた。

 出演者は、宇野昌磨、島田高志郎、友野一希、坂本花織、宮原知子、吉田陽菜、りくりゅう(三浦璃来&木原龍一)、吉田唄菜&森田真沙也、イリア・マリニン、ジェイソン・ブラウン、ケヴィン・エイモズ、モリス・クヴィテラシヴィリ、イザボー・レヴィト、マライア・ベル、ルナ・ヘンドリックス、キミー・レポンド、パパシゼ(パパダキス&シズロン)。そして、ちょっと別格な感じのステファン・ランビエル、荒川静香。注目の若手、現役バリバリ、レジェンドがバランスよく揃っていたので、これは見に行って損はないと判断し、その判断は間違っていなかったと思う。

 圧巻だったのは、前半最後のコラボプロ、ステファン、知子ちゃん、静香さんによる「ミス・サイゴン」。2022年のFOI(フレンズ・オン・アイス)で演じたプロの再演だという。噂には聞いていたけど、見ていなかったのでありがとうございます。フィギュアスケートの名プログラムって、伝統芸能みたいに何度でも再演してほしいし、別のスケーターに受け継がれてもいいと思う。はじめはステファンと知子ちゃんが登場。リフトもあり、スピンの共演もあり、アイスダンスみたいだった。それから二人が下がったあと、若草(若竹?)色のコスチュームの荒川静香さんが登場、パッショネイトなソロパート。再び二人が登場し、爆撃音の中、知子ちゃんと静香さんが氷の上に倒れるフィナーレ。だったかな? いろいろなメッセージがストレートに伝わってきて泣けた。

 その知子ちゃん、後半には全身ショッキングピンクのパンツルックで登場し、キュートに踊りまくってくれた。プリンスの「It's About That Walk」という曲だそう。この振り幅、素晴らしい。ステファンの「Simple Song」、パパシゼの長机プロ(今回は机でなく黒い布で覆った長箱)は、今年のFaOIの再演だったが、どちらも好きなプロなので、得をした気分だった。3階席ならではの見応えというか、氷上に身体を倒したステファンの妖艶なこと。現役選手たちの、高難度ジャンプを次々跳びまくるプロももちろん凄いのだが、私の見たいのは、そっちじゃないんだなあ…ということをあらためて感じてしまった。

 なお、ゲストアーティスト(EXILE TAKAHIRO、ハラミちゃん)が突如追加されたり、当日に座席の振替があったり、運営にはやや混乱した印象があった。一方で、コアなスケートファンでない観客を呼び込もうという努力は買う。今回、周りに男性客を複数見かけて新鮮な感じがした。

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初代国立劇場の思い出

2023-09-04 21:27:02 | 行ったもの2(講演・公演)

  半蔵門の国立劇場が、老朽化に伴う建て替え工事のため、2023年10月で「閉場」することになった。いまの劇場は1966年11月に開場したものだという。

 私が初めて国立劇場に入ったのは、高校生のときだ。高校1年生のときに歌舞伎教室で『俊寛』を見て、高校2年生のときに文楽教室で『伊賀越道中双六』を見た。歌舞伎はわりあい面白かったが、文楽は全く面白くなくて、実はずっと演目を忘れていた。馬が出てきた記憶だけはあり、塩原太助ものか?などと思っていたが、文化デジタルライブラリーの「公演記録を調べる」で検索したら、どうやら『伊賀越道中双六』らしい。高校生には地味すぎて退屈だった。

 しかし、大学院生時代に「文楽を見たい」という留学生に付き合って『近江源氏先陣館』を見たら面白くて、文楽ファンになってしまった。以後、ちょっと間遠になった時期もあったけれど、だいたい年1回くらいは文楽を見に通ってきた。舞楽や声明、民俗芸能、わずかながら歌舞伎公演を見たこともあるが、圧倒的に大劇場より小劇場に足を運んだ回数のほうが多い。

 学生時代は平日に来ることができたので、席を選ばなければ当日券で入ることができた。当時は、芝居見物とはそういうものだと思っていた。いま思い出したのだが、一度だけ、劇場に来てみたら満員御礼で呆然としていたら、知らない人に「余っているから」と券を譲ってもらったことがあったように思う。

 国立劇場は2階に大きな食堂があり、3階に喫茶室があって、カレーとスパゲティミートソースとそば・うどんなどが食べられた。確か初期の頃は、国会図書館の喫茶室と同じ業者で「MORE(モア)」という名前だったと思う。私は3階の愛用者で、幕間にずいぶんお世話になった。よく通る声のマスター、どこかでお元気にされているかしら。

 国立劇場へのアクセスは、半蔵門駅を利用することが多かった。なので、国立劇場の正面を見た記憶はほとんどなく、思い浮かぶのは、裏門の風景ばかりである。

 直線だけで構成された無駄のないデザイン、特に校倉造りを模した壁面はとても美しい。建て替えで、これ以上の建物ができるとはとても思えない。どうして、この芸術的な建物を「建て替え」なければならないのか、理解に苦しむところである。やっぱり、ホテルやレストランをつくって収益性を上げるため?

 それから、国立劇場のロビーは、大劇場も小劇場もさまざまな絵画や彫刻作品で飾られている。小劇場は文楽にちなんだ作品が多く、私が好きだったのは森田曠平による『ひらがな盛衰記(笹引の段)』。腰元お筆を遣うのは文雀さん。平成元年(1989)の作である。新しい劇場にも、どうかこれらの作品がきちんと引き継がれますように。

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(たぶん)さよなら初代国立劇場/文楽・寿式三番叟、菅原伝授手習鑑

2023-09-03 11:40:57 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 人形浄瑠璃文楽 令和5年8・9月公演 第2部(2023年9月2日、15:00~)

 建て替えに伴う「初代国立劇場さよなら特別公演」。2022年の9月公演からこのカンムリが付いていたので、慌てて見に行ったら、休館はまだ先と分かって拍子抜けしたが、いよいよ文楽は、今期が本当の「さよなら公演」になるはずである。演目は、第1部と第2部が『菅原』の通し。第3部が人気の『曽根崎心中』。私は『寿式三番叟』のおまけつきの第2部を選んだが、これがとんでもなく贅沢なおまけだった。

・『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』

 私の席は下手の端で、床(ゆか)から遠かったが、開演前、ずらり並んだ三味線の数で、これが「特別公演」であることが感じられた。プログラムの記載に従えば、鶴澤燕三、鶴澤藤蔵、野澤勝平、鶴澤清志郎、野澤錦吾、鶴澤燕二郎、鶴澤清方の7名。太夫さんは、プログラムだと、翁・豊竹咲太夫、千歳・豊竹呂太夫、三番叟・竹本錣太夫と千歳太夫、ほかに豊竹咲寿太夫、竹本聖太夫、竹本文字栄太夫となっているが、実際は、翁・咲太夫、千歳・錣太夫、三番叟・千歳太夫と織太夫だったと記憶する。1つの舞台で、このメンバーの声の聴き比べができるなんて、普通ありえない。すごい! みんな質の異なる美声である。咲太夫さん、舞台と床の間から出ていらしたとき、遠目に分からなかったが、声を聴いたら私の知っている咲太夫さんで安心した。人形は、千歳を桐竹紋臣、荘重な舞を舞う翁を桐竹勘十郎。かなり激しい動き(体力がないとできない)の三番叟を吉田玉勢と吉田蓑紫郎。華やかでめでたくて、楽しかった。

・『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)・北嵯峨の段/寺入りの段/寺子屋の段/大内天変の段』

 以前にも書いたことがあるが、私は小学生のとき、家にあった「少年少女世界の名作文学全集」の日本編でこの「寺子屋」の物語を読んだ記憶がある。同じ全集には秋成の「白峯」や「菊花の契」なども入っていて、なんというか名作(古典)というのは、いまの感覚とはずいぶん違うところがあるのだな、というのを子供ながらに学んだ気がする。

 「北嵯峨の段」は、菅丞相の御台所が隠れ住む山里に、時平の家来たちが現れる。八重(桜丸の妻)は奮戦むなしく命を落とし、御台所も絶対絶命と思われたところ、謎の山伏が時平の家来たちを蹴散らし、御台所を連れて去る(全編の筋を知っていると、山伏の正体は松王丸だなと想像がつく)。

 そして武部源蔵夫婦の家を舞台にした「寺入り」「寺子屋」。ものすごい悲劇なんだけど、無邪気な子供たちの様子が緊張の緩和剤になっていて、何度も笑いが起こる。吉田蓑二郎の女房千代は凛として美しかったし、吉田玉助の松王丸は(我が子の最期の様子を聴いたときの動揺と悲しみなど)現代人にもある程度納得できて、感情移入がしやすかった。「寺子屋」の切は呂太夫さん。むやみに声を張るタイプではなく、静かに語り始めるのだが、いつの間にか物語に没入させられる。

 「大内天変の段」はたぶん初めて見た。文楽の狂言にありがちな、最後は無理矢理めでたしめでたしで収めるヤツ。この夏、根津美術館に展示されていた『北野天神縁起絵巻』を思い出した。清涼殿落雷事件に巻き込まれたのは藤原清貫(即死)や平希世(重傷)なのだが、狂言では、死んだのは三善清行(きよつら)になっていて、清行、ちょっと可哀想。時平の両耳から二匹の蛇が現れる場面は、多くの絵巻で描き継がれているが、桜丸夫婦の亡霊ということになるのか。なるほど、なるほど。こういう古い伝説の焼き直し(二次創作)、巧いなあと感心する。

 本公演のプログラム冊子には、山川静夫(元NHKアナウンサー)が「ありがとう、国立小劇場」と題して寄稿し、初代吉田玉男と吉田蓑助の舞台の思い出などが語っている。児玉竜一氏の「初代国立劇場の文楽公演」は「第4回 二十一世紀の文楽」で、私の記憶にも残る新しい話題(テンペストや不破留寿之太夫の新作公演、大阪市の補助金問題、等々)が書かれており、興味深かった。これ、貴重な記録なので、第1回(令和4年12月公演)から全てどこかにアーカイブして、できればオープンアクセスにしてほしいなあ…。

 久しぶりにぎっしり埋まった客席で嬉しかった。まだチケットが取れるなら、ぜひ1人でも多くの方に見てほしい。話題の『文楽名鑑2023』も購入! 忘れるところだったが、隣りの席のお姉さんが幕間に読んでいたので思い出した。

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観音の大慈大悲/声明公演・長谷寺の声明(国立劇場)

2023-08-05 23:42:35 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 第62回声明公演『真言宗豊山派総本山 長谷寺の声明』(2023年8月5日、14:00~)

 長谷寺には何度か行ったことがあるが、これまで声明を聴く機会はなかったので、どんなものか分からないまま聴きに行った。今回のプログラム「二箇法用付大般若転読会(にかほうようつき だいはんにゃてんどくえ)」は、大般若経の転読と二箇法用(唄・散華)を中心とし、豊山派各寺院で、新春祈願などを主として様々な祈願に対応する法会として修されているそうだ。

 幕が上がると、中央には十一面観音の半身を描いた巨大な画幅。現在の本堂ご本尊が、天文7年(1538)に再興されたときに設計図として描かれた、等身大の「お身影(おみえ)」だという。説明してくれたのは、長谷寺・迦陵頻伽聲明研究会の川城孝道氏で、長谷寺の歴史・豊山声明・国立劇場の声明公演の回顧などをお話された。本公演のプログラム冊子には、第1回(昭和41/1966年)から今日まで、全62回の声明公演一覧が掲載されている。記念すべき第1回は、天台宗と真言宗の僧侶たちが協力して実現したもので、真言宗豊山派からは、まさに今回と同じ「二箇法用付大般若転読会」が公開された。法会を舞台上で観客の目にさらすことには、戸惑いもあったようだが、豊山派の青木融光師は、本堂にも劇場にも仏様はいらっしゃる、劇場では観客こそが仏様、とおっしゃっていたそうだ。

 以後、天台・真言の僧侶の交流による声明の研究が進み、国内外の作曲家や他の芸能とのコラボレーション、海外への発信も行われるようになった。プログラム冊子の記述で驚いたのは、中学校の音楽科教科書に東大寺修二会の「観音宝号」(南無観のこと?)が取り上げられたという話。へえ、私の時代は、中学高校の音楽で日本の伝統音楽に触れたことはなかったなあ。

 お話が終わって、あらためて法会の幕が開く。舞台の中央には、観客に正対する導師の壇。この三方を囲むように緋毛氈が敷かれ、大般若経らしい秩が置かれている。舞台奥には、出入り用の中央を空けて左右に7席ずつ。上手側に7席、下手側に8席。導師を含めて30人の僧侶が上堂して着座した。いずれもオレンジ色の袈裟をつけ、衣は黄・緑・紫で、とても華やか。はじめは、梵語の讃、云何唄(うんがばい、漢語の声明)、散華など、重々しく進むので、ちょっとウトウトした。

 それから導師の表白(漢文読み下し調、法会の趣旨などを述べる)があり、おもむろに大般若転読が始まる。長谷寺の転読は初めて見たが、薬師寺などと同じ方式で、黄色い紙の経典をさらさらと滝のように翻す様子がきれいだった。

 楽器はあまり用いないが、摺り合わせて鳴らすシンバルみたいな楽器と、ボーンと鈍い音を出す小さな銅鑼のような打楽器(あわせて鐃鈸/にょうはつ、と呼ぶ?)が、ときどき使われていた。二人組の承仕(小坊主)が黒子のように出入りして、必要なものを届けたり、片付けたりする。いつも顔の高さで合掌し、きびきび動く姿が微笑ましかった。

 転読のあとは「九條錫杖経」という、錫杖の功徳を説いた経典を全員で唱える。毎朝の勤行でも唱えるのだそうだ。4文字句を繰り返すところの多いリズミカルなお経で、承仕の一人が太鼓(釣太鼓)を力強く叩いて拍子をとっていた。特に「大慈大悲(だーいじだいひ)、一切衆生」というフレーズが耳に残ったが、プログラムの解説でも、これが長谷寺の声明の核心であることが述べられていた。

 個人的に驚いたことを2つ書き留めておく。今回、舞台で使用した大般若経は、江戸川区小岩の善養寺が所蔵する鉄眼版で、天明の浅間山大噴火の際、江戸川下流にも多くの死者が流れつき、その供養のために小岩・市川の人々が寄進したものという。私は小岩の生まれで、善養寺を遊び場として育った(善養寺のご住職にも可愛がってもらった)ので、浅間山噴火の犠牲者供養碑が境内にあったとことは覚えているが、鉄眼版の一切経があったとは知らなかった。もう1つは、声明公演で新作を手掛けた作曲家の中に近藤譲先生のお名前があったこと。母校の先生で、お世話になったことがあるのだ。

 今年10月から建て替えのため閉場する国立劇場。9月に小劇場の文楽公演は見に行く予定だが、たぶん大劇場はこれが最後だと思って名残を惜しんできた。ロビーに飾られている絵画や彫刻、どこかで預かって公開してくれないだろうか。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2023 神戸千秋楽"ライブビューイング

2023-07-01 23:16:39 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2023ライブビューイング(神戸:2023年6月25日、13:00~)

 私の一番好きなアイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)。今年は宮城公演1回と新潟公演2回を現地で見ることができた。最後の神戸公演は、金曜だけチケットが取れたのだが、仕事を休むことができず、泣く泣くリセールに出した(瞬殺で買い手が付いた)。日曜はライブビューイングがあることが分かっていたので、我が家から近い下町の映画館のチケットを確保した。前日にコンビニで発券したら、最前列の席で笑ってしまったが、このアイスショーに関しては贅沢は言わないことにしている。

 この日はFaOI2023の大楽で、プロスケーターのジョニー・ウィアがこのツアーを最後に引退することを表明していたので、何かとんでもなく「特別」なことが起こるのではないかという予感はあった。まず冒頭の群舞「History Maker」から、出演者がみんな特別な気持ちで滑っている感じがした。ディーン・フジオカさんが、歌の間に何かシャウトしたのを私は聞き取れなかったが、「We love you, Johnny, You're the history maker!」と叫んでくれていたらしい。ディーンさん、フィギュアスケートと接点を持ったのはこのツアーが初めてだと思うのに、何の衒いもなく、観客と出演者の思いを表現できてしまう素直な人柄と才能に惚れた。後半のMCでは「終わってほしくないですねえ、終わりたくない」を繰り返していた。

 ジョニーの「Creep」は、ここまで孔雀のような華麗な衣裳が見どころだったが、最終日、照明が明るくなると、リンク上にいたのは、ノーメイクに練習着(くたびれたタンクトップとスパッツ)のジョニーだった。これは泣いた。後半の「clair de lune(月の光)」は最後を飾る純白の衣裳。万雷の拍手を浴び、何度も何度も客席に手を振って退場した。退場口で他のスケーターたちが「Thank you Johnny」の看板?垂れ幕?を持って待っていたのは、このときだったかしら。

 そのほかの見どころを書いておくと、ステファンは「Simple Song」。最後に手首から先にだけ照明が当たる演出が好き。宮原知子ちゃんの「Slave to the music」を見ることができたのは嬉しかった。ディーンさんと田中刑事くんの「Apple」も大画面のおかげで魅力マシマシ。

 大トリは、中島美嘉さんと羽生結弦くんの「GLAMOROUS SKY」。大ヒットした映画『NANA』(2005年)の主題曲であるが、私はマンガも映画も、この頃、あまり興味がなくて、記憶に残っていない。なので、新潟公演で初見のときは置いていかれた気持ちでいたが、だんだん好きになってきた。中島美嘉さんも羽生くんも、軽々とジェンダーを越境していく感じが気持ちいい。ショープログラムとしてはハードな構成で7回ジャンプを跳んで全て成功させた。最後に大きなハイドロを描いて、原点に戻っていくのも美しかった。

 そして演技が終わったとき、羽生くんはすでに泣いていたように思う。フィナーレの群舞「STARS」はなんとか笑顔で乗り切ったんだけど、羽生くん、大丈夫か?と心配しながら画面を見ていた。以下は私の記憶の誤りもあるかもしれないがご容赦を。いつもの周回から一芸大会になり、ジョニーとステファンが向かい合わせのクリムキンみたいなスタイルで一緒に滑る技を披露。そのあと、Tシャツ姿でリンクに戻ってきた羽生くんとジョニーが並んでズサー(仰向けに氷上に滑り込む)を披露。

 それから会場アナウンス(女性)に応えて、ジョニーがマイクを取って会場に挨拶。会場アナウンスが「ジョニー、私たちからのプレゼントがあるのよ(英語)」と呼びかけると、会場が暗転し、観客の皆さんがスマホの明かりを点けて、ペンライトのように振ってくれた、感極まって涙するジョニーを多くのスケーターたちが取り巻き、抱き着き、ぎゅうぎゅうの団子状態になってしまったところに、もう一度、王子様衣装に着替えて、大きな花束を抱えた羽生くんが登場。しばらく気づいてもらえなくて、呆然としていた(笑)。ようやく花束を渡すと、ひとり緊張した面持ちでリンクの中央へ去っていく羽生くん。音楽がかかり、ジョニーのレガシー・プログラム「Otonal」のクライマックスを滑る。ジョニーと他のスケーターたちは、ステージの端に腰を下ろして、それを見ていた。ライビュのカメラは、羽生くんのパフォーマンス越しにスケーターたちを捉えていて、とてもよかった。「Otonal(秋に寄せて)」は競技プロとして羽生くん自身も滑ったことがあるが、分かる人によれば、ジョニー版の完コピ演技だったという。

 再び周回。坂本花織ちゃんがスマホを持ってきて、自撮りスタイルでみんなと記念撮影してたのはこのときかな(ジョニーのインスタにそれらしい写真あり)。最後に羽生くんとジョニーは、声を揃えて「ありがとうございました」を言って退場口に消えて行った。

 FaOIは、毎年、忘れられない思い出を残してくれるのだが、とりわけ今年は歴史の目撃者になった気がした。人は出会い、別れても、歴史は続いていく。来年はどんなショーになるだろう。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2023 新潟"

2023-06-20 19:51:05 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2023 in 新潟、初日(2023年6月16日 17:00~)/3日目(2023年6月17日 14:00~)

 アイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)新潟公演を見てきた。金曜は全日有休を取ったにもかかわらず、午前中は在宅でオンライン会議、PCを抱えて新幹線に乗り、車中でも仕事のメールを書いていた。それでも6年ぶりの新潟に来ることができて嬉しかった。初日は東側のSS席の真ん中付近。朱鷺メッセのSS席はアイスリンクが近いので、スケーターが大きく見える。「ヒスメ」で周回する羽生くん、「Simple Song」のステファンも間近に見えた。

 2日目はショートサイド後方のA席、やや西側寄り。リンク全景が把握でき、ステージとスケーターが一緒に視界に入るのがありがたい。

 出演スケーターは、Aツアー(幕張、宮城)から、山本草太、友野一希、荒川静香、フィアー&ギブソンがOUT、無良崇人、デニス・バシリエフス、宮原知子、坂本花織、パイパー・ギレス&ポール・ポワリエ(パイポ―)がIN。ゲストアーティストは中島美嘉さん、ディーン・フジオカさん、小林柊矢さんに交代した。音楽監督の鳥山雄司さん、バイオリンのNAOTOさん、キーボードの宮崎裕介さんは継続。

 金曜はBツアーの初日だったので、どんな楽曲・プログラムがどんな順番で来るのか、全く分からず、驚きの連続だった。アンサンブルスケーターが円陣をつくった状態から始まり、黒のボトムにロイヤルブルーの布を巻きつけたような衣装で次々にスケーターが登場。そのまま最初のコラボプロになだれ込む。ステージにはディーン・フジオカさん、アニメ「ユーリ!!! on ICE」の主題歌「History Maker」だった。私は、このアニメ、存在は知っていたけど見たことがなくて、主題歌を聴くのも初めてだった。それとディーンさんも、俳優としては知っていたが、こんなにパワフルな歌唱力の持ち主とは全く知らなかったので、ただ呆然。ディーンさんを載せたステージの一部がリンク中央に移動(ルンバと呼ばれていた)すると、その周りを、スケーターたちが跳びまわり、滑り抜け、技とスピードを競い合う。フィニッシュが各人のレジェンドプログラムの決めポーズだったというのは、あとで知った。

 ディーンさんは後半では、しっとり聴かせる「sukima」をステファンとコラボ、田中刑事くんとは熱い「Apple」を披露。ディーンさん、2日目のMCで、スケーターが素晴らしいので自分も観客のひとりのような気分になってしまう、いや、しっかり仕事しなくちゃ、と自分に言い聞かせていて、微笑ましかった。と思ったら、突然、中国語と英語でもコメント。中国語では、遠くから来てくれてありがとう的なことを言っていたと思うのだけど定かでない。最後の「難忘的表演」しか聞き取れなかった。

 なお、ステファンは、初日が「Simple Song」2日目はマーラーで、Aツアーのプロを2回ずつ見ることができた。ジョニーは2プロとも持ち越し。新潟公演のプログラムに羽生くんとの対談が掲載されていて、二人が最初に会ったのは、羽生くんがシニアに上がった2010年だという。この年はFaOIが始まった年でもあり、Wikiを見たら、最初のFaOI公演の開催地が新潟なのだ。あの頃、女の子みたいに華奢だったジョニーも、年齢を重ねて、ずいぶん体形も変わったけれど、ジョニーのスケートはジョニーのままで、プロスケーターとしての最後の演技を新潟で見ることができて感慨深かった。

 パパシゼは、前半のトリは「Roses」というピアノ曲プロ。甘く仄暗く不穏で、なんというか文学的。後半は映画みたいな長机プロを持ち越し。Bツアーから参加のパイポ―は、中島美嘉さんとのコラボ「桜色舞うころ」がびっくりするほどよかった。

 宮坂知子ちゃんは初日がステファンの「Slave to the music」の「完コピ」。躍動感にあふれ、素晴らしかったんだけど、私の座席は、クライマックスのスピンが正面のライトの直射に邪魔されてよく見えず、2日目こそしっかり見ようと思っていたら、別プロだった。デニスのコラボプロ「茶色のセーター」もよかったなあ。織田くんの「瞳を閉じて」もよかったし、今公演はコラボプロが全て私好みだった。あ~ハビの2プロ、ややエキゾチックな曲と、軽快でおしゃれなショーマン的な曲もよかった。

 それらを全て超えてしまったのが大トリ、中島美嘉さんと羽生くんのコラボ「GLAMOROUS SKY」ということになるのだろう。このプロのことは、今週末、神戸公演のライブビューイングを見てから書こうと思う。私は、初日、衝撃が強すぎて、ポカ~ンという状態だったのだが、徐々に魅力を噛みしめているところだ。

 初日の夜公演が終わって、徒歩で新潟駅方面に向かう途中、前方で女の子たちがきゃあきゃあ騒ぐ声が聞こえたので、近づいてみたらパパシゼのガブリエラさんが、ラフな黒いワンピース姿で、にこにこしながらコンビニに入っていくところだった。水色のTシャツ姿のハビエル・フェルナンデスは、連れの男性と駅のほうに歩いて行った。こういうのも地方公演の小さな楽しみ。

 あやうく書き落とすところだったが、両日とも最後は羽生くん渾身の「ありがとうございました!」を聞けた。初日は「みや!」というみやかわくん(宮川大聖さん)への愛ある呼びかけで場内が騒然となる場面も体験できた。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2023 宮城"

2023-06-10 20:49:52 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2023 in 宮城、初日(2023年6月2日 17:00~)

 今年もアイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)の季節が巡ってきた。昨年のチケット争奪戦には泣かされたが、プロ転向を表明した羽生くんが、矢継ぎ早に新たなアイスショーを立ち上げたこともあって、FaOIへの注目は、少しクールダウンしたように思う。それでも、やっぱり土日のチケットは入手困難。宮城公演は金曜しか当たらなかった。私は在宅で12:00まで仕事をしたあと、東京駅から新幹線で仙台に向かった。新幹線の車中でもPCを開いて仕事の続きをしていた。

 この日は台風2号の接近で、線状降水帯が発生し、山陽新幹線や東海道新幹線の運転見合わせが発生する大雨になった。まあ神戸や静岡の公演に当たらなくて幸いだったかもしれない。仙台駅からシャトルバスで、利府町のセキスイハイムスーパーアリーナに到着。FaOI 2019公演で来たときは、真夏のような青空で、お祭りみたいな露店の列をのぞいてまわるのが楽しかった思い出がある。今回は、サブアリーナに駆け込んで雨宿り。そのあと、少し開場を早めてくれたので、アリーナに移動した。座席は東側スタンドA席で、いちばんショートサイド寄り(ステージから遠い)のブロック。

 Aツアー(幕張、宮城)の出演者を書き留めておく。男子は、羽生結弦、織田信成、田中刑事、友野一希、山本草太、ステファン・ランビエル、ハビエル・フェルナンデス、ジョニー・ウィア。女子は、荒川静香、三原舞依。アイスダンスはパパシゼ(パパダキス&シゼロン)、ライラ・フィア―&ウィル・ギブソン。それにエアリアル(フライング・オン・アイス)のメアリー・アゼベド&アルフォンソ・キャンパと、AiRY JAPAN with BLUE TOKYOのチーム。アーティストはDA PUMPのISSAとKIMI、夏川りみ、福原みほ、バイオリンのNAOTO、そして音楽監督は鳥山雄司。

 私が長年、FaOIをお気に入りにしてきたのは、海外スケーター(特に男子)の演技を見ることが目的だった。それでいうと、今年の布陣はちょっと寂しい。もちろん、久しぶりのフェルナンデスは品よくドラマチックでカッコよかった。ランビエルは前半がマーラー交響曲第5番、後半が「Simple Song」(韓国のソプラノ歌手スミ・ジョーの歌唱)の2プロ。どちらも拍手さえためらわれる至高の演技だった。ゆっくりした一蹴りから、滑らかな軌跡が氷上に生まれ、それが永遠に続いていく。美しい夢を見ているようだった。

 今年でプロ引退を表明しているジョニーは前半がなつかしい「Creep」、孔雀のような虹色の衣装だった。後半は、これもなつかしいレディーガガの楽曲で始まり、しっとり終わる「clair de lune」、白鳥をイメージした純白の衣裳。全盛期に比べれば、体型も変わり、動作もモタつき気味だけど、やっぱりオンリーワンの魅力がある。フィギュアスケートって、少なくともアイスショーでは、こういう男女を超越した表現がありなんだ、ということを教えてもらった。本当にありがとう。

 あとはパパシゼ。前半のトリでは、福原みほさんの生歌「I Will Always Love You」(ホイットニー・ヒューストンの名曲)とコラボの王道プロ。後半の「In Line」は「机プロ」が代名詞になっているみたい。会議室にあるような長机(に見えた)を氷上に持ち出し、これを挟んで二人が演劇的な演技を繰り広げる。机を叩いて言い争ったり、座ったり、寝そべったり。もちろんダンスの見せ場も十分にある。

 荒川静香さんは、年々凄みと深みを増している気がしている。特に後半の「I’d Give My Life for You」(ミス・サイゴンから)は、戦場を思わせるヘリコプターの音、赤い照明から始まる。昨年の「ひまわり」もそうだったが、大きく感情が揺さぶられるプロだった。

 大トリの羽生くんはDA PUMPとコラボの「if…」。大きく身体を使って、激しく動く動く。最後は両足を前後に開脚した決めポーズ。ちょっとおばさんはついていけてないかもしれないが、若い子たちが大喜びだったので何より。そのあと、群舞の「USA」は分かりやすくノリノリで可愛かった。

 今回、ステージの一部がリンクの中央に移動する仕掛けを使っていて、賛否はあったけど面白かった。あと「AiRY JAPAN with BLUE TOKYO」のエアリアルも私は楽しめた。これから出演者も観客も代替わりしていくと思うので、いろいろ試してみていいと思う。でも、会場アナウンスが、いつもの声の方(蒲田さん)から変わっていたのは、ちょっと寂しかった。終演後は雨も小降りに。仙台駅前で遅い夕食を食べ、1泊した。

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「妖かし」大活躍/新・陰陽師(歌舞伎座)

2023-04-27 22:30:36 | 行ったもの2(講演・公演)

歌舞伎座 新開場十周年記念・鳳凰祭四月大歌舞伎:昼の部『新・陰陽師』(4月23日、11:00~)

 夢枕獏の小説『陰陽師 滝夜叉姫』をもとに、市川猿之助が脚本・演出を手掛けた舞台。4月に入ってから、これは見たいなあと思ってチケットを探したら、意外なことにまだ日曜のチケットがあった。残っていたのは1等席だけだったので、けっこうな出費になったが、思い切って購入した。

 本作は、歌舞伎座の新開場杮葺落公演(2013年)から約10年ぶりの上演だが、初演とは全く趣きを変えた「古典歌舞伎仕立て」のスタイルだという。私は初演を見ていないので、比較はできないが、全体としては「古典歌舞伎」の雰囲気が濃いように思った(あまり見ていないけど)。

 発端「賀茂社鳥居前の場」は朱雀帝の御代。東国では不作が続き、苦しい生活を強いられている民人は、左大臣に窮状を訴え出ようとするが、逆に捕えられてしまう。この様子を見ていたのは、平小次郎将門と俵藤太秀郷。将門は直接、東国の民を助けることを、藤太は都の官吏として善政を行うことを誓う。

 それから八年後。東国では将門が挙兵し、新皇を名乗っていた。将門討伐を命じられた藤太は、その務めを引き受ける代わりに、帝の寵愛を受けていた桔梗の内侍を所望する。藤太の願いは聞き届けられ、桔梗は一足先に東国へ下って将門を篭絡することを目指し、陰陽師の芦屋道満は藤太に鏑矢を授ける。場面代わって相馬の内裏。将門のそばには桔梗が侍っていた。将門は、訪ねて来た藤太に毒酒を供するが、桔梗が一計を案じて藤太を救う。将門は討ち取られたが、その首は虚空へ飛び去った。

 二幕目、将門没後の村上帝の御代。将門の軍師だった興世王(おきよおう)が宮中に現れるが、安倍晴明がこれを退ける。続いて、晴明の住まいに訪ねてきた源博雅は、町娘の糸滝を伴っていた。糸滝は、琵琶湖畔の三上山に大百足が出て困っていると告げ、晴明は、藤太に百足退治を頼むことを約束する。続いて、将門の首塚のある一条戻橋。将門の妹である滝夜叉姫と興世王が現れ、将門の首を掘り出す。追ってきた晴明、博雅らは大蝦蟇に襲われるが、晴明はキツネの眷属を召喚して逃れる。

 三幕目、三上山の山腹。山姥に育てられた大蛇丸(おろちまる)が藤太の家来となる。藤太は大百足を討ち取り、宝剣・黄金丸を手に入れる。続いて、貴船岩屋。滝夜叉姫らは将門を生き返らせようとするが、芦屋道満と興世王が将門を鬼とし、この世を魔界とする企みであることを知り、絶望して身投げする。興世王は藤原純友の正体を現し、道満は、晴明らを嘲笑って虚空に消えていく。

 蝦蟇やらムカデやらキツネやら、異類のものたちが跋扈するし、生首は表情豊かに喋るし、雷鳴がとどろき、火花が飛び散り、最後は道満(猿之助)が宙乗りで三階席の彼方へ消えてゆくし、趣向がいっぱいで楽しかった。ただ、私はどうせなら京劇くらい振り切った、アクロバティックな演出が見たいという気がした(ムカデ退治の場面)。それと、滝夜叉姫は、強くてカッコいい悪女かと思ったら(将門の腕を咥えて六方を踏む)、最後は兄の運命を悲しんで、滝壺に身投げしてしまうのが、ちょっと気に入らない。なお、江戸の語りものでは将門の娘だが、本作では将門の妹という設定である。将門は、東国民にとって反逆のヒーローなのに、晴明に簡単に調伏されてしまう(蘇生した肉体を焼かれてしまう)のも納得がいかない。最後は、将門こそ虚空に飛び立ってほしかった。

 私は、国立劇場では何度か歌舞伎を見たことがあるが、歌舞伎座は初めての体験だった。なるほど、お客さんの多くは、演目というより、ひいきの役者さんを見に来るんだなあ、というのがよく分かった。だから楽屋落ち的なくすぐりも大好きなようだ。私は、また歌舞伎座には来るかもしれないが、この世界にはあまり深入りしなくていいかなあ、と思った。

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アイスショー"Stars on Ice 2023"横浜公演千秋楽

2023-04-13 23:12:06 | 行ったもの2(講演・公演)

〇SOI(スターズ・オン・アイス)Japan Tour 2023 横浜公演(2023年4月9日 13:00~、横浜アリーナ)

 久しぶりにフィギュア・スケートを生観戦してきた。昨年7月のTHE ICE愛知公演以来である。11月に札幌のNHK杯を見に行くつもりでチケットを取り、宿とフライトも確保していたのだが、身内に不幸があって行かれなかった。まあそんなこともある。その後、プロに転向した羽生くんの怒涛のショーラッシュが続いたが、都合がつかなかったり、狙ったチケット抽選に落選したりしていた。そんな中で、なぜかこのショーは、発売開始からしばらく経ってもチケットが残っていて、楽に取れたのである。

 男子は、羽生結弦、宇野昌磨、三浦佳生、友野一希、ジェイソン・ブラウン、山本草太、イリア・マリニン、島田高志郎。女子は、坂本花織、宮原知子、ルナ・ヘンドリックス、三原舞依、渡辺倫果、島田麻央。ペアは、アレクサ・クニエリム&ブランドン・フレイジャー、三浦璃来&木原龍一(りくりゅう)。アイスダンスは、マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ(チョクベイ)、パイパー・ギレス&ポール・ポワリエ。かなり贅沢な面子だと思う。

 しかし横浜公演に先立つ大阪公演、奥州公演では、羽生くんが日替わりで「オペラ座の怪人」「阿修羅ちゃん」「あの夏へ(千と千尋の神隠し)」を滑ったことが、圧倒的に話題を独占してしまった。横浜だけ全4日の日程が組まれていたので、千秋楽は何を滑るか、わくわくしながら見に行った。

 ほかの出演者については、あまり事前の情報を得ていなかったので、会場でいろいろ発見があって楽しかった。三浦佳生くんの「美女と野獣」は、ショーとは思えない構成とスピードで攻めまくる感じが好き。友野一希くんの「こうもり」は軽快で楽しい。宮原知子ちゃんは、むかしステファン・ランビエールが滑っていたシャンソンの名曲「行かないで(ヌギッパ)」を披露。これが絶品。いま自分のブログを見返したら、知子ちゃんは、2022年のSOI東京公演で引退を表明したのだった。あまり話上手でなく、控えめな人柄なので、プロとしてやっていけるのか?と心配する声があったのが、今となっては嘘のよう。どんどん表現力に磨きがかかっている。

 島田高志郎くんの「ムーラン・ルージュ(Come what may)」も、品よく色気があって美麗。ランビエール先生直伝のスピンだなあ、と感じる。さらに宇野昌磨くんは「パダム、パダム」で、全体にフランス成分多めで、会場にはいないランビエール先生の存在感を強く感じた。

 「四回転の神」イリア・マリニンくんの演技は初めて見たが、決してジャンプだけの選手ではなく、ダイナミックで表現力豊かで見とれた。群舞では、日本の女子選手たちと一緒にベストにネクタイの制服姿で登場。「ハリー・ポッター」に出てくる男子学生の雰囲気で可愛かった。坂本花織ちゃんは、久しぶりに爽快な「マトリックス」が見られてテンションが上がった。この日はお誕生日で、観客からハッピーバースディの祝福も。三浦舞依ちゃんの「さくら」は、相変わらずあざといくらい愛らしい。小道具の花が文句なく似合う。あと、初めて見た島田麻央ちゃん、難しいジャンプをガンガン跳んでいてびっくりした。応援していきたい。

 オーラスの羽生くんは「阿修羅ちゃん」だった。鬼のようなステップ!ステップ!ステップ!で魅せる実験的なプロ。いや、途中で助走もなくきれいなジャンプ(3Lo)が入るのだが、え?跳んだの?というくらいにしか記憶に残らない。あとはひたすら氷の上で高速ステップを踏んで、観客を煽りまくる。私は3階スタンド席だったけど、会場中が大喜びの大盛り上がり。これは、プル様の「セッボン(sex bomb)」の景色を思い出すなあ…と思った。このプログラム、超人的な運動量だと思うのに、フィナーレで再登場したら、さらっと4T跳んで見せてくれたのにも驚いた。いま、体力的にも技術的にも最高に油が乗っているんだろうなあ。

 それから、大阪・奥州・横浜10公演をSNS発信で盛り上げてくれたジェイソンには深く感謝したい。出演者たちが退場口に消えたあと、最後に羽生くんとジェイソンが二人でリンクに戻り、手を取り合って挨拶していたのには納得。本当に楽しいショーだった。

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鑑賞歴を振り返る/文楽・曽根崎心中

2023-04-10 22:47:38 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和5年4月文楽公演(2023年4月8日、18:30~)

・第3部:近松門左衛門三〇〇回忌『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)・生玉社前の段/天満屋の段/天神森の段』

 久しぶりに『曽根崎心中』が掛かると知って、大阪まで見に行ってしまった。いい機会なので、これまでの鑑賞記録をまとめてみようと思う。たぶん初見は1984年2月の公演(大学院生時代)。それから、このブログに記録を残している2012年の公演より前に、もう1~2回見ているのだが、3年に1回くらい国立劇場に掛かっているので、もはやよく分からない。
・1984年:初代吉田玉男(お初)×吉田蓑助(徳兵衛)→絶命なし
・1985~2012年:不明  →絶命あり
・2012年:吉田蓑助(お初)×桐竹勘十郎(徳兵衛)→絶命あり
・2013年:『人間・人形 映写展』吉田蓑助(お初)×桐竹勘十郎(徳兵衛)
・2016年:NHKドラマ『ちかえもん』早見あかり(お初)×小池徹平(徳兵衛)
・2017年:桐竹勘十郎(お初)×吉田玉男(徳兵衛)→絶命なし
・2023年:桐竹勘十郎(お初)×吉田玉助(徳兵衛)→絶命あり

 文楽の舞台とは別に、2013年には写真と映像で文楽の世界を見せる『人間・人形 映写展』という展示会があったことも忘れられない。2016年のNHKドラマ『ちかえもん』で描かれた『曽根崎心中』の裏バージョンも楽しい記憶に残っている。

 『曽根崎心中』には、徳兵衛が覚悟の刀を振り上げた型で終わるパターンと、二人がパントマイムで「相対死に」を遂げて絶命で終わるパターンの2種類の演出がある。これについては、2017年の公演プログラムで咲太夫さんが詳しく語ってくださっているのが貴重な証言である。私は、若い頃は、絶命まで演じるほうが圧倒的にカッコいいし感慨深いと思ったが、だんだん「型」で十分じゃないかと思うようになってきた。今回は予想(期待)が外れて、絶命までを演じるパターンだった。水色の帯を(人形の)身体に巻き付けながら、寄り添い合って倒れる立ち回り、きれいにまとめるのは、なかなか難しいと思う。

 勘十郎さんのお初は、もちろん美しいのだが、ちょっと悟り過ぎというか、落ち着きすぎのきらいがある。もう少し若さゆえの無鉄砲を感じさせてもよいのではないか。玉助さんの徳兵衛は、運命に対して無力で無抵抗な感じがした。でも、よく考えればあまりに理不尽なこの悲劇が、美しいからといって享受され続けていていいのか、という気もした。

 床は生玉社前が三輪太夫と團七。團七さんは『ちかえもん』にも出演されていた方である。天満屋は安定の呂勢太夫と清友。天神森は、お初役の芳穂太夫、徳兵衛役の希太夫、美声の小住太夫ほか。天神森の出だしを覚えたのはいつだったか。今でもすらすら詞章が頭に浮かんでくる。名文だものね。

 終演後は、劇場向かいの「東横イン大阪日本橋文楽劇場前」に投宿。ちょっと贅沢な気分を味わった。

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