見もの・読みもの日記

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今年の夏は江南へ/西湖案内

2004-06-21 23:44:04 | 読んだもの(書籍)
○大室幹雄『西湖案内:中国庭園論序説』(旅とトポスの精神史)岩波書店 1985.11

 今年の夏は江南に行くことになりそうだ。そこで、古い本棚から引っ張り出して読み始めた1冊。

 私は江南の景勝地にほとんど行ったことがない。20年前、初めての中国旅行では蘇州が予定に入っていたのだが、「中国旅行は現地に行くまで分かりません」と釘をさされ、着いてみたら、案の定、蘇州はスケジュールから外されていた。そんな時代だった。

 杭州は旅の計画に入ったこともない。ただ、本書を読んで以来、この地名は深く記憶に留まっている。

 大室幹雄は、私にとって、中国史の澁澤龍彦みたいな存在だった。1981年の『劇場都市』に始まり、『桃源の夢想』(1984年)、『園林都市』(1985年)『干潟幻想』(1992年)『檻獄都市』(1994年)と続く中国”都市”シリーズを、私は少し遅れて90年代の半ばから読み始めた。老人と道徳家が幅を効かすアカデミックな中国史とは全く別物の、エキセントリックで艶治な、いわば極彩色の古代中国に魅惑されたものだ。

 最近の著者は、志賀重昂や江戸の漢詩文など、主に日本の風景論に関心を移しているようである。また中国のことを書いてほしいのにな...

 本書は、書物の中に遺された西湖ゆかりの読書人たちの事跡と、著者が実地に見聞した1980年代の中国旅行の風景とが、ゆるやかに共鳴し合って1つの作品世界を作っている。

 むかしは白楽天、蘇東坡、さらに後代へと続く「読書人パーセプション」の華麗な変遷と継続に眼を奪われつつ読んだ。

 今はかえって80年代の中国の実風景がいちいち懐かしい。日本と中国の圧倒的な経済格差。著者の年収を聞いて黙ってしまう若者。外国人旅行客を「外賓」と呼んで、慇懃にしかし徹底的的に隔離し監視する観光政策。そんな時代だった。

 日本がもはや「戦争」と「戦後」を過去にしてしまったように、中国も「文革」と「文革以後」を過去にしようとしている。

 それにしても、私が記憶している80年代の北京や洛陽、西安など北方の住民に比べて、ここに描かれた江南のひとびとは、当地の住人も旅人も、のびやかで晴れやかな感じがする。長い休暇を貰って新婚旅行に来ていた上海人のカップル。新疆ウイグル自治区から1人旅でやって来た王さんなど。江南というトポスがなせるわざなのかもしれない。
コメント
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