○橋本治「ひらがな日本美術史」その百十三 ただ「私は見た」と言っているもの 今村紫紅筆「熱国の巻」(芸術新潮 2005年4月号)
最新号の『芸術新潮』を衝動買いしてしまったのは、巻頭特集が「水墨サイケデリック」曽我蕭白だったからではない。今、いちばん気になる展覧会、愛知県立博物館の「自然をめぐる千年の旅」の紹介記事があったからでもない。最後までパラパラめくっていったら、今村紫江の「熱国の巻」の図版に眼がとまってしまったためである。何を隠そう、私はこの絵が大好きなのだ!
この作品、知らない人には説明がいる。実は普通の絵画ではない。全長9メートル余りの絵巻物なのだ。「朝の巻」「夕の巻」の2巻とも、文字はなく、ひたすら絵が続く。絵の中にも、特に際立ったストーリーやドラマはない。ただ光に満ち、夢のように美しい「熱国」の風景が続いていく。安野光雅の「旅の絵本」みたいに。
絵の諧調は、淡く輝くようなオレンジを基調に、緑の樹木と人家の赤い屋根が穏やかなコントラストを作り出している。橋本治がうまく言い得ているように「どこか大正っぽい」。児童文学誌「赤い鳥」とか、直接には、むかし読んだ小川未明の無国籍でエキゾチックな童話を思い出す。
橋本治は1960年代、高校を卒業した十代の頃に「熱国の巻」に出会ったという。私の場合は、もっとずっと遅い。私は東京国立博物館のホームページ上で、まず、この作品に出会った。何の予備知識もなかったが、あんまりきれいだったので、ダウンロードして、ときどきデスクトップの壁紙に使っていた。その後、博物館で、実際の作品を見たのはつい最近のことだ。
あれはまだ、東博のホームページが立ち上がって間もない頃だったから、ネット上のギャラリーで見られる作品は、今よりずっと少なかった。東博所蔵の膨大な名品の中から、この「熱国の巻」を取り上げてくれた当時の担当者の方に、私はとても感謝している。今後は、こういう作品との出会いをする人が増えてくるんだろうなあ。博物館・美術館のサイト管理者さん、がんばって。
■東京国立博物館 館蔵品ギャラリー
「熱国の巻」は、日本絵画>近代絵画から。(本日、ちょっと調子悪し)
http://www.tnm.go.jp/jp/gallery/type/painting.html
最新号の『芸術新潮』を衝動買いしてしまったのは、巻頭特集が「水墨サイケデリック」曽我蕭白だったからではない。今、いちばん気になる展覧会、愛知県立博物館の「自然をめぐる千年の旅」の紹介記事があったからでもない。最後までパラパラめくっていったら、今村紫江の「熱国の巻」の図版に眼がとまってしまったためである。何を隠そう、私はこの絵が大好きなのだ!
この作品、知らない人には説明がいる。実は普通の絵画ではない。全長9メートル余りの絵巻物なのだ。「朝の巻」「夕の巻」の2巻とも、文字はなく、ひたすら絵が続く。絵の中にも、特に際立ったストーリーやドラマはない。ただ光に満ち、夢のように美しい「熱国」の風景が続いていく。安野光雅の「旅の絵本」みたいに。
絵の諧調は、淡く輝くようなオレンジを基調に、緑の樹木と人家の赤い屋根が穏やかなコントラストを作り出している。橋本治がうまく言い得ているように「どこか大正っぽい」。児童文学誌「赤い鳥」とか、直接には、むかし読んだ小川未明の無国籍でエキゾチックな童話を思い出す。
橋本治は1960年代、高校を卒業した十代の頃に「熱国の巻」に出会ったという。私の場合は、もっとずっと遅い。私は東京国立博物館のホームページ上で、まず、この作品に出会った。何の予備知識もなかったが、あんまりきれいだったので、ダウンロードして、ときどきデスクトップの壁紙に使っていた。その後、博物館で、実際の作品を見たのはつい最近のことだ。
あれはまだ、東博のホームページが立ち上がって間もない頃だったから、ネット上のギャラリーで見られる作品は、今よりずっと少なかった。東博所蔵の膨大な名品の中から、この「熱国の巻」を取り上げてくれた当時の担当者の方に、私はとても感謝している。今後は、こういう作品との出会いをする人が増えてくるんだろうなあ。博物館・美術館のサイト管理者さん、がんばって。
■東京国立博物館 館蔵品ギャラリー
「熱国の巻」は、日本絵画>近代絵画から。(本日、ちょっと調子悪し)
http://www.tnm.go.jp/jp/gallery/type/painting.html