■細見美術館 琳派展VIII『俵屋宗達-琳派誕生-』
http://www.emuseum.or.jp/
細見美術館は、得意の琳派展である。そこそこの品揃えだが、展示替えが多くて、公式ホームページのTOPに挙がっているような名品を、一度に見ることができないのは惜しい。
しかし、伊年印『草花図襖』(京都国立博物館蔵)が見られたことで満足としよう。金地に繊細な草花を描いたもので、同趣の襖・屏風は多数あるが、その中でも極め付きの名品であるという。ゆるやかな弧を描くように、株分けされて配置された草花は、襖の開閉に連れて、ダンスのように表情を変えるはずである。
「伝統的なやまと絵の草花とは異なる種類を多く含み、中国の草虫図からの影響もうかがわれる」という解説が興味深い。なるほど。アザミ、鶏頭、タチアオイなど、描かれた草花で、最も目立つ色は赤なのだが、地色の金に中和されて、濃いピンク色に見える。これが、先日、静嘉堂文庫で見た余の『百花図巻』の色調に、とてもよく似ていた。
また、目をひいたのは「平家納経」。なぜ宗達が平家納経に関係したかというと、慶長2年(1602)、安芸城主福島正則が平家納経の修復を行うに際し、計3巻の表紙・見返し制作を命じられたのだという。うち2巻が展示されていた。本物でなく、田中親美制作の模造品であったが、これは(以前にも取り上げたとおり)原作を超えようかという迫力の逸品で、文句のつけようがない。
『化城喩品』の表紙(外側)は、地も文様も全て金で、あわあわとした流水文に、マッチ棒のような松の木が、はかなげに漂っている(ように見える)。『属累品』の見返し(内側)は、青い海に、白熱したような金の雲が湧き上がり、すらりと直立した緑の松は、椰子の木のようだ。今村紫紅の『熱国の巻』に似ている。
京都に現存する唐紙屋「唐長(からちょう)」伝来の、琳派文様の版木が展示されていたのは(見学客の、「お父ちゃん、唐長さんやわぁ」という声も)さすが京都だと思った。完成された「絵」の体を取る版木のほか、鹿だけ、モミジ葉だけのハンコみたいな版木もあって、これは、摺り師が紙面にどう配置するかによって、1回ごとに異なる構図が生まれる趣向である。
本阿弥光悦が嵯峨の豪商角倉素庵の協力を得て出版した「嵯峨本」は、八坂神社に伝わる100冊揃いが、少しずつ出品されていた。ふじ色、水色、はだ色など、いずれも地は淡い色彩で、これに、「唐長」の唐紙のような、白い胡粉の摺り文が入る。光の角度でようやく見えるほどの淡い文様である。
■建仁寺
もしかしたら、この時期、宗達の『風神・雷神屏風』の本物が見られないかしら、と思って建仁寺に寄った。残念ながら見られなかったが、2002年に描かれた小泉淳作画伯の『双龍図』(法堂大天井画)を久しぶりに見ることができた。うーん。迫力。平成の名品だと思う。私は鎌倉・建長寺の『雲龍図』より、こっちのほうが雄大で好き。
完成当時は、法堂の床にカーペットが敷かれていて、みんな、床に座り込んだり、仰向けに寝転んだりして見てたなあ。インドの寺院みたいでよかったんだけど、どうやら、その習慣は廃されてしまったようだ。ちょっと残念である。
参考:「唐長」のサイト(なかなか、モダンな作り)
http://www.karacho.co.jp/
(まだ続く)
http://www.emuseum.or.jp/
細見美術館は、得意の琳派展である。そこそこの品揃えだが、展示替えが多くて、公式ホームページのTOPに挙がっているような名品を、一度に見ることができないのは惜しい。
しかし、伊年印『草花図襖』(京都国立博物館蔵)が見られたことで満足としよう。金地に繊細な草花を描いたもので、同趣の襖・屏風は多数あるが、その中でも極め付きの名品であるという。ゆるやかな弧を描くように、株分けされて配置された草花は、襖の開閉に連れて、ダンスのように表情を変えるはずである。
「伝統的なやまと絵の草花とは異なる種類を多く含み、中国の草虫図からの影響もうかがわれる」という解説が興味深い。なるほど。アザミ、鶏頭、タチアオイなど、描かれた草花で、最も目立つ色は赤なのだが、地色の金に中和されて、濃いピンク色に見える。これが、先日、静嘉堂文庫で見た余の『百花図巻』の色調に、とてもよく似ていた。
また、目をひいたのは「平家納経」。なぜ宗達が平家納経に関係したかというと、慶長2年(1602)、安芸城主福島正則が平家納経の修復を行うに際し、計3巻の表紙・見返し制作を命じられたのだという。うち2巻が展示されていた。本物でなく、田中親美制作の模造品であったが、これは(以前にも取り上げたとおり)原作を超えようかという迫力の逸品で、文句のつけようがない。
『化城喩品』の表紙(外側)は、地も文様も全て金で、あわあわとした流水文に、マッチ棒のような松の木が、はかなげに漂っている(ように見える)。『属累品』の見返し(内側)は、青い海に、白熱したような金の雲が湧き上がり、すらりと直立した緑の松は、椰子の木のようだ。今村紫紅の『熱国の巻』に似ている。
京都に現存する唐紙屋「唐長(からちょう)」伝来の、琳派文様の版木が展示されていたのは(見学客の、「お父ちゃん、唐長さんやわぁ」という声も)さすが京都だと思った。完成された「絵」の体を取る版木のほか、鹿だけ、モミジ葉だけのハンコみたいな版木もあって、これは、摺り師が紙面にどう配置するかによって、1回ごとに異なる構図が生まれる趣向である。
本阿弥光悦が嵯峨の豪商角倉素庵の協力を得て出版した「嵯峨本」は、八坂神社に伝わる100冊揃いが、少しずつ出品されていた。ふじ色、水色、はだ色など、いずれも地は淡い色彩で、これに、「唐長」の唐紙のような、白い胡粉の摺り文が入る。光の角度でようやく見えるほどの淡い文様である。
■建仁寺
もしかしたら、この時期、宗達の『風神・雷神屏風』の本物が見られないかしら、と思って建仁寺に寄った。残念ながら見られなかったが、2002年に描かれた小泉淳作画伯の『双龍図』(法堂大天井画)を久しぶりに見ることができた。うーん。迫力。平成の名品だと思う。私は鎌倉・建長寺の『雲龍図』より、こっちのほうが雄大で好き。
完成当時は、法堂の床にカーペットが敷かれていて、みんな、床に座り込んだり、仰向けに寝転んだりして見てたなあ。インドの寺院みたいでよかったんだけど、どうやら、その習慣は廃されてしまったようだ。ちょっと残念である。
参考:「唐長」のサイト(なかなか、モダンな作り)
http://www.karacho.co.jp/
(まだ続く)