見もの・読みもの日記

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京都・秋の文化財見て歩き(3)

2005-12-02 08:25:25 | 行ったもの(美術館・見仏)
■京都国立博物館 特集陳列『和歌と美術-古今集1100年、新古今集800年記念』

http://www.kyohaku.go.jp/jp/index_top.html

 博物館の入口に「本日は無料開放日です(平常展のみ)」という札が掛かっていた。あれっ? ということは、この『和歌と美術』は、特別展ではなかったのか。私はうろたえた。だって、古今和歌集『本阿弥切』『曼殊院本』をはじめ、国宝・重文の古筆切が目白押しの(はずの)展覧会なのである。それが無料って...なんという太っ腹。しかし、特別展でないということは、今日は夕方5時で閉館(特別展開催中は6時閉館)してしまう! これは想定外である。あと1時間しかないではないか。

 慌てて、2階の特集陳列の部屋に飛び込む。まあ、この1部屋なら、1時間でなんとかなるだろう。しかし、それは甘かった。まず、水無瀬神宮蔵『後鳥羽院像』の前で立ち尽くしてしまう。教科書などでなじみの、あの肖像画である。福々しい頬、下がり気味の眉、小さな目鼻、とりわけ小さな口。少ない線で的確に個性をとらえた肖像画だが、正直なところ、現代人の目には、才気も覇気も感じさせない。これが日本浪漫派の重鎮・保田與重郎を動かし、丸谷才一に「最高の天皇歌人」と言わせた文学的英雄か、と思うと、不思議な感慨にとらわれる。

 この特集陳列は、予想外に絵画(特に歌仙絵、似せ絵)が充実していた。『後鳥羽院像』と同時代の『三十六歌仙絵』(佐竹本、上畳本)は、ずっと明晰な輪郭線を持ち、唇の赤が生々しい。

 ニューヨークのジョン・チャールズ・ウェバー・コレクションからの出品『時代不同歌合』は、同種の作品では、巻物で完存する最古のものだそうだ。どの人物も写実的・個性的で、表情がある。着物も美しい。女性像は、白い肌・赤い唇に、乱れた黒髪がかかり、ちょっと三流エロ劇画もどきに色っぽい。

 古筆では国宝手鑑『藻塩草』が、なんと14面ずらりと広げてあったのは、拝みたくなるような眼福であった。筆蹟鑑定を家業としていた古筆家に伝来したものだという。

 国宝『本阿弥切』は、本阿弥光悦がその一巻を所有 していたことからこのように呼ばれる。華やかな雲母(きら)摺りの唐紙に筆写したものだ。細見美術館で見たばかりの版木が記憶によみがえる。対照的に、『曼殊院本』は、青、藍など、主に寒色系の色紙を継いだもので、奥ゆかしい味わいがある。うーむ。源氏物語だったら、片や紫の上、片や明石の上ってところかしら。どちらも、意外なほど、縦幅が小さかった。

 ここまでで時間いっぱい。隣室の関連展示「平安古筆」は時間切れで見ることができなかった。通り過ぎただけの絵巻の室は、”似せ絵つながり”で『公家列影図』『高僧図巻』等が出ていたし、中国絵画は清代ものだが、いずれもよかった。どうも指頭画(筆の代わりに指を使って描く)の特集だったらしいだが、そんなことは別にしても、朱の『王昭君出塞指意図』いいなー。足が止まりかけるところを、無理やり素通りしてきた。もう1回、見に行きたいよー。
コメント
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