○根津美術館 特別展『筑前 高取焼 -古高取と遠州高取-』
http://www.nezu-muse.or.jp/
今回の特別展はパスしてもいいかなあ、と思っていた。高取焼って地味だし。そうしたら、ある筋より、「今ね、第二展示室には南北朝の仏画がずらっと出てるよ」という耳寄り情報を聞いてしまった。それは見逃すわけにはいかない...というわけで、今回は、どちらかというと常設展にひかれてやって来た。
とは言え、まず特別展である。高取焼は、江戸時代初期、筑前福岡藩の藩窯として開窯したもの。入口付近には、小さな長円形の茶入れがずらりと並ぶ。濃茶の地肌が、自然石そのもののようだ。握れば手のひらに、ひやりとした感触が伝わってくるに違いない。どれも同じような色調で、飽きるかなと思ったが、意外と飽きない。わずかな釉薬の垂れ具合が、山水画を見ているようで面白い。これって、私はいつの間にか、石を愛でる文人の極意を体得してしまったのかも。
順路の途中で、突然、大型の花入や水指が登場する。円満であるべき筒胴を、わざとへこませたり、ひしゃげたりしたモダンなデザインなので、おや、現代作家の作品かな?と思って、よく見たら、プレートに「early 17th century」とある。びっくりした。さらに茶碗になると、いったい、普通の茶碗を作る気があったのか、なかったのか、聞いてみたいような大胆奇抜なデザインが頻出する。Wikipediaによれば、この「歪みを取り込んで」「芸術性より興趣をそそる志向」が「古高取」の特徴だそうだ。
それから、第二室へ。なるほど、片側の壁一面に、室町・南北朝の仏画が勢揃いしている。『釈迦三尊十六善神像』が2枚。この、さまざまなキャラクターを盛り合わせたお買い得感が南北朝だ。1枚は、赤やピンクなど暖色系の残りが目立つ。文殊菩薩の獅子をはじめ、目の大きい、愛嬌のある顔をしたキャラが多い。もう1枚は、緑、青、金など、多様な色彩がよく残っている。その隣、龍の背に立つ「明星天子」は何者だか分からないし(虚空蔵菩薩の脇侍らしい)、さらに隣、よく肥えた弁財天の後ろに、蔵王権現と役行者が並んで控えているのはなぜ? という具合で、謎だらけ。いちいち頭をひねるのが、楽しい。
最後に、第二室の天井桟敷のギャラリーに上がった。畳敷きのオツな展示ケースは、ふだんは茶道具の展示が多いところだが、なぜか今期は塗り盆に徳利と酒杯が組み合わせて並んでいる。「まあ、仏画でも見ながらおひとつ」と誘われているようで笑ってしまった。ありがたく杯を受けたい気分だった。庭の紅葉も、もうしばらくは見頃。
http://www.nezu-muse.or.jp/
今回の特別展はパスしてもいいかなあ、と思っていた。高取焼って地味だし。そうしたら、ある筋より、「今ね、第二展示室には南北朝の仏画がずらっと出てるよ」という耳寄り情報を聞いてしまった。それは見逃すわけにはいかない...というわけで、今回は、どちらかというと常設展にひかれてやって来た。
とは言え、まず特別展である。高取焼は、江戸時代初期、筑前福岡藩の藩窯として開窯したもの。入口付近には、小さな長円形の茶入れがずらりと並ぶ。濃茶の地肌が、自然石そのもののようだ。握れば手のひらに、ひやりとした感触が伝わってくるに違いない。どれも同じような色調で、飽きるかなと思ったが、意外と飽きない。わずかな釉薬の垂れ具合が、山水画を見ているようで面白い。これって、私はいつの間にか、石を愛でる文人の極意を体得してしまったのかも。
順路の途中で、突然、大型の花入や水指が登場する。円満であるべき筒胴を、わざとへこませたり、ひしゃげたりしたモダンなデザインなので、おや、現代作家の作品かな?と思って、よく見たら、プレートに「early 17th century」とある。びっくりした。さらに茶碗になると、いったい、普通の茶碗を作る気があったのか、なかったのか、聞いてみたいような大胆奇抜なデザインが頻出する。Wikipediaによれば、この「歪みを取り込んで」「芸術性より興趣をそそる志向」が「古高取」の特徴だそうだ。
それから、第二室へ。なるほど、片側の壁一面に、室町・南北朝の仏画が勢揃いしている。『釈迦三尊十六善神像』が2枚。この、さまざまなキャラクターを盛り合わせたお買い得感が南北朝だ。1枚は、赤やピンクなど暖色系の残りが目立つ。文殊菩薩の獅子をはじめ、目の大きい、愛嬌のある顔をしたキャラが多い。もう1枚は、緑、青、金など、多様な色彩がよく残っている。その隣、龍の背に立つ「明星天子」は何者だか分からないし(虚空蔵菩薩の脇侍らしい)、さらに隣、よく肥えた弁財天の後ろに、蔵王権現と役行者が並んで控えているのはなぜ? という具合で、謎だらけ。いちいち頭をひねるのが、楽しい。
最後に、第二室の天井桟敷のギャラリーに上がった。畳敷きのオツな展示ケースは、ふだんは茶道具の展示が多いところだが、なぜか今期は塗り盆に徳利と酒杯が組み合わせて並んでいる。「まあ、仏画でも見ながらおひとつ」と誘われているようで笑ってしまった。ありがたく杯を受けたい気分だった。庭の紅葉も、もうしばらくは見頃。