見もの・読みもの日記

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お蔵出し・個人蔵の中国陶磁/泉屋博古館分館

2006-12-11 23:45:10 | 行ったもの(美術館・見仏)
○泉屋博古館分館 特別展『中国陶磁:美を鑑るこころ』

http://www.sen-oku.or.jp/

 地味な展覧会だと思っていたが、ようやく間に合った最終日、館内は意外に混雑していた。第1展示室に入った瞬間、清・康煕年製『五彩花鳥文瓶』(ポーラ美術館蔵)が目に飛び込んできた。いいなあ、これ。肥痩に富む描線。開きかけの白木蓮(?)も、太湖石も、ぐにゃぐにゃと不定形で、その収まりの悪さに、生命感が溢れている。いきなり、最初の作品に魅入られて、足が動かなくなってしまった。

 その後に続く明代の磁器は、庶民的で愛らしく、時に奔放で、創意に富んでいる。井上進氏が、出版文化史に寄せて述べられた「明末の自由」と「清初の粛正」の差異を、思い起こしながら眺めた。

 清→明と来て、私はようやく自分が逆まわりしていることに気づいた。慌てて、正しい先頭位置に戻ると、待っていたのは、北魏時代の『灰陶加彩官人』像。やや大ぶり(50センチくらい)の陶俑で、すらりとしたプロポーションは百済観音に似ている。官人とあるけど、男性なのか? 後代の宦官が被るような縦に長い帽子を被り、無髭で、アルカイックな笑みを浮かべている。『灰陶加彩駱駝』もおもしろい。重たい荷物を載せているのに、ちゃんと四つ足で立っている。唐三彩の駱駝のように様式化する以前の、武骨だがリアルな造型である。

 そのほか、私の好きな磁州窯『白地黒掻落し牡丹唐草文瓶』(イセ文化基金、ちょっと焼きが粗い)や、耀州窯の名品『青磁鳳凰唐草文枕』(静嘉堂文庫)が見られて、満足。南宋官窯の『米色青磁』も面白い。青磁なのに、茶粥のような色をしているのだ。

 第2展示室は、文字どおり、手のひらに載るような「小品」を特集していて、これが抜群に面白かった。『青磁波濤文盤』は、琳派みたいに瀟洒だし、『五彩松竹梅文盤』は、白地の美しさが柿右衛門のようだ。『白地紅緑彩蓮魚文碗』は、赤いおさかなが目立って、子どものお茶碗そのままだが、実は磁州窯である。

 この数年、国内の中国陶磁は、けっこう熱心に見てきたつもりだったのに、知らない作品ばかりだなあ、と思ったら、実は半数以上が個人蔵なのだ。ありがたい展覧会である。有名美術館の所蔵品と違って、こうした作品は、なかなか拝む機会が少ない。

 これは、ぜひとも図録を買って帰ろう、と思ったのだが、売り場の見本には、非情にも「完売御礼」の文字。うーむ。みんな、考えることは同じか。むかし、大倉集古館で、個人蔵の仏像コレクション展が開かれたときも、図録売り切れで買い逃したっけなあ、と過ぎたことまで思い出して、二重に悔しがったのであった。
コメント
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