見もの・読みもの日記

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よみがえるディティール/明治の話題(柴田宵曲)

2007-07-04 22:50:08 | 読んだもの(書籍)
○柴田宵曲『明治の話題』(ちくま学芸文庫) 筑摩書房 2006.12

 原本は、明治30年(1897)生まれの著者が、昭和37年に上梓したもの。「提灯行列」「憲法発布」あるいは「ミルクホール」「苗売り」「幻燈」など、硬軟取り混ぜた明治の風物について、それぞれ600~800字程度の短いエッセイを収録している。

 特に何かまとまった知見を得られるたぐいのものではない。ただ、性急な通史では窺い知ることのできない、当時の生活のディティールが浮かび上がる。特に、物売りの声、火の用心の口上、ニコライ堂の鐘のやかましさ(日本の寺院の鐘と違う)など、耳に感じるものが多いことが奥ゆかしい。あるいは土蔵の壁の湿り気、牛鍋の甘辛い匂い、かるた会の熱気なども、今ここにあるかのようによみがえってくる。その結果、自分も明治の人になったようで「気持ちがのんびり」するのが本書の効能である。

 著者の体験だけではなく、有名人の逸話、明治の小説や俳諧の引用もあり、今日では、あまり読まれない作家や作品が上がっているのも興味深かった。「鴎外夫人の作によれば」という表現がたびたび出てきて「え?」と思ったが、鴎外夫人(後妻)森しげは、小説家であり、雑誌「青鞜」の賛助員でもあるそうだ。北原白秋がカステラを題材にした新体詩はめずらしいが、食いしん坊の子規には、牛鍋、アイスクリーム、パン売りなど、食べもの関連の句が多数ある。

 作家のエピソードでは、漱石門下の人々が先生をルナパークの木馬に乗せようとする話が秀逸。また、漱石が大学の附属図書館で、話し声のうるさい館員に腹を立て坪井(九馬三)学長(文科大学長=文学部長)に書面で申し立てた、というエピソードが引用されている。原文は?と思って検索をかけたら、漱石の「(朝日新聞)入社の辞」が原典らしい。

 一方、明治の政治家のエピソードは、ここに書くに耐えないくらい、粗暴で野卑なものが多いが、それはそれで私は好きなのである。
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