○藤原帰一『戦争解禁:アメリカは何故、いらない戦争をしてしまったのか』 ロッキング・オン 2007.7
藤原先生のことは、かなり前から存じ上げていたが、著書を読み始めたのは2001年以降である。というか、同氏は、その頃から一般向けの著作活動を始められた。
『戦争を記憶する』(2001)『デモクラシーの帝国』(2002)『「正しい戦争」は本当にあるのか』(2003)と続く3年間の収穫は、いま振り返ると奇跡のようだ。それまでの学問的な蓄積を、一気に放出するような趣きがあった。この頃、私は(かなりの部分、著者の影響を受け)それまで全く縁のなかった政治学分野の印象深い本に出会い、読後感を後々まで残しておきたくて、このブログを始めたのである。
本書は、2001年11月(9.11テロ直後)から2007年3月まで、雑誌『SIGHT』の連載インタビューに応じたもの。インタビューアーは、音楽評論家の渋谷陽一さん(前著『「正しい戦争」は本当にあるのか』と同じ)と鈴木あかねさんだという。だから、学術総合雑誌の「○○先生にお聞きします」的な堅苦しさは微塵もない。「もうそのアメリカの正義がインチキだってバレバレじゃないですか」「マジでヤバい状況ですよね」という具合。答える藤原先生の話しぶりも平易でフランク。
ただし、研究と思索に裏打ちされた内容は重い。上滑りな発言はひとつもない。アメリカは対イラク戦争において、すばやく勝ちを収めたように見えて、占領統治に失敗して、長期的な泥沼にはまり込む、という予想も、著者が開戦当初から各所で語ってきたことで、取り立てて新しくはない。そして、現実は、日に日に予測のほうに引き寄せられている。
著者の軸足は、実質的なデビュー作『戦争を記憶する』以来、全くブレていないと思う。戦争が避けられない状況というのは確かにある。しかし、安易に理想主義と戦争を結び付けてはならない。不必要な戦争は避けなければいけない。これが著者の立場である。なぜなら、「権力の真空は、独裁政権を上回るほどの悲劇を作る」からだ。
我々は、こうした想像力に乏しい。武力介入を行う(支援する)からには、その後の「権力の真空」(の阻止)にまで、徹底して責任を持つ覚悟がなければならない。しかし、我々は、独裁政権を倒した(倒してもらった)あとに民主的政府を作れないのは、その国の民衆の文明程度が低いから、くらいの不遜な考えを、どこかに持っているのではなかろうか。
著者は、国際政治とは「非常に地味な世界」であるという。「平和だからって、暮らしが良くなるわけでも人生に希望が見えるわけでもない。ただ『戦争がなくて、ああよかった』という世界なんですよ」と。なるほど。いわば「ドブさらいみたいなもの」という比喩は自虐的だけど、でも、ただ無事であるために払われる努力って、実は最も尊いのだと思う。
藤原先生のことは、かなり前から存じ上げていたが、著書を読み始めたのは2001年以降である。というか、同氏は、その頃から一般向けの著作活動を始められた。
『戦争を記憶する』(2001)『デモクラシーの帝国』(2002)『「正しい戦争」は本当にあるのか』(2003)と続く3年間の収穫は、いま振り返ると奇跡のようだ。それまでの学問的な蓄積を、一気に放出するような趣きがあった。この頃、私は(かなりの部分、著者の影響を受け)それまで全く縁のなかった政治学分野の印象深い本に出会い、読後感を後々まで残しておきたくて、このブログを始めたのである。
本書は、2001年11月(9.11テロ直後)から2007年3月まで、雑誌『SIGHT』の連載インタビューに応じたもの。インタビューアーは、音楽評論家の渋谷陽一さん(前著『「正しい戦争」は本当にあるのか』と同じ)と鈴木あかねさんだという。だから、学術総合雑誌の「○○先生にお聞きします」的な堅苦しさは微塵もない。「もうそのアメリカの正義がインチキだってバレバレじゃないですか」「マジでヤバい状況ですよね」という具合。答える藤原先生の話しぶりも平易でフランク。
ただし、研究と思索に裏打ちされた内容は重い。上滑りな発言はひとつもない。アメリカは対イラク戦争において、すばやく勝ちを収めたように見えて、占領統治に失敗して、長期的な泥沼にはまり込む、という予想も、著者が開戦当初から各所で語ってきたことで、取り立てて新しくはない。そして、現実は、日に日に予測のほうに引き寄せられている。
著者の軸足は、実質的なデビュー作『戦争を記憶する』以来、全くブレていないと思う。戦争が避けられない状況というのは確かにある。しかし、安易に理想主義と戦争を結び付けてはならない。不必要な戦争は避けなければいけない。これが著者の立場である。なぜなら、「権力の真空は、独裁政権を上回るほどの悲劇を作る」からだ。
我々は、こうした想像力に乏しい。武力介入を行う(支援する)からには、その後の「権力の真空」(の阻止)にまで、徹底して責任を持つ覚悟がなければならない。しかし、我々は、独裁政権を倒した(倒してもらった)あとに民主的政府を作れないのは、その国の民衆の文明程度が低いから、くらいの不遜な考えを、どこかに持っているのではなかろうか。
著者は、国際政治とは「非常に地味な世界」であるという。「平和だからって、暮らしが良くなるわけでも人生に希望が見えるわけでもない。ただ『戦争がなくて、ああよかった』という世界なんですよ」と。なるほど。いわば「ドブさらいみたいなもの」という比喩は自虐的だけど、でも、ただ無事であるために払われる努力って、実は最も尊いのだと思う。