見もの・読みもの日記

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東アジアの文化交流/漢籍(国立公文書館)

2007-10-11 23:44:18 | 行ったもの(美術館・見仏)
○国立公文書館 平成19年度秋の特別展『漢籍』

http://www.archives.go.jp/

 国立公文書館には、明治以降の公文書のほか、紅葉文庫、昌平坂学問所、医学館など、徳川幕府由来のさまざまな古典籍が所蔵されている。和書はもちろん、漢籍も多い。しかし、一般には、公文書館に良質の漢籍コレクションがあるということは、あまり認識されていないのではないか。同館の過去の展示会リストを見ても、漢籍に的を絞った特別展は初めての試みと思われる。

 先週、三連休の中日に出かけてみたのだが、見学者は少なかった。過去の『大名-著書と文化-』とか『将軍のアーカイブズ』とか、江戸モノの特別展は、けっこう入っていたのになー。やっぱり「漢籍」じゃ普通の人は興味を抱かないか。それでも、展示は、漢籍を面白く見せようと、いろいろ工夫をこらした痕がうかがえた。たとえば、挿絵のある箇所を見せるとか。『礼記集説』は「男女七歳にして席を同じうせず」、『論語通』は「六尺之孤」、『孫子』は「風林火山」など、なるべく日本人になじみの箇所を開き、解説でも触れている。

 だが、私は、この解説がうるさく感じられた。徳川家康の遺訓「人の一生は重き荷を負いて遠き道を行くが如し」が『論語』から来ているなんて、そんなことよりも、目の前の資料が、いつの刊本で、どういう伝来を持つものか、という情報のほうが知りたい。けれど、解説プレートは、そういう書誌的情報の提示にあまり重点をおいていなかった。まあ、無料で貰える展示図録には、ちゃんと掲載されているので、そっちを参照すればいいのだが。

 また、木村蒹葭堂とか狩谷棭斎とか水野忠央とか、著名人の旧蔵書が数多く展示されていたが、ことごとく解説だけで済まされているのも物足りなかった。蔵書印とか奥書とか、証拠があるなら、そこが見たい。というわけで、何かとフラストレーションの残る展示会だった。

 興味深かったのは、中国古典の専門家には”二級品”扱いされがちな、和刻漢籍の貴重本が見られたこと。内閣文庫=”将軍のアーカイブズ”ならではの特徴だろう。慶長・元和・寛永の古活字版が4点。うち1点は、2009年の大河ドラマ「天地人」の主人公、直江兼続が出版した「直江版」である。縦長の文字と、広く空いた字間が、朝鮮本に似ていると思った。

 朝鮮本も多数出ていた。『戦国策』『陶淵明集』などの中国書も、近世の日本人は、朝鮮で出版されたものを入手して読んでいたことが分かる。中には、林羅山旧蔵『李太白文集』のように、通行本とは著しく異なる本文を持つものもあるそうだ(跋文を信じるなら、朝鮮では李白って流行らなかったんだなあ)。

 『句解南華真経』(刊行年代不明)は、ハングルの付された珍しいもの。日本人が、朱字・墨字で返り点や送り仮名を書き入れているが、「一二点」はどうも印刷らしく見えた。朝鮮本にも返り点があるのか?と思って調べてみたら、古い時代に「釈読口訣」という返り読みがあったようだが、当該資料の場合は、やっぱり日本人の書き込みらしい。
コメント
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