見もの・読みもの日記

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読書と大学/学問の下流化(竹内洋)

2008-11-18 22:03:10 | 読んだもの(書籍)
○竹内洋『学問の下流化』 中央公論新社 2008.10

 amazonのカスタマーレビューにきわめて適切な評が載っていた。「この本は、実際には竹内先生による膨大な書評や雑文をコンパイルしたもので、題名である『学問の下流化』についてストレートに論じているのはたった8ページにすぎません!(略)竹内洋マニアならば面白いのかもしれませんが、書名のテーマについての手堅いハードカバー本を期待するとかなり肩すかしを喰らいます」云々。そのとおりである。ネットで本を買うことを習慣にしている読者には、ゆきとどいた忠告だと思う。

 私は、本は必ずリアルな書店で立ち読みする習慣なので、ああ、これは書評が主体だな、ということは、十分了解した上で購入した。「私も読んだ」という本の登場率は、けっこう高いように思う。例を挙げれば、橋本健二『階級社会』、井上義和『日本主義と東京大学』、立花隆『天皇と東大』、高田理惠子『学歴・階級・軍隊』、福間良明『「反戦」のメディア史』、服部龍二『広田弘毅』、佐藤卓己『テレビ的教養』など。私の読書傾向って、教育社会学者の関心とこんなに重なるのか、と可笑しくなってしまった。いや、竹内先生が雑読派すぎるのかもしれない。

 むろん私が「読んでいない」本もある。天野郁夫『大学改革の社会学』は、書店で手に取りはしたものの、専門書ふうの装丁とボリュームにひるんでしまった。本書の「(見た目よりも)読みやすい」という書評に励まされて、やっぱり読んでみようかと思い直している。原武史『滝山コミューン1974』(講談社、2007.5)は、全く見落としていた。不覚! 生活圏に質のいい書店がないとこうなっちゃうんだなあ。

 書評以外の部分では、大学改革に関する随想が面白い。「大学の『教科書』の昔と今」は、専門的研究書を教科書という名目で科目履修生に売り付け、その丸写しを提出することで単位を買う、大学教員・出版社・学生のセコい三角関係を開陳したもの。こんな暴露話をどこに書いたのだろう、と思ったら『大学出版』という大学出版部協会の雑誌らしい。

 関連して思ったことは、日本の大学図書館で、理想に燃える図書館員は、アメリカの大学に見られる指定図書制度が日本にないことを、いたく問題視する傾向があるのだが、本書を読むと、そもそも「教科書」というものの性質が、日米の大学で全く違う、ということが分かる。アメリカの教科書は、基本的に単著で(→ここが重要)その学問の標準知識は全て書かれており、辞書代わりにもなる。こういう教科書が日本の大学に普及しない理由はいろいろ考えられるが、彼我のハビトゥスの違いを無視して、一部の制度だけ模倣しても意味がないことは自覚しておきたい。

 本書のところどころにのぞくお人柄や私生活の断片も楽しかった。奥様に海外旅行をねだられたり、コンビニで女子高生に「おやじ!」と怒られたり。竹内洋マニアとしては満足です。
コメント
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