見もの・読みもの日記

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転換の時代/戦後日本スタディーズ3:80・90年代

2008-12-24 23:54:53 | 読んだもの(書籍)
○岩崎稔ほか編著『戦後日本スタディーズ3:80・90年代』 紀伊国屋書店 2008.12

 60年にわたる「戦後日本」を総体的に捉え直そうという、野心的な企画である。それは学問的な野心というよりも、われわれが「いま」「これから」を生きるために「戦後」研究は不可欠な作業である、という強い問題意識に発している。そのことは③80・90年代→②60・70年代→①40・50年代という、時間遡及的な刊行順序にも現れている。

 冒頭の「ガイドマップ」では、成田龍一、小森陽一、北田暁大の3人が、80~90年代の社会・文化状況を多角的に振り返る。続いて、個別テーマに関する12本の論文。「国際政治」(山下範久)「国内政治」(小森陽一)「経済」(土佐弘之)「格差社会」(佐藤俊樹)などの大状況分析から「オウム」(遠藤知巳)「おたく文化」(森川嘉一郎)など、80~90年代の特徴的な主題へと配列されている。最後に、研究者コミュニティ外の語り手として、経営者の辻井喬氏、編集者の三浦雅士氏へのインタビューつき。著者の顔ぶれが私好みということもあるけれど、充実した構成だと思う。

 あらためて感じたのは、80年代が、大きな歴史の転換期だったということ。小森氏は、80年代の起点を1979(昭和54)年に置く。2月イラン革命、5月サッチャー政権誕生、10月朴正煕暗殺、12月ソ連のアフガニスタン侵攻など、冷戦構造の崩壊を予感させる重大事件が次々に起きた。北田さんによれば『機動戦士ガンダム』が最初に放映された年でもあるという(見てたよ!)。

 80年代、転換はゆっくりと着実に進行した。中曽根政権のもと、85~87年に三公社の民営化が行われる。21世紀の日本で失われた「公共」「福祉」「雇用・労働」問題の起点となる事件だった。そして、転換の「完成」ともいうべき、89年の東西冷戦終結。しかし、「冷戦」は軍事的衝突の危険性を孕んだ「戦争」の時代であったともに、ある種の「秩序」の時代でもあった。冷戦の終結は、「世界の無秩序化」を呼び込むことになる。より長期的な視点では、この80年代末を、百数十年における「近代化」に対する「脱近代化」の完成期、あるいは、資本主義的な世界システムから別のシステムへの移行期の始まりと考える論者もいるそうだ。

 私は、80年代にはもう成人だったから、これらの出来事を覚えている。けれども、文学オタクで社会的関心の薄い大学生だった私には、出来事の関連性や重要性が分かっていたとは言いがたい。その結果、続く90年代は、身近な日本の社会で起こり始めたさまざな事件に驚き慌てながら、坂を転げていくような10年間だったと思う。本書を読んで、いろいろな事項が整理されると、私はほんとに80年代を生きていたのかなあ、としみじみ思った。

 個別テーマでは、遠藤知巳氏を読んで、あらためてオウムについて考えてみたいと思った。また、韓国における「反日」の高まりに「人権を軸にした東アジアにおける対話と連帯」という肯定的な価値を見出そうとする玄武岩氏、上野公園という特異な場所に着目して、パブリック・スペースあるいはアジールの問題を論じた五十嵐泰正氏の論考が非常に興味深かった(東博が、グッチやルイ・ヴィトンなど企業のパーティ会場に使われているなんて、初耳!)。
コメント
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