見もの・読みもの日記

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東西をつなぐ美学/japan 蒔絵(サントリー美術館)

2008-12-27 23:32:47 | 行ったもの(美術館・見仏)
○サントリー美術館『japan 蒔絵-宮殿を飾る、東洋の燦めき-』展(2008年12月23日~2009年1月26日)

http://www.suntory.co.jp/sma/

 西洋では「japan」と呼ばれる漆器。その表面に、漆で絵や文様を描き、乾かないうちに金属粉を蒔いて定着させることを「蒔絵」という。類似の技術に「平文」や「螺鈿」があるが、蒔絵は日本独自の漆芸技法なのだそうだ(Wikipedia)。

 会場では、まず、古代~中世の蒔絵の優品と対面(厨子、経箱など)。続いて、本展の中心となるのは、安土桃山(=16世紀半ば、大航海時代)以降、西洋人を魅了し、ヨーロッパ世界に輸出された「南蛮漆器」「紅毛漆器」の数々である。印象的だったのは『IHS花入籠目文蒔絵螺鈿書見台』(京博所蔵)。おすすめは、展示ケースから2メートルくらい下がって見ること。螺鈿で刻まれたIHS(イエズス会)の紋章と、その周囲の放射線状の装飾が、奇跡のように燦然と輝くさまに驚く。暗めの会場照明が効果的。『花鳥丸紋蒔絵螺鈿書箪笥』も、クローズアップで眺めると、蒔絵の精緻な技巧に魅了されるが、少し離れると、ポツリポツリと施された螺鈿の輝きが、夕暮れ空の星のように慕わしい。

 本展の最大の見どころは、ヨーロッパの美術館が所蔵する「蒔絵」の大規模な里帰り出品である。いずれも絶対王政時代の王侯貴族のコレクションに由来するものだ。賢明な女帝として知られるオーストリアのマリア・テレジアは「ダイヤより蒔絵」がお気に入りだったそうだ。あ~なんか、分かるなあ~。大人の女性にふさわしい好みだと思う。彼女のコレクションは、娘のマリー・アントワネットに伝えられる。技巧を凝らした小箱が多い。ポンパドゥール夫人旧蔵の櫃(ファン・ディーメンの箱)は有名なものらしいが、蒔絵による人物風景図は、かなりヘン。獅子像を配した中華風の門前で、舞楽を舞っているし、室内には背もたれのある貴人の座が見える。日・中・朝の文化がごちゃまぜ。

 ヴェルサイユ宮殿美術館からは、蒔絵のトイレット・ボックス(!)という珍品も出品されている。私が感心したのは、解説板に「オランダ商館の記録では1640年に特注のおまるを出荷している」とあったこと。ほかにも、たとえばVOC(オランダ東インド会社)の紋章入りの漆皮の盾は「1947年から主にインドに向けて一度に何十枚も輸出されていた」とか、サメ皮(実はエイの皮)の櫃は「1634年からオランダ東インド会社の記録にある」とか、交易の記録から分かることって、いろいろあるんだなあ、と思った。ヨーロッパの王侯貴族のメダイオン(肖像)に「sasaya」の銘を残す、漆器商の笹屋というのも、初めて知った、気になる存在。

 また、ヴェルサイユ宮殿美術館のコレクションに「李煦」という小さな墨書の紙片を貼り付けた小箱があったことにも驚いた。解説によれば、李煦(りく)は、康熙帝にスパイとして仕えた(!)ともいう(→中国語・百度百科)。この蒔絵の小箱は、日本から清朝の要人・李煦を経て、康熙帝からルイ14世へ、そしてマリー・アントワネットに伝えられたのではないかという。スケールの大きな歴史ロマンが感じられ、金庸の武侠小説のネタみたいで、ちょっとわくわくした。

 前期(~1/12)は京都国立博物館の所蔵品、後期(1/14~)はサントリー美術館の所蔵品が中心となるもよう。『泰西王侯騎馬図屏風』が見たい方は後期にお出かけを。
コメント (1)
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