見もの・読みもの日記

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国絵図・浮世絵を色彩から視る/色の博物誌(目黒区美術館)

2016-12-20 23:40:35 | 行ったもの(美術館・見仏)
目黒区美術館 『色の博物誌-江戸の色材を視る・読む』(2016年10月22日~12月18日)

 全く行く予定のない展覧会だったが、ネット上の評判がいいので、気になって最終日に行ってみることにした。行ってよかった。とても斬新な展覧会だった。

 建物に入り、レセプションカウンターでチケットを購入して振り向くと、開放的なロビーのような空間が、もう展覧会の第1室になっている。はじめは「江戸の色材への導入」と題し、植物・鉱物など、さまざまな色材と絵具(粉状)が展示されている。また、薄い引き出しが縦に積み重なった収納型の展示ケースは、引き出しごとに「画材(クレパス、鉛筆など)のいろいろ」「紙(洋紙・和紙・べラム・パピルス)のいろいろ」や「筆・刷毛のいろいろ」が収まっている。もちろん全部引き出して眺めてしまった。

 2階は複数の展示室があり、順路に従って「国絵図」の部屋に入る。岡山大学附属図書館・池田家文庫が所蔵する備前国と備中国の巨大な絵図が4枚と複製が1枚、いずれも水槽のような大きな展示ケースに入っていた。「国絵図」とは、17世紀から19世紀にかけて、幕府の命を受けて各藩が制作した絵地図。全国的な制作事業としては、慶長、寛永、正保、元禄の4回が知られており、今回は、慶長年間の『備前国図』、寛永年間の『備中国絵図』『備前国九郡絵図』、元禄13年の『備前国絵図』が展示されている。大きいものは縦横とも3メートルを超える。いずれも色彩は豪華絢爛で、特に慶長図は、山並みや城下町の繰り返し文様が、稚気にあふれていて楽しい。

 本展は色彩に着目し、山の緑や海の群青などが、どのような色材でつくられたかを解明する。なるほどこの赤(朱)は辰砂で、オレンジは臙脂か~。こんなことを考えながら絵図を見るのは初めての体験で、とても面白かった。東京芸大がおこなった元禄版『備前国絵図』の復元は、紙拵え(小型の雁皮紙を糊で継ぎ合わせる)から始まる本格的なもの。街道筋の村は、楕円形のハンコ(木版)を押して、筆で彩色し、文字を書き入れる。大きなスペースをきれいに塗りつぶす「えんぶた」の技法も興味深い。それにしても、展覧会のタイトルを聞いたときは、まさかこんな歴史資料が見られるとは想像もしていなかった。

 次に「浮世絵」の部屋は、春信、北斎、国芳などの作品と、立原位貫(1954-2015)の復元・復刻作品を展示。歌麿『山姥と金太郎 煙草のけむり』を復元した6枚の版木による摺り工程の展示は圧巻だった。北斎の「藍摺絵」について、藍とプルシアンブルーを使い分けているという指摘、春信を代表とする初期の浮世絵のやさしい色調は、紅や青花など植物性の色材から生まれたという解説にも納得。

 そして「江戸時代の主な色材」では、胡粉・紅花・青花など代表的なものについて、タブレットPCを使い、スライドショーで工程を紹介する。紅花からつくられる紅花餅とか青花の汁を含ませて乾燥させた青花紙など、保存用の中間生産物が面白かった。臙脂がラックカイガラムシの分泌物を原料とする昆虫色素であることや、緑青には銅緑青と岩緑青があることは初めて知ったような気がする。

 最後に「画法書にみる色材・絵具箱」で、『本朝画史』『漢画獨稽古』などの書籍は、展示のほか、タブレットPCで前後が読めるようになっていた。武雄の領主・鍋島茂義(1800-1862)所用の絵具箱、福岡藩の御用絵師・尾形家伝来の絵具箱は貴重なもの。小皿やお猪口のような容器に溶いた絵具は、当たり前だが洗い流さない。そのまま乾かして、また使うときは水を足して溶くのだろう。

 あとで展覧会の公式サイトを見たら、「目黒区美術館は、1992(平成4)年から2004(平成16)年にかけて『青』『赤』『白と黒』『緑』『黄色』をテーマにした『色の博物誌』シリーズを開催し、考古・民俗・歴史・美術を横断しながらそれぞれの色材文化史を紡いできました」とある。知らなかったなあ…。でも2004年といえば、このブログを書き始めた頃で、各地の展覧会情報を、ようやくインターネットで入手できるようになった頃だ。それ以前の展覧会を知らないのはやむをえないだろう。
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