〇佐藤信之『通勤電車のはなし:東京・大阪、快適通勤のために』(中公新書) 中央公論新社 2017.5
1970年代、中学から電車通学をするようになって、通勤電車に揺られる日々が始まった。高校、大学を経て、社会人になり、通算すれば40年以上、通勤電車を乗っている。2、3年で勤務先が変わる仕事をしていることもあって(主に東京近郊だが)いろいろな路線を使った経験がある。という私には、「あの駅」「この路線」と思い当たるところが多くて、とても面白かった。
はじめに通勤電車誕生の歴史を振り返り(そうか、関東大震災で都心の商人が被災→山手に移住→職住分離し通勤の習慣が誕生、なのか)東京圏と大阪圏のネットワークの現状をそれぞれ形成過程とともに語る。東京圏は、昭和初期に基本的な鉄道網が整備された。総武線と中央線の乗り換えに便利なJR御茶ノ水駅の構造もこの時期に作られたもの。総武線と山手線が直交する秋葉原駅もこの頃。よく使う駅だが、総武線が「超高架」だなんて、気づいたことがなかった。地下鉄でも、赤坂見附駅の銀座線と丸ノ内線の乗り換えは対面ホームでありがたい。
戦後は地下鉄が急速に路線網を広げたが、使える用地が限られることが多く、乗り換えの導線が複雑になるなど、さまざまな困難が生じた。2008年に開業した副都心線の、開業直後の大混乱は今でもよく覚えているが、なるほどこういう理由があったのかと初めて分かった。東武東上線方面と西武方面の電車が分岐する小竹向原駅のホームの使用法が複雑すぎたのだ。
大阪圏では、環状線をさまざまな郊外路線が一部共用している。同じホームでいろいろな方向に向かう電車に乗ることのできるこの方式は利便性が高い、と著者は評価しているけど、東京育ちでこの方式になじみのない私は、何度か乗り間違えて慌てたことがある。JRの路線網と地下鉄・私鉄が接続しておらず、乗り換えが不便というのは、だいぶ慣れてしまった。
次に、東京圏・大阪圏の人口動向と輸送改善について。5年刻みで東京圏(神奈川・埼玉・千葉・茨城)の人口動向を地図上で見ていくと、新たな鉄道路線の開通や輸送力向上が、特定地域の人口増を引き起こすことがはっきり分かる。2005~2009年のつくばエクスプレス沿線の人口増とか。東京圏は鉄道への依存度が高いため、鉄道の整備により沿線人口が着実に増加する。これに比べると大阪圏は、東京圏よりも自動車への依存度が高く、鉄道が整備されても必ずしも沿線人口が増えず、鉄道経営を厳しくしているという。これは鉄道ファンとして看過できない深刻な問題だと思った。
続いて、東京圏・大阪圏の混雑緩和の推移について。これこそ本書の最重要テーマ!と思うのは、私が今も満員の通勤電車(混雑率190%を超える路線)で通勤しているからだが、毎朝「満員電車」を体験している日本人って、国民の何割くらいなんだろう? そして、近年、東京圏の混雑率は徐々に低下しているという指摘には頷けた。確かに、私が学生時代に経験した総武線や中央線の混雑は今よりひどく「殺人的」が冗談にならなかった。輸送力強化のためのダイヤ編成、車両の改善、複々線化など、きめ細かく地道な対応が功を奏してきたのだと思う。もっとも「混雑率100%」というのは、本書の説明を読むと、無駄に高い目標に感じられる。著者は「楽に新聞が読める程度」(150%)を目標にすべき、というが、今なら「楽にスマホが使える程度」でいいかもしれない。
最後に東京圏・大阪圏の今後の展望について、いくつかの具体的な施策を述べる。JR越中島貨物駅から新小岩駅までの貨物線を改造して整備する案、面白いな。最近、この線路を見つけて、何だろう?と思っていたところだ。また、本書の前半に記載されていたが、JR東京駅と羽田・成田空港のアクセスを改善するため、丸の内仲通りに地下鉄を通し「新東京駅」を建設する計画があるという。工事が大変そうだけど、実現したら便利だろう。これに比べると、大阪は、2025年の大阪万博にあわせて湾岸部に新線を計画しているそうだが、大丈夫かなあとあやしまれる。
ところどころに記述にあわせたダイヤグラムが載っているのも見どころ。線の密度が蚊帳の目みたいになっていて、諸条件を漏れなく加味してこれを編成するのって、すごい職人芸だと思う。
1970年代、中学から電車通学をするようになって、通勤電車に揺られる日々が始まった。高校、大学を経て、社会人になり、通算すれば40年以上、通勤電車を乗っている。2、3年で勤務先が変わる仕事をしていることもあって(主に東京近郊だが)いろいろな路線を使った経験がある。という私には、「あの駅」「この路線」と思い当たるところが多くて、とても面白かった。
はじめに通勤電車誕生の歴史を振り返り(そうか、関東大震災で都心の商人が被災→山手に移住→職住分離し通勤の習慣が誕生、なのか)東京圏と大阪圏のネットワークの現状をそれぞれ形成過程とともに語る。東京圏は、昭和初期に基本的な鉄道網が整備された。総武線と中央線の乗り換えに便利なJR御茶ノ水駅の構造もこの時期に作られたもの。総武線と山手線が直交する秋葉原駅もこの頃。よく使う駅だが、総武線が「超高架」だなんて、気づいたことがなかった。地下鉄でも、赤坂見附駅の銀座線と丸ノ内線の乗り換えは対面ホームでありがたい。
戦後は地下鉄が急速に路線網を広げたが、使える用地が限られることが多く、乗り換えの導線が複雑になるなど、さまざまな困難が生じた。2008年に開業した副都心線の、開業直後の大混乱は今でもよく覚えているが、なるほどこういう理由があったのかと初めて分かった。東武東上線方面と西武方面の電車が分岐する小竹向原駅のホームの使用法が複雑すぎたのだ。
大阪圏では、環状線をさまざまな郊外路線が一部共用している。同じホームでいろいろな方向に向かう電車に乗ることのできるこの方式は利便性が高い、と著者は評価しているけど、東京育ちでこの方式になじみのない私は、何度か乗り間違えて慌てたことがある。JRの路線網と地下鉄・私鉄が接続しておらず、乗り換えが不便というのは、だいぶ慣れてしまった。
次に、東京圏・大阪圏の人口動向と輸送改善について。5年刻みで東京圏(神奈川・埼玉・千葉・茨城)の人口動向を地図上で見ていくと、新たな鉄道路線の開通や輸送力向上が、特定地域の人口増を引き起こすことがはっきり分かる。2005~2009年のつくばエクスプレス沿線の人口増とか。東京圏は鉄道への依存度が高いため、鉄道の整備により沿線人口が着実に増加する。これに比べると大阪圏は、東京圏よりも自動車への依存度が高く、鉄道が整備されても必ずしも沿線人口が増えず、鉄道経営を厳しくしているという。これは鉄道ファンとして看過できない深刻な問題だと思った。
続いて、東京圏・大阪圏の混雑緩和の推移について。これこそ本書の最重要テーマ!と思うのは、私が今も満員の通勤電車(混雑率190%を超える路線)で通勤しているからだが、毎朝「満員電車」を体験している日本人って、国民の何割くらいなんだろう? そして、近年、東京圏の混雑率は徐々に低下しているという指摘には頷けた。確かに、私が学生時代に経験した総武線や中央線の混雑は今よりひどく「殺人的」が冗談にならなかった。輸送力強化のためのダイヤ編成、車両の改善、複々線化など、きめ細かく地道な対応が功を奏してきたのだと思う。もっとも「混雑率100%」というのは、本書の説明を読むと、無駄に高い目標に感じられる。著者は「楽に新聞が読める程度」(150%)を目標にすべき、というが、今なら「楽にスマホが使える程度」でいいかもしれない。
最後に東京圏・大阪圏の今後の展望について、いくつかの具体的な施策を述べる。JR越中島貨物駅から新小岩駅までの貨物線を改造して整備する案、面白いな。最近、この線路を見つけて、何だろう?と思っていたところだ。また、本書の前半に記載されていたが、JR東京駅と羽田・成田空港のアクセスを改善するため、丸の内仲通りに地下鉄を通し「新東京駅」を建設する計画があるという。工事が大変そうだけど、実現したら便利だろう。これに比べると、大阪は、2025年の大阪万博にあわせて湾岸部に新線を計画しているそうだが、大丈夫かなあとあやしまれる。
ところどころに記述にあわせたダイヤグラムが載っているのも見どころ。線の密度が蚊帳の目みたいになっていて、諸条件を漏れなく加味してこれを編成するのって、すごい職人芸だと思う。