〇大和文華館 開館60周年記念『コレクションの歩み展I』(2020年7月10日~ 8月16日)
1960年10月31日に開館した同館の開館60周年記念展。新型コロナの影響でパート2が先になったが、パート1では「開館記念特別展」を再現する。1946年の財団法人設立後、初代館長となる矢代幸雄(1890-1975)は直ちに美術品の蒐集を開始した。矢代が本来、ルネサンス美術の研究者だったという解説に、いまさらながら驚いた。
同館の展示室は、入るとすぐ、小さめの独立ケースが3つ並んでいて、その時々の「推し」の優品が展示される。今回、選りすぐりの名品展で選ばれる3件は何だろう?と想像をめぐらせていたのだが、左側は唐代の『三彩立女』。顔立ちは若々しく頬がふっくらしているが、立ち姿はすらりとして健康的。藍釉と褐釉が混ざり合って少し緑色が見える。右側は乾山の『色絵夕顔文茶碗』。黒地にぽってりした白い夕顔の花、裏にまわると白い文字で和歌が記されている。中央のケースには、開館記念特別展のポスターと冊子(?)が展示されていた。ポスターには、美術品でなく建物の外観の写真が使われているのが面白い。そして講演会の案内に、矢代幸雄館長と並んで吉川幸次郎氏の名前があった。どんなお話をされたのかなあ。
展示品は全48件。もちろん見たことのある作品が多かったが、中には、ふだんあまり見る機会のないものもあった。冒頭の土偶や埴輪はその一例である。
本展の白眉は『婦女遊楽図屏風』(松浦屏風)だろう。先日、東博の『きもの』展(わずか6日間だけ展示)では見逃したけど、本来の所蔵館でゆっくり見ることができて嬉しい。個々のきものの柄も面白いし、全体の構成(互いにぶつからないように工夫された色の置き方)も素晴らしい。私は、右隻第4扇の座って三味線を弾いている女性のコーディネートが好きなのだが、左隻第2扇の立女が羽織っている着物(袖に橋、裾に船)も好き。その隣りに桃山時代の『婦人像』や宮川長春の肉筆浮世絵『美人図』あり、佐竹本三十六歌仙絵断簡『小大君』もあって、美人さん揃いのコレクションだなあと思った。
『寝覚物語絵巻』は何度か見ているが、全巻開示は滅多にない経験でテンションが上がった。いつも、きれいだなあ、可愛いなあで終わるのだが、4つの場面はいずれも高い視点から、舞台(建物)を独特の切り取りかたで描いており、それぞれ変化をつけた幾何学的で装飾的な構図(琳派を思わせる)が面白かった。
琳派といえば尾形光琳の『扇面貼交手筥』。箱の四面と底に加え、蓋と懸子に扇8面、団扇4面が用いられている。写真パネルを添えて全て見せてくれていたのが嬉しかった。いちばん華やかな「樹下人物図」の裏側には、船に乗った「白楽天図」があるのか。
水墨画は、いつ見ても大好きな雪村の『呂洞賓図』など。中国絵画は少なめだが、国宝・李迪筆『雪中帰牧図』双福と重文が3件。伝・毛益筆『蜀葵遊猫図』は茶と白の親猫のそばで、黒白ブチの仔猫と三毛の子猫が遊んでいる。同『萱草遊狗図』は、テリアかポメラニアンふうの親犬と4匹の子犬を描く。ああ、応挙や芦雪はこういう絵を意識しながら、自分のスタイルをつくり出したのかな、と思った。