見もの・読みもの日記

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シャープな美人画/月岡芳年 血と妖艶(太田記念美術館)

2020-08-24 22:40:55 | 行ったもの(美術館・見仏)

太田記念美術館 『月岡芳年 血と妖艶』(2020年8月1日~10月4日:前期 8月1日~8月30日)

 近年、とみに人気の月岡芳年(1839-1892)の魅力を「血」「妖艶」「闇」という3つのキーワードから掘り下げる。展示点数は約150点(前後期で全点展示替え)。 

 1階の展示室、最初のキーワードは「妖艶」。芳年の美人画を集めて展示している。神話・伝説上の美女、おきゃんな町娘、妖艶な人妻、傾城、宮中の女官など。こんなに多数の美人画を残しているとは知らなかった。展示は明治に入ってからの作品が多く、シャープな細面に吊り上がった細い目が共通していて、芳年の好みの顔立ちだったのかなと思った。『風俗三十二相』の女性たち、表情が豊かで喜怒哀楽がはっきり分かって、すごく楽しい。こんなに共感できる浮世絵の女性像ってなかなかない。

 2階の途中からは「闇」。主に武者絵や歴史画など、漆黒の闇を背景にした作品を展示。名作『月百姿』もここに収める。大好きな『袴垂保輔鬼童丸術競図』も! 闇はベッタリ黒一色ではなくて、グラデーションだったり、月明かりで青や水色に輝いたりもする。鉄砲を構える真剣な表情を正面から描いた『魁題百撰相 駒木根八兵衛』は静の極みのような作品。『月百姿 朧夜月 熊坂』は、能の「熊坂」そのまま、わざと陰影を省いて平板な構成にしているのが面白いと思った。『新撰東錦絵 於富与三郎話』も、背景の人物、うずくまる犬まで、余計な動きを省いている。芳年はこの「止め」がいいんだなー。

 ここまで「血みどろ絵」が1枚もないと思ったら、最後のお楽しみは地下の展示室だった。やはり『英名二十八衆句』が抜群によい。同じ血みどろの修羅場を描いた作品でも、構図とか肉体の捉え方が稚拙だと、絵空事めいて怖くないのだが、このシリーズは人間の肉体が生々しいのだ。リアルとも違う。「因果小僧六之助」や「福岡貢(伊勢音頭恋寝刃)」の画面の主人公は、九頭身くらいあって、むしろ西洋の神話的プロポーションである。もし、これらの作品から「血」の表現がなかったら、現実離れしたカッコいい男子がカッコいいポーズを決めているだけなのだが、全てを「無惨」「残酷」の肌寒さに突き落とす、手形や血しぶき、粘る血糊の表現がすごい。あと「妲己の於百」「鬼神於松」など悪女もカッコいい。

 これら「血みどろ絵」は、どういう顛末あっての場面なのか、長い詞書を添えたものが多い。そしてその詞書の署名で目立っていたのが仮名垣魯文。近代日本文学史で必ず習う作家だが、こんな仕事をしていたのだな。怖いもの見たさで後期も行きたい。

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