〇東京藝術大学大学美術館 籔内佐斗司退任記念展『私が伝えたかったこと-文化財保存学保存修復彫刻研究室2004-2020の歩み-』(2020年11月19日~11月29日)
先週、駆け込みで見に行ったもの。彫刻家・芸大教授の籔内佐斗司氏(1953-)の退任記念展。地階の2つの展示室を使った大規模な展覧会にもかかわらず無料で、多くの作品が撮影可(SNS可・不可の表示あり)で楽しめた。会期が短かったのは仕方ないところか。第1展示室は、修復・模刻・復元にかかわった仏像が中心。東日本大震災の復興支援の一環として新規に制作した仏像もあった。
茨城県・楽法寺の金剛力士像(修復)。今年度中に全ての修理を終えて楽法寺の収蔵庫に安置される予定とのこと。坂東三十三観音霊場の楽法寺、かなり行くのが大変そうだが行ってみたい。南梁の居士により開かれたというのも気になる。
「あ、知ってる」「見たことある!」という有名な仏像が多数あってテンションが上がった。これは高知県・雪蹊寺の毘沙門天像(模刻)。雪蹊寺へは行ったことがないのだが、2017年の東博『運慶』展と、2014年の高知県立美術館『空海の足音 四国へんろ展』で見ている。中心線の通った感じがすごく好き。
ご存知、聖林寺の十一面観音菩薩立像(模刻)。金箔が剥げて古色がついた雰囲気も見事に再現されている。制作年は2020年(今年)!
これもよく知られた、興福寺の天燈鬼立像(模刻)。
正面は咆哮するような猛々しい表情だが、背後にまわると、なぜか後ろは丈が極端に短い衣で、白いふんどしを締めたお尻が見えており、微笑を誘う。模刻とはいえ、滅多に見られないレアショット。
東大寺法華堂(三月堂)の秘仏・執金剛神立像(模刻・古色彩色)。年に一度の開扉の際は、厨子に入ったお姿を少し離れたところから拝むので、等身より小さい像のイメージがあったが、像高は173cm。近くで眺めると迫力満点である。模刻・復元彩色像と並んでいた。
こう並ぶと、やっぱり古色彩色のほうが好きだなーと思ってしまうが、これはこれで大事な研究だと思う。模刻として比べると、天衣の流れ方など微妙に異なるのが面白かった。3Dコピーではなく、人の手で写している証拠だろうか。
第2室は、せんとくんの仲間たち。籔内氏がプロデュースするパフォーマンス集団「平成伎楽団」など、さまざまなオリジナルキャラクターの仮面・衣装・フィギュア等を展示。なんといっても、この九尾の白虎がカッコよかった。
ヒャッホー!な後ろ姿。
こういう夢に出てきそうな気持ち悪いヤツもいた。しかし、このくらい気持ち悪いと逆に惹かれる。
執金剛神立像の復元彩色は、クラウドファンディングで資金調達したものである。会場の冒頭に薮内研究室が獲得した外部資金額の推移がグラフで示してあって、素晴らしい成果だったが、芸大も大変だなあと思った。
会場で貰ったパンフレットによると、聖林寺の十一面観音の制作者が中国系のお名前(朱若麟さん)だった。この方かどうか分からないが、展示会場でスタッフとお客さん(学生?)が中国語で日本の仏像について話している(たぶん)のを聞いて、最近は中国から仏像修復を学びに来る留学生もいるのだなと思った。調べたら、朱若麟さんのインタビュー記事(藝大生インタビュー2019)を見つけた。朱さん、映画『空海』の美術担当だったのか! そして、聖林寺の十一面観音像の模刻は「中国に持って帰ろうと思っています」とのこと。すごい!うれしい! かつて中国で造られた多くの仏像が日本に請来されたことを思うと感慨深い。