見もの・読みもの日記

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四年ぶり、東博の名品も/東美特別展2021(東京美術倶楽部)

2021-10-18 20:04:13 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京美術倶楽部 『東美特別展 TOBI ART FAIR 2021』+同時開催『美のまなざし』(2021年10月15日~17日)

 四年ぶりの『東美特別展』に行ってきた。本来なら、三年に一度のペースで、2020年に第21回が開催されるはずだったが、コロナ禍で一年延期となっての開催である。主催者の「ご挨拶」によれば、同展の第1回は、初めて東京でオリンピックが開催された1964年10月に開催されており、日本美術のコレクターであった当時のIOC会長ブランデージ氏も来賓として会場に姿を見せたのだそうだ。そして今年、第1回に引き続きオリンピック開催の年に行われる事から「55店舗の出展者一同、従来にも増してレベルの高い名品を取り揃えて展示させていただく事と致しました」という。いや確かに、素晴らしかった。

 印象に残った店舗(ブース)と作品をメモしておく。4階に上がって、最初のブースが小西大閑堂。中央には平安時代の堂々とした阿弥陀如来坐像。作風は定朝の系統だという。後頭部内の修理銘(近世か)には「宝満寺」の名前がある。お店の方にお聞きしたら、同名のお寺が各地にあるが、滋賀県の宝満寺ではないかと考えているとのこと。あまりにも立派で、博物館や美術館に入ってしまうのが惜しくて、むしろどこかのお寺が買い上げてくれないだろうかと思った。個人の持仏堂でも可。今回、一部の店舗は「撮影可」だったので、恐れながら1枚。仏像が乗っている布の下は丸いターンテーブル(!)で、お店の方がぐるっとまわして側面や背面も見せてくれた。

さらに古風で、私の好きなタイプの十一面観音立像。一木造りである。

このほか、木造男神坐像、装飾経など。最初から満腹で、どうしようかと思った。

 隣りのギャラリー竹柳堂では、蒔絵・彫刻・書画等を扱う中で、森川杜園の奈良人形が一推しらしく単独のケースに飾られていた(調べたら、杜園の出世作『後高砂』と同工で、さらに技巧の細かいもの)。店主らしいおじさんと別のお客さんの会話で、「ご縁ですから」杜園の別の作品も見せましょうという話になり(なぜか私も呼ばれ)、展示品でなかった伊勢海老の香炉をわざわざ戸棚から出して、見せて、触らせてもらった。細い髭(本物らしく少しよれている)を、後付けでなく彫り残す技術力が超絶すごい。「奈良で森川杜園の作品展やっていますよね。来月、見に行く予定です」とお話したら、喜んでくださった。

 斜め向かいの薫隆堂は中国の古鏡、俑など。漢~隋唐の、ミニサイズで状態のよい人物俑が多数あって、心の中でよだれを垂らしながら見とれた。表面にわずかに残る土さえも懐かしい。

 写真は撮れなかったが、壺中居も中国の六朝~隋の造形を特集しており、北魏の灰陶加彩馬が素晴らしかった。

 至峰堂画廊では奥まった一角で戦争画を特集しており、若い男性が「父が集めたもので…」と話していた。コロナ禍で海外のバイヤーが来ないので幸い、という趣旨の話もしていらしたが、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。貴重なコレクションだと思う。青龍堂は赤い壁紙に梅原龍三郎の絵画と、梅原旧蔵の調度品や古美術品で構成。ふんわりと水彩のような色彩の『浅間』、梅原の絶筆であるというのを初めて知った。

 3階、三渓洞では、草の上に座る裸婦の後姿の絵があって、作者名を見たら岡田三郎助だった。懐古堂では、褐色の肌、大きな乳房の裸婦像があって、東南アジアあたりの女神像かと思ったら、佐藤玄々の作だった。今回、古美術はもちろん名品揃いなのだが、近代絵画・彫刻もとても面白かった。

 3階のロビー脇の一室では『美のまなざし』展を開催。東京美術倶楽部を経て東京国立博物館に収蔵された10の名品(書画5件+工芸・やきもの5件)が特別に公開されており、キャプションに収蔵の経緯が記されている。たとえば、伝・馬遠筆『寒江独釣図』は、大正14年(1925)11月9日井上侯爵家御所蔵品入札、梁楷筆『雪景山水図』は大正6年(1917)6月11日赤星家所蔵品入札など。どれも知られた名品だったが、『虚空蔵菩薩像』(国宝、平安時代、12世紀)だけは記憶になかった。院政期仏画のぽってりした妖艶さがなくて、静謐で理知的な感じ。井上(馨)侯爵家旧蔵である。

 2階は畳敷きの座敷に上がり、屏風や茶道具を拝見する。水戸幸商会の光琳筆『三十六歌仙図屏風(画稿)』は前にも見たような気がする。古美術藪本の宗達筆『半身達磨図』も、似た作品を別のところで見た記憶があるのだが、どこだったか思い出せない。

 この展覧会、一般3000円で決してお安くないのだが、十分その価値のある内容だった。長いコロナ禍の中、店主の方々もお客さんとの会話を楽しみにされていたのではないだろうか。あと、大学生以下は無料というのもよいと思う。記録を探ったら、前回(2016年)の設定は、一般1500円/大高中生1300円だった。大人の負担を増やしても、若者を呼び込むのはいいことだ。

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