■東京国立博物館・本館14室 特集『浅草寺のみほとけ』(2021年9月28日~ 12月19日)
金龍山浅草寺(台東区)から寄託された仏像13件17体を、近年実施された文化財調査の結果も踏まえて一堂に展示する。浅草寺は、東京の人間には「盛り場」「観光名所」のイメージが強いが、慈覚大師円仁が中興した天台宗ゆかりの古刹である。天台宗から独立して聖観音宗となったのが昭和25年(1950)であることを初めて知った。
展示には、平安時代(12世紀)の不動明王立像や鎌倉時代の四天王立像などの古仏も出ている。大威徳明王騎牛像(鎌倉時代)は、三面にそれぞれ大きな頭頂面がつく異形(3×2=6面は儀軌どおり)で、座っていることの多い水牛がスックと立ち上がって戦闘態勢なのも珍しい。聖天坐像(江戸時代)は、唐風の衣を着た四臂の童子で、白く塗られた円満な丸顔、赤い唇から、はじめ女神かと思った。よく見ると宝冠が、紅白に塗り分けた2頭の象のアタマでできている。こういう様式は歓喜童子と言って、聖天(歓喜天)の化身とも眷属とも考えられているようだ。
簡素な造形で、若々しい顔を心もち上に向けた僧形坐像は、中国・唐~五代十国時代(9~10世紀)の作。これは!絶対どこか関西の展覧会で見たことがある!と思って、自分のブログを調べたが、なかなか見つからない。本展のパンフレット(PDF公開)には、「従来、大きさがほぼ同一で、表現や技法が酷似する僧形像が複数知られていました。大阪・観心寺像(重要文化財)がその代表で、滋賀・千手寺像、京都・善願寺像(2体)、アメリカのミネアポリス美術館像の計5体があります」という。私は、2011年にMIHOミュージアムの『天台仏教への道』で善願寺と千手寺、2019年に京博の常設展示で善願寺のものを見ていたのだが、記憶が混線するくらい、よく似ている。本像は、昭和53年に奉納された記録が寺に残っているとのこと。
あと風神・雷神立像(鎌倉~南北朝時代、13~14世紀)とか、角大師坐像(江戸~明治時代、19世紀)とか、サイズは小さいが個性の強い(フィギュアっぽい)彫像が多くて面白かった。12月までやっている特集なので、もう1回は参観する予定。
■東洋館8室 特集『江戸時代にもたらされた中国書画』(2021年9月7日~10月17日)
江戸時代にもたらされた中国の書跡と絵画を、第1章・黄檗僧と禅宗の書画、第2章・沈銓の花鳥図とその波及、第3章・来日した明国・清国人の書画、第4章・市河米庵にみる江戸文人の中国書跡受容の四章にわけて紹介する。個人蔵の、あまり見たことのない絵画作品を見ることができて面白かった。
個人的には、やはり黄檗宗関連の絵画が気になる。福建の画家で黄檗僧によって作品が日本にもたらされた陳賢(本人は来日していない)の巨大な『白衣観音図』をしみじみ見上げた。沈銓(沈南蘋)の『雪梅群兎図』は何度か見ているはずの名品。これ、「個人蔵」のキャプションで展示されているが、橋本末吉(1902‐1991)の橋本コレクションと思われる。
あと、書では「書悦山」と呼ばれる能書家の悦山道宗(萬福寺7世)の書が、確かに魅力的だった。明・神宗(万暦帝)筆『楷書紺紙金字妙沙経』にも見とれた。旧蔵者の市河米庵は、本作の手法が森厳として顔真卿・柳公権の法を具えると言っている由。決して誇張ではない。中国の皇帝は、統治者としてどんなにダメでも、こういう芸術的な才能を持っていると、許したくなる。
このほか、常設展(総合文化展)では、本館2室(国宝室)で 『国宝 伝・藤原光能像』(2021年10月5日~10月31日)を久しぶりに見た。神護寺三像の中では、いちばん貴族的な雰囲気が感じられて好きな肖像画である。本館11室(彫刻)は、特別展『最澄と天台宗のすべて』に関連して、天台宗関連の仏像は、全国各地から集められていた。福島・如来寺旧蔵の『阿弥陀如来および両脇侍立像(善光寺式)』(鎌倉時代)や滋賀・櫟野寺蔵『観音菩薩立像』を興味深く眺める。
さらに、いつものように本館・東洋館をひとまわりしてきたが、気が付けば、メンバーズプレミアムパスの期限が切れようとしている(特別展鑑賞券は8月に使用済)。
そして、最新の会員制度について調べたら、「メンバーズプレミアムパス」は廃止になり、選択肢は「友の会」(7,000円、特別展無料鑑賞券3枚)か「メンバーズパス」(4,500円)になっていた。まあ最近は、総合文化展(常設展)が一般1,000円だし、特別展だと2,000円オーバーも珍しくないので、「友の会」でも十分モトは取れるだろう。 しかし高い。総合文化展が無料になるのは満70歳以上なので、まだまだ先の話だ。長生きしなくちゃ。