〇五島美術館 町田市立博物館所蔵陶磁・ガラス名品展『アジアのうつわわーるど』(2021年10月23日~12月5日)
「アジアのうつわ」と聞いて、五島美術館の陶磁器は何度も見ているからいいかな、と思っていたら違った。休館中の町田市立博物館が所蔵する、中国と東南アジアのやきもの約60点と、鼻煙壺など中国ガラス製品約40点を一挙公開する展覧会である。
町田市立博物館には、むかし行ったことがある、と思ってブログ内で調べてみたら、2005年に2回訪ねている。しかし交通の便があまりよくないので、その後は訪問が絶えていた。同館は施設の老朽化などを理由に、2019年6月で展示活動を終了し、町田市が新たに整備する(仮称)国際工芸美術館の開館を待っている状態のようだ。なお、私は2007年に、仕事で笠間市に行ったついでに、茨城県陶芸美術館で町田市立博物館名品展を見ている。
本展の構成は中国のやきものから。冒頭には前漢時代の加彩仕女俑。高さは50cmを超え、かなり大きめ。加彩と言っても、ほぼ白一色で静謐な趣きである。肩から下の人体にほとんど個性がないのに比べて、頭部の思慮深げな表情には古代のリアリズムを感じる。後漢時代の緑釉犬像は、首も足も短いずっぐりした姿だが、短い耳が前向きにピンと立ち、への字に開いた口元もりりしい。ひげとまつ毛(?)が線刻されている。北魏時代の加彩官人・仕女俑は赤と緑(水色)の彩色が美しく、スリムな体形。中国ドラマでおなじみの籠冠と双髷姿である。加彩耳杯・魁(柄つきの鉢)・鼎・杓・案(四角いお盆)のセットは、え?木製じゃないの?と思ったら、陶製の明器(副葬品)だった。
本展は、中国陶器を「鑑賞陶磁」と「貿易陶磁」の2つのカテゴリーで紹介する。「鑑賞陶磁」とは、近代以降、本来の用途にとらわれず、純粋な鑑賞の対象となったもの。副葬品の陶俑や明器も、その一部と考えることができる。さらに鑑賞陶磁らしい名品として、唐代の白磁龍耳瓶や青磁牡丹唐草文皿(耀州窯だ!)などが並ぶ。個人的に好きだったのは、遼時代の三彩牡丹文盤。遼三彩だというけれど、内側はほぼオレンジ色一色(線描の牡丹文あり)、外側は黒っぽい緑一色で、カボチャを輪切りにしたようなうつわである。黒釉梅枝文瓶(南宋時代)は、武侠小説で英雄が呑み回す酒瓶みたい。白釉鉄絵龍鳳文壺(元時代)は磁州窯だというが、ちょっと絵のテイストが珍しい。解説に言うように、剪紙(切り絵)のセンスに似ている。
「貿易陶磁」は輸出用で、各地の需要に応えて特有の器形や様式が生み出された。気になったのは、五彩仙人文大平鉢(明時代)。いわゆる呉州赤絵で、見込みには人物と鹿を黒線で描き、碧緑色(と呼ぶのか、この色)に彩色する。人物は、藍采和という仙人だというが、八頭身くらいあって、どうも中国っぽくないのだ。
続いて、東南アジア各地のやきものを紹介する。印象に残ったものを挙げると、ベトナムの青花、クメール(カンボジア)の黒釉、タイの鉄絵、ミャンマーの緑彩になるだろうか(実は2007年に笠間で町田市立博物館名品展を見たときも、同じようなことを書いている)。
ベトナムの青花は、中国陶磁と違って、ふんわり柔らかな雰囲気を持っている。青花山水文盤(黎朝、15世紀)の解説によれば、山水文は、ベトナム青花が範とする中国元様式の青花にはなく、明時代の景徳鎮官窯にもなく、民窯では、16世紀初頭~中葉に出現し、17世紀以降に盛んになる。つまり、山水文についてはベトナム青花が先行すると考えられているそうだ。意外!
クメール陶磁は、黒釉と、まるまるした造形が面白い。丸い目、短い両耳をピンと合わせたような灰釉兎形壺、黒褐釉兎形壺が、絵本『しろいうさぎとくろいうさぎ』みたいで可愛かった。嗜好品のキンマに使用する石灰壺だというが、何か物入れに使えないだろうか。タイの鉄絵には民藝の趣きがある。ミャンマーでは、白色の錫釉をかけた上に緑色で文様を描く。釉薬の層と文様の層が分かれていない「釉中彩」というそうだ。やきものの世界は奥深いな。
第2室は、清時代の中国ガラス製品を展示する。精巧な「被せガラス」の名品が多数。西洋の美意識とは全く違った独自の方向で、この新素材を活かそうとしているのが面白い。桃色瓶や翡翠色瓶など、無文のつるっとした単色の作品も好まれた。清時代は、陶磁器においても赤色や黄色などの単色釉が発達した時代であり、異なる素材に共通する清時代の工芸品の特徴のひとつ、という指摘が面白かった。
新たな施設、(仮称)国際工芸美術館の整備には、いろいろ課題があるようだが、ぜひ実現してほしい。
※美術手帖「町田の新美術館・国際工芸美術館(仮称)の概要が判明。国際版画美術館や公園と一体のパークミュージアムに」(2020/7/24)
※読売新聞オンライン「美術館工事仮処分申し立て」(2021/4/21)