〇『猟罪図鑑』全20集(愛奇藝、檸檬影視、2022年)
中国では2022年公開。日本でも同時期から『猟罪図鑑~見えない肖像画~』のタイトルで知られているのは、そうか、国際版プラットフォームで日本語字幕版が配信されているためか、と気づき、いい時代になったなあと思う。檀健次くんの出演作、最近見ていなかったのだが、『蓮花楼』で10年ぶりくらいに肖順堯さんを見て、同じMIC男団の檀健次くんの最近作を見たくなり、本作を見てみた。
舞台は中国南方の北江市(ロケ地は厦門)。美術学校の教師を勤める青年画家・沈翊は、市警察分局の模擬画像師(似顔絵師)の職を引き受けるが、刑事隊長の杜城は反発する。7年前、杜城の恩師の雷刑事が何者かに殺害される事件が起きた。当時、画学生だった沈翊は、事件の鍵を握る女性の顔を見たはずなのに、絵に描くことができなかったのだ。雷刑事の事件は今なお未解決で、杜城はずっと犯人を追っていた。しぶしぶ沈翊を受け入れた杜城だったが、沈翊が天才的な画力を発揮し、真摯に捜査に取り組む姿を見て、あっと言う間に「同僚」と認め、「朋友」になってしまう(笑)。
作中に描かれる事件を、順番どおり【ネタバレ】込みでメモしておく。(1)マンション殺人事件。外売配達員が証言。(2)美容整形外科医の殺害。お客の女性を性的にもてあそんでいたことが判明。(3)高校の校庭で白骨化した遺体が見つかる。10年前に失踪した女子学生の日記から、彼女の学園生活を解き明かす。(4)死刑囚の女性が何度も証言を変更し、共犯者の恋人をかばっていた。(5)旧弊な大学教授を父親に持つ少女が男友達に誘拐され、自力で逃げ出す。(6)妻と幼い娘を残した父親の失踪。被害者に見えた女性には別の顔があった。(7)DV男性から逃れた元妻のもとに男性が現れる。(8)幻覚剤を飲まされて性的暴行を受けた女子学生の証言を読み解く。(9)沈翊の恩師である老画家が妻とともに自殺する。発端は息子を騙ったAI詐欺だった。(10)杜城のお見合い相手となった女性モデル。写真の顔が切り取られる事件が起きる。(11)配達物による連続爆破事件。(12)人身売買組織の首謀者と見られていた女性「M」が遺体で発見される。市警察本局から派遣された路刑事は杜城の行動を疑うが、沈翊らは杜城への信頼を堅持する。そして、情報セキュリティサービス会社の社長が、人身売買組織の黒幕であったこと、雷刑事の殺害にも関与していたことを突き止める。最後は杜城と沈翊が、警官の職務にかける決意を新たにして幕。
天才・沈翊は、曖昧な証言から犯人の似顔絵を描き出すだけでなく、幼少期の写真や、時には白骨から人物の容貌を推測するとか、ちょっと無理があるんじゃないか、とも思ったが、まあ面白いからいいことにする。扱われる事件の多くが、女性を加害者・被害者とするもので、古いタイプの痴情のもつれとかではなく、非常に現代的な「女性の困難」を題材にしているのが、興味深かった。あと、AIフェイク画像とか、情報セキュリティ企業が市民の個人情報を盗もうとしているというテーマは、ずいぶん現代的だと思った。
檀健次くんの演じた沈翊は、画力については天才だが、温厚な常識人で、むしろちょっとドン臭いところもあってかわいい。金世佳が演じた杜城は体育会系の単純率直な好男子で、二人の凸凹バディ感(身長差がよい)がこのドラマの最大の魅力だろう。また、杜城をはじめ北江市警察分局の面々はいつも仲が良さそうで、ジェンダーと年齢のバランスもよく、警察ドラマにありがちな一匹狼の問題児もいなくて、理想的な職場に感じられた。悲しい事件もあるが、全体としては気持ちの明るくなる刑事ドラマである。