〇泉屋博古館東京 企画展『歌と物語の絵-雅やかなやまと絵の世界』(2024年6月1日~7月21日)
泉屋博古館、今度はやまと絵か、楽しみだなあ~とわくわくしながら見に行った。第1展示室、『石山切(貫之集下)』は記憶になかったもの。私の好きな定信の筆だが、薄紫の料紙に折枝文と、薄茶の料紙に飛鳥文がにぎやかすぎて、文字が読みにくいのが残念。『上畳本三十六歌仙絵切・藤原兼輔』の解説には「紫式部の曽祖父」の注記つき。まあそうだけど。よく肥えていて、首がない。
続いて、松花堂昭乗の『三十六歌仙書画帖』(近世らしく親しみやすい風貌)と『扇面歌・農村風俗図屏風』を見て、あれ?と思った。この展覧会、2023年7月に京都の泉屋博古館で開催された同名の展覧会の巡回展(?)だったのである。まるで忘れていた。ただし、いま京都の展示リストを探してみたら、展示は19件、今回は32件(特集展示を除く)だから、圧倒的に今回のほうが多い(展示スペースの広さの違い)。
『扇面歌・農村風俗図屏風』の右隻には18枚の扇面が貼り込まれており、一部は光悦の『扇の草紙』からの引用であることが分かっている。『扇の草紙』をネットで探してみたら、同じ書名の作品が複数あり、いくつかは画像も見ることができるのだが、この屏風のもとになった伝本がどれかはよく分からなかった。でもどの扇面絵も面白くて、元ネタの和歌は何かをあれこれ考えてしまった。
伝・土佐広周『柳橋柴舟図屏風』は題名のとおり、柴舟が妙に目立つ。緑と焦茶色の柴の束が餡入り草餅っぽい。第2室の『葛下絵扇面散屏風』は、和歌や有名な章句が書かれた扇面を散らしたものだが、どうも「世の中」「世間」を含む言葉を集めたようだった。「世の中に酒飲む人は見てぞ良き 飲まざる人も見て良かりけり」(たぶん)だけ解読できた。古今集仮名序の「やまと歌は人の心を種として よろづの言の葉とぞなれりける」があったのは「世の中にある人、ことわざ繁きものなれば…」と続くからだろう。
第3室は、楽しい『是害坊絵巻』で始まる。鳶の顔をしたマッチョな天狗たちがかわいい。狩野益信『玉取図』は緊迫感のある縦長の構図で好きなんだけど、この海女は自分に剣を突き立てて、命と引き換えに玉を奪い返す(龍神は死人を忌むため)と知って愕然。宗達派の『伊勢物語図屏風』6曲1双は、右隻に昔男の一行が干飯(かれいひ)を食べる場面があり、従者たちが蒸籠(?)みたいな木箱と器を用意している。え、おにぎりみたいな携帯飯じゃないのか。宇津の山の昔男がしゃがんで手紙を書いているのもおもしろい。右隻の疾走する牛車と従者は『天神縁起尊意参内図屏風』(いま見つけた)に似ている。『源氏物語図屏風』について「とりわけスキャンダラスな場面が選ばれている」は言い過ぎに感じたが、まあ紅葉の賀とか胡蝶とか車争いとか、絵になる場面が選ばれているとは思った。近代の歴史画も数点。
第4室は特集展示「没後100年 黒田清輝と住友」と題して、東博が所蔵する『昔語り』画稿を展示。『昔語り』も『朝妝』も住友家が購入し、須磨別邸にあったのだな。けれども1945年6月5日の神戸空襲により建物ごと焼失してしまう。でもこの画稿群が残ったのは、本当に不幸中の幸いだった。舞台になった清閑寺、むちゃくちゃ行きにくそうだが、Googleマップのストリートビューも通っていることを確認。季節のいいときに行ってみたい。