〇奈良国立博物館 名品展『珠玉の仏教美術』「東アジアの宗教絵画」(2019年8月20日~9月23日)
先週末で夏季の特集陳列が終わって、東新館は閉鎖、西新館も第1室が閉まっていて、いつもは出口のスロープから2階に入る不思議な状態だった。しかし私は、どうしてもこの名品展が見たくて関西に来てしまった。ざっと30点ほどの展示だが、とにかくその内容が濃いのだ(※展示品リスト)。
私がどうしても見たかったマニ教絵画から紹介を始めよう。壁に沿って端から順番に見ていくと、中央あたりで『マニ教宇宙図』に出会った。縦長の大画面。最上段は阿弥陀浄土みたいな神々のいる天上界。その下にパイ生地を重ねたような10層の天。間々に楼閣や神々、船(?)や法輪(?)が小さく描かれる。その下に、背中が赤い蛇と背中が緑の蛇が、リボンのように絡み合い、まわりを瑞雲に乗ったマニが飛来する。水路のような海に周囲を囲まれた大地があり、枝を広げた樹のような山岳(須弥山)が立ち上がっている。これが人間界。最下層は地獄らしい。
同図のイメージは記憶にあったが、写真で見たのか、本物を見たのかは不確かだった。調べたら、2011年の大和文華館『信仰と絵画』展で本物を見ているようだ。この前年、2010年には、京大・吉田豊教授によって同図が発見されたことが、さまざまな新聞で報じられている(日経新聞2010/9/26)。
隣りが『マニ教聖者伝図』(縦長)だったと思うが、人物と建物をふわふわと描いたもので、マニ僧らしき人物がいたとは思うが記憶が曖昧。もう1件の『マニ教聖者伝図』は小型・横長で平置きの展示ケースに入っていた。緑の大地、白い川が描かれ、左右に2つの建物(神殿?)がある。左の神殿では蓮華座にマニ僧が坐す。画面手前にもマニ僧の姿。
平置きケースには『マニ教天界図』2件も発見した。やかり小型・横長で軸装。緑の大地に群青色の空。赤・白・金で描かれた楼閣や霊山の間をリボンのような瑞雲が結んでいる。赤い縁どりの白衣のマニ僧の姿あり。マニ僧と従者が、さまざまな神格を訪ねるところを繰り返し描くものだという。別の1件の図像もほぼ同様。
※大和文華館 美のたより(2011 春 No.174)「信仰と絵画展によせて マニ教絵画をめぐって」(古川攝一)(PDFファイル):たぶん、この図1~図5が今回の展示品に当たる。
マニ教絵画以外にも見どころは多かった。まず陸信忠筆『仏涅槃図』(クリスマスツリーみたいな沙羅双樹)が出ていたし、京都・大徳寺の『五百羅漢図』が10幅出ていた(私の好きな「浴室」も)、滋賀・宝厳寺の『北斗九星像』は、女神2人に先導される白衣の星の精7人、官服姿の輔星2人。最近の中国製ファンタジードラマみたいな趣きである。高麗仏画の『水月観音像』は個人蔵と談山神社蔵の2件が出ていて、後者が美しかった。
兵庫・薬仙寺所蔵の高麗仏画『施餓鬼図』は、頭頂部の禿げた餓鬼が、山盛りの供物台の前で火を噴いている。取り囲む供養者と僧侶。2017年の龍谷ミュージアム『地獄絵ワンダーランド』で見ているようだが、インパクトの強い仏画である。以上、台風を押して関西に来た甲斐があって、十二分に満足した。