■天理参考館 特別展『天理図書館 古典の至宝-新善本叢書刊行記念-』(2017年9月16日~11月27日)
先週末の関西旅行の続きを駆け足で。正倉院展(奈良博)のあとは天理に移動。本展は、2015年4月から始まった新天理図書館善本叢書の刊行を記念する特別展。国宝3点・重要文化財10点を含む古典籍70余点を三期に分けて展示する豪華版である。叢書の分類にあわせて「国史古記録」「古辞書」「源氏物語」「奈良絵本」「連歌俳諧」のカテゴリーを設け、各期ともそれぞれに見どころを立てている。私が見たのは第二期で、『播磨国風土記 三条西家本』(巻子本である)と『類聚名義抄 観智院本』の2件の国宝を拝見した。『明月記』は嘉禄3年9月27日条、定家(1162-1241)66才のとき、小野右府こと右大臣実資(957-1046)の夢を見た記事が展示されていた。定家が生まれる100年くらい前に死んだ人だ。長押の上に座ったというのが面白い。神様(に近い存在)は高いところに影向するんだな。
いちばん面白かったのは「奈良絵本」。金持ちの道楽みたいな豪華本でなく、素朴なものが多かった。室町末期の『じやうるり』(浄瑠璃姫物語)や江戸初期の『ひだか川』(道成寺縁起)など。寛文頃成立の『常盤の嫗(うば)』は、発心を志す老女が「それにつけても…」と言いながら、忘れられない食い物を列挙していく。柿、芋、餅、栗、くらいは普通だが、鯉、鮒、うさぎ、むじな(!)、うどん、まんちう、ひやむぎ、ようかんなど、当時の食生活の意外な豊かさが垣間見えて面白い。「若くて飲みし茶もほしや」ともいう。
あわせて、常設展示もひとまわり。特に中国・東アジアの考古美術の充実ぶりは日本一だと思う。何度来ても面白い。写真撮影も自由。
↓伏拝男子(後漢)。跪拝俑の極小サイズと思えばいいのだろうけど笑える。
↓唐代、まさに馬に乗ろうという動きがリアル。
↓唐代は女子も馬に乗る。カッコいい。
天理駅へ戻る途中、「満天食堂」というセルフサービスのうどん屋を見つけてランチ。入りやすくてコスパもよく味も満足。店内には開店祝いの花籠が飾られていて、まだ新しいお店らしかった。次に天理に行くときも寄ってみたい。
■奈良県立橿原考古学研究所附属博物館 橿原考古学研究所創立80周年関連事業特別展・秋季特別展『黒塚古墳のすべて』(2017年10月7日~11月26日)
天理から畝傍御陵前へ移動。本展は、発掘20年を迎える黒塚古墳について、出土資料を一堂に展示し、その全貌を紹介する特別展。黒塚古墳は天理市柳本町にある古墳時代前期の前方後円墳で、1997年に33面の三角縁神獣鏡が出土したことで知られている。ニュースになっただろうと思うのだが、当時の記憶は全くない。私が黒塚古墳の存在を意識したのは、2008年のTVドラマ『鹿男あをによし』だった(なつかしい!)。実在の黒塚古墳展示館もドラマに登場していて、いつか行ってみたいと思ったまま、もう9年が経ってしまった。
本展は、はじめに奈良盆地の東南の山麓に広がる「オオヤマト古墳群」をパネルと出土品でひとつずつ紹介する。学生時代は、何度かこの一帯(山の辺の道)を歩いたが、最近10年くらい全く行っていない。現在は「崇神天皇陵」を「行燈山古墳」と呼び「景行天皇陵」を「渋谷向山古墳」と呼んでいることを初めて知る。いや、いいことだと思う。そして「箸墓」はやっぱり「箸墓古墳」であることをちょっと喜ぶ。また、オオヤマト古墳群以外でも、32面以上の三角縁神獣鏡が見つかった椿井大塚山古墳(京都・木津川)、紫金山古墳(大阪・茨木)などが紹介されている。
そして、いよいよ黒塚古墳については、出土した三角縁神獣鏡33面が全て展示されている。銘文の翻刻が添えられていて、長かったり短かったりするが「吾作明竟甚大好」(あるいは張氏作竟、王氏作竟)で始まるのが定型文のようだ。鏡褒めなのかな? また、同笵・同型鏡の所在についての注記もある。機内だけでなく、群馬や静岡で出土している例もあった。でもいちばん興味深かったのは、写真で見る埋葬施設の形状と副葬品の配置である。カラー写真なので、細長い石室(粘土棺床)の朱色が鮮やかで、神々しくも禍々しくも感じられる。三角縁神獣鏡は全て棺を取り囲むよう周囲に置かれているのだが、やや小ぶりな画文帯神獣鏡は棺内から出土している。
黒塚古墳は柳本駅から徒歩で行けるらしい。天皇陵とちがって、円墳の上にも上がれるようなので、来年はぜひ時間を作って行ってみようと思う。
先週末の関西旅行の続きを駆け足で。正倉院展(奈良博)のあとは天理に移動。本展は、2015年4月から始まった新天理図書館善本叢書の刊行を記念する特別展。国宝3点・重要文化財10点を含む古典籍70余点を三期に分けて展示する豪華版である。叢書の分類にあわせて「国史古記録」「古辞書」「源氏物語」「奈良絵本」「連歌俳諧」のカテゴリーを設け、各期ともそれぞれに見どころを立てている。私が見たのは第二期で、『播磨国風土記 三条西家本』(巻子本である)と『類聚名義抄 観智院本』の2件の国宝を拝見した。『明月記』は嘉禄3年9月27日条、定家(1162-1241)66才のとき、小野右府こと右大臣実資(957-1046)の夢を見た記事が展示されていた。定家が生まれる100年くらい前に死んだ人だ。長押の上に座ったというのが面白い。神様(に近い存在)は高いところに影向するんだな。
いちばん面白かったのは「奈良絵本」。金持ちの道楽みたいな豪華本でなく、素朴なものが多かった。室町末期の『じやうるり』(浄瑠璃姫物語)や江戸初期の『ひだか川』(道成寺縁起)など。寛文頃成立の『常盤の嫗(うば)』は、発心を志す老女が「それにつけても…」と言いながら、忘れられない食い物を列挙していく。柿、芋、餅、栗、くらいは普通だが、鯉、鮒、うさぎ、むじな(!)、うどん、まんちう、ひやむぎ、ようかんなど、当時の食生活の意外な豊かさが垣間見えて面白い。「若くて飲みし茶もほしや」ともいう。
あわせて、常設展示もひとまわり。特に中国・東アジアの考古美術の充実ぶりは日本一だと思う。何度来ても面白い。写真撮影も自由。
↓伏拝男子(後漢)。跪拝俑の極小サイズと思えばいいのだろうけど笑える。
↓唐代、まさに馬に乗ろうという動きがリアル。
↓唐代は女子も馬に乗る。カッコいい。
天理駅へ戻る途中、「満天食堂」というセルフサービスのうどん屋を見つけてランチ。入りやすくてコスパもよく味も満足。店内には開店祝いの花籠が飾られていて、まだ新しいお店らしかった。次に天理に行くときも寄ってみたい。
■奈良県立橿原考古学研究所附属博物館 橿原考古学研究所創立80周年関連事業特別展・秋季特別展『黒塚古墳のすべて』(2017年10月7日~11月26日)
天理から畝傍御陵前へ移動。本展は、発掘20年を迎える黒塚古墳について、出土資料を一堂に展示し、その全貌を紹介する特別展。黒塚古墳は天理市柳本町にある古墳時代前期の前方後円墳で、1997年に33面の三角縁神獣鏡が出土したことで知られている。ニュースになっただろうと思うのだが、当時の記憶は全くない。私が黒塚古墳の存在を意識したのは、2008年のTVドラマ『鹿男あをによし』だった(なつかしい!)。実在の黒塚古墳展示館もドラマに登場していて、いつか行ってみたいと思ったまま、もう9年が経ってしまった。
本展は、はじめに奈良盆地の東南の山麓に広がる「オオヤマト古墳群」をパネルと出土品でひとつずつ紹介する。学生時代は、何度かこの一帯(山の辺の道)を歩いたが、最近10年くらい全く行っていない。現在は「崇神天皇陵」を「行燈山古墳」と呼び「景行天皇陵」を「渋谷向山古墳」と呼んでいることを初めて知る。いや、いいことだと思う。そして「箸墓」はやっぱり「箸墓古墳」であることをちょっと喜ぶ。また、オオヤマト古墳群以外でも、32面以上の三角縁神獣鏡が見つかった椿井大塚山古墳(京都・木津川)、紫金山古墳(大阪・茨木)などが紹介されている。
そして、いよいよ黒塚古墳については、出土した三角縁神獣鏡33面が全て展示されている。銘文の翻刻が添えられていて、長かったり短かったりするが「吾作明竟甚大好」(あるいは張氏作竟、王氏作竟)で始まるのが定型文のようだ。鏡褒めなのかな? また、同笵・同型鏡の所在についての注記もある。機内だけでなく、群馬や静岡で出土している例もあった。でもいちばん興味深かったのは、写真で見る埋葬施設の形状と副葬品の配置である。カラー写真なので、細長い石室(粘土棺床)の朱色が鮮やかで、神々しくも禍々しくも感じられる。三角縁神獣鏡は全て棺を取り囲むよう周囲に置かれているのだが、やや小ぶりな画文帯神獣鏡は棺内から出土している。
黒塚古墳は柳本駅から徒歩で行けるらしい。天皇陵とちがって、円墳の上にも上がれるようなので、来年はぜひ時間を作って行ってみようと思う。