〇日中友好会館美術館 2024年特別企画『長安・夜の宴~唐王朝の衣食住展~』(2024年10月11日~12月1日)
日曜日は、日中友好会館で1日遊んできた。午前中は、妹尾達彦先生による講演「あなたの知らない都の日常」を聴講。講演タイトルから、具体的な生活のディティールの話になるのかと思ったら、その前段として、唐王朝(8世紀)長安の空間的・時間的な位置づけの詳しい解説があって、とても面白かった。前近代における重要な思想家は北緯30~40度の帯に輩出している。この北側は遊牧地帯、南側は農耕地帯で、北緯30~40度は両者の境界領域に当たる。4~7世紀の混乱を経て、ユーラシアには東西南北の幹線の交差点となる都市がいくつか形成され、このかたちが16世紀くらいまで維持される。
長安は、左右対称の都市の頂点に男性の皇帝が座ることで完成する構造を持っているが、武則天は都城の北東に大明宮を設けて、この基本構造を崩した。遣唐使の粟田真人は、たまたま武則天が滞在している時期の長安を訪ねている(武則天は洛陽滞在を好んだので)。平城京が右(東)に出っ張った構造なのは、武則天の長安の影響を受けているのではないか。
妹尾先生、演劇についても古典的な「三角関係」から「四象限構造」(男女2組)みたいな構造分析をされていて面白かった。50分の公園なのに内容が盛りだくさん過ぎ。私はこれまで全く著作を読んでいないみたいなので、ぜひ読んでみたい。
午後は「アニメ映画de楽しむ-唐王朝・詩人たちの友情物語」というイベントで、中国のアニメ映画『長安三万里』を見せてもらった。2023年夏に中国本国で公開され、大ヒットとなった作品である。見たいとは思っていたが、唐代の有名な詩人が多数登場する華やかな物語らしい、という程度のことしか知らなかった。
主人公は高適。いちおう名前は知っているが、ずいぶん地味な詩人を主人公にするのだなと思った。高適は、不遇な田舎者の堅物青年で、まだ詩を書き始める前に、奔放不羈な詩の天才・李白と出会う。そして、全く対照的な性格の青年二人は、それぞれの道で苦難を経験し、時に歩み寄り、すれ違いながら、中年となり、老年に至る。その頃、安禄山の乱により、民衆は戦乱に苦しんでいた。節度使となった高適は、軍を率いて吐蕃の大軍と対峙していた。そこに現れたのは皇帝(粛宗)の命を受けた程公公。高適が李白をどう思っているのかと問いつめる。
粛宗は即位に際して異母弟の永王と対立し、永王は高適に追討された。永王の幕僚となっていた李白も捕えられたが、重臣・郭子儀から助命嘆願が出ていた。しかし高適はこれに賛同していないという噂が立っていたのである。その真実は、かつて高適が李白から教わった相撲の極意にあった。すなわち「敵を欺く」方法である。
そして戦乱に疲弊した祖国で、ただ文芸の中に盛唐の栄華が留められていることを老境の高適は静かに語る。黄鶴楼は破壊されても詩の中の黄鶴楼は残る、長安は荒廃しても詩の中の長安は永遠に残る、と。そう、文芸の価値の一つはそういうことだ。いいなあ、こういうアニメ作品を生み出せる文化。あと、李白作品を読んだ時のブチ上がるテンションは、アニメの表現が合っているなあ、とも思った。
3時間を超える長編アニメで、さすがに幼い子供は少し飽きていたが、私はとても満足した。李白、あまりにもチャランポランで、かなり腹立たしい(よく約束を忘れる)ヤツなのがまたよかった。杜甫は少年として登場。李白とは、けっこう年の差があるのだなと感じた。王維はあまり現代中国人には好かれていないのかしら。
展示とレストラン(ランチ)の感想は別稿で。