〇『四方館』全39集(愛奇藝、2024年)
東方の大国大雍(架空の王朝)の都・長楽城には、諸国の民が、交易や旅行・移住など、さまざまな理由で訪れていた。彼らの入国を掌るのが四方館。于館主のもと、東院・西院の二つの部署が置かれていた。
元莫(檀健次)は定職もなく、父母の遺産で暮らす、酒好きの青年。16年前、父親の元漢景は四方使(外交大使)として焉楽国に赴いた際、政変に巻き込まれ、赤子の公主を助けるために、妻とともに命を落としてしまった。以来、ぼんやりと過ごしてきた元莫だが、ある日、焉楽国から流れ着いた少女・阿術と出会い、一緒に暮らすことになる。大雍の文字を学び、お金を稼いで、長楽城の戸籍を獲得することを目標とする阿術に影響されて、元莫も四方館の西院に出仕。西方の大国・焉楽国の康副使との交渉、宗教集団・紅蓮社の追及、焉楽国に対抗する西方五国との同盟など、次第に外交の才を発揮していく。
【ややネタバレ】やがて阿術は、元莫の両親が命に代えて守った焉楽国の公主であることが判明。康副使は王権の簒奪者である龍突麒に仕えながら、貧しい村に隠した阿術の成長を密かに見守ってきた恩人だった。しかし阿術の幼なじみの少女・阿史蘭は、龍突麒の差し向けた軍勢に村が焼き払われた恨みを忘れず、自分は旧国王の血を引く公主であると虚偽を申し立てる。それをそそのかしたのは、焉楽国の刺客集団・無面人を率いる白衣客。阿史蘭は、危ない罠であることを知りつつ、復讐のため、白衣客に協力する。阿術は、幼なじみを救うため、自分こそ真の公主であることを明らかにし、阿史蘭は絶望して命を絶ってしまう。
公主の責任を自覚した阿術は、龍霜公主として焉楽国に帰還する。付き従うのは四方使となった元莫。そして白衣客は、旧国王が身分の低い女性に産ませた男子、つまり阿術の弟だったことが判明する。白衣客は、龍突麒を殺害し、自ら王座に就こうとするが、元莫らと同盟諸国の協力によって阻まれ、西方に平和が訪れる。
こうしてまとめてみると、よく考えられたストーリーなのだが、ラブコメ要素多めで、なかなか話が進まないので、私は最後までドラマに乗り切れなかった。主人公カップルはタイムスリップした現代っ子を見ているようだった。まあ中国ドラマらしく、過酷な経験を通じて、最後はずいぶん大人になるのだけど。
むしろ脇役には魅力的なキャラが多かった。前半は王昆吾と尉遅華の武闘派カップルが楽しかったし、後半は安修義と林素素に涙した。安修義を演じた張舒淪さんは、『君子盟』の皇帝もよかったけど、この役で完全にファンになった。序盤は自尊心が高く、怒りっぽいのにヘタレという、典型的な嫌われ者のお坊ちゃんなのだが、最後は四方館の新しい館主に推されるに至る。人間的に成長した後のたたずまいが別人のようで感心した。今後も注目していきたい。
北漠国の多弥王子も好きだった。演者の徐海喬さんは『夢華録』の欧陽旭の人か。今回も主人公カップルの気持ちを軽く騒がせる役だが、最後は阿術と元莫の危機を救う。あと、中間管理職の苦労の絶えない于館主(魏子昕)、一人娘の尉遅華に甘い父親の鄂国公(黒子)も好きだった。黒子さんみたいに、悪役の多かった俳優さんが人の好い父親役を演じていると微笑ましくて嬉しい。
架空世界の物語ではあるけれど、「外交」や「移民」を中心に据えて描くのは、多様な民族と境を接してきた中国らしくて面白かった。逆に大雍国の皇帝が全く登場しないのは、中国ドラマとしては珍しいと思った。