見もの・読みもの日記

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平成館・前編/台北 國立故宮博物院展(東京国立博物館)

2014-07-07 22:15:14 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 特別展『台北 國立故宮博物院-神品至宝-』(2014年6月24日~9月15日)

 早朝から並んだ「翠玉白菜」を見終えて(見ていたのは10分くらい)展示室の外に出ると、ちょうど正式開館の9:30。ミュージアムショップのシャッターが開いたので、本館を通り抜けて平成館へ向かうことにする。

 平成館はすでに混み合っていた。白菜をあきらめて、こっちに回った人たちも多かったのではないかと思う。冒頭は西周時代の青銅器・散氏盤。先日、NHKスペシャル『シリーズ故宮』全2回でも取り上げていたけど、日本人的には、ちょっと地味だと思う。でも書道をやっている人には嬉しいのかな。

 いきなり目が吸い寄せられたのは、汝窯の水仙盆こと『青磁楕円盤』。きゃああ、これ来たのね!ほんとに来たのね!と感無量。風流天子・徽宗に鍾愛され、清の乾隆帝が底面に御製詩を刻ませた。図録の解説を見たら「手にとると、ふわっと軽い」。ということは、東博の学芸員さん、実際に手に持ったんだな、いいなあ。さまざまな形をした汝窯の青磁が、あと3件並ぶ。

 向かい側は書画で、あれ!王羲之が来てる?と思ったら『草書遠宦帖巻』と『草書大道帖巻』は宋代の模本。しかし模本でも存在感は圧倒的である。徽宗の『楷書牡丹詩帖頁』はホンモノ。百字くらいあるだろうか。徽宗の筆跡(痩金体)で、これだけ長い文章を見るのは初めてかもしれない。徽宗の画『渓山秋色図』は、雲の上にふわふわと漂うような丸い頂の山が可愛らしい。肩を寄せ合うアザラシの群れみたいだ。徽宗には珍しい墨画淡彩で、確か会場のキャプションは、文人画の美意識を共有していた点を強調していたと思うが、図録解説を読むと徽宗の真筆かどうかは疑問符なんだな。

 それから壁に沿ってぐるりと北宋士大夫の書。蔡襄(さいじょう)、欧陽脩、黄庭堅、米芾(べいふつ)など。蘇軾は趙孟頫(ちょうもうふ)による肖像画(意外と小さい)だけか?と思ったら、後期に『行書黄州寒食詩巻』が来るようだ。図録を読んで初めて知ったことだが、多くの戦火・災厄を奇跡的にくぐりぬけて生き残った詩巻で、日本との因縁も浅からぬものがある。見に行きたいぞ、これは。

 そして南宋絵画。色彩豊かな大画面の『折檻図軸』(←この皇帝、どう見てもやくざの親分w)と『文姫帰漢図軸』は面白かったな。小品の『桃花図頁』『杏花図頁』は日本人好み。『市擔嬰戯図頁』も団扇形の小品だが、てんこ盛りの売り荷を担いだ行商人と子供たち、その母親を描いたもので、「とことん精緻な描き込みが大好き」という中国人気質をよく表している。あの『清明上河図』を生んだ土壌を感じさせる。

 その後、どん詰まりの壁に「奇跡の名品」みたいなタイトルとともに並んでいたのが、10世紀の絵画作品4点。まず唐時代の『明皇幸蜀図軸』と『江帆楼閣図軸』。きゃわわ、まじ?!と変な悲鳴をあげそうになる。顔料を多用した唐代の山水画(青緑山水。中国では金碧山水という)は、日本の大和絵のもとになったと言われるもの。その典型『明皇幸蜀図軸』は、名前くらいは知っている。あ、大和文華館で後世の部分模写なら見たことがあるが、まさか日本でホンモノにお目にかかれようとは。とんがり帽子のように屹立する山の峰がリズミカルに描かれており、山全体から平野部まで、けっこうベタッと青緑色を置いている印象だった。いま図録の写真を見ると、青も緑も微妙なグラデーションで塗り分けているし、人物描写も繊細(おお、馬に混じってラクダもいる!)だが、会場ではここまで見えなかったなあ。

 『江帆楼閣図軸』は知らない作品だった。画面の左下は鬱蒼とした緑樹に覆われており、紺の瓦、朱塗りの柱の楼閣が垣間見える。画面右半分から上部にかけては湖面(?)が広がっていらしく、さざ波と小舟が描かれている。図録解説に「唐時代の青緑山水の実際を伝える可能性のある有力作品」というから、まだ評価は定まっていないのかな。あと2点は、伝・関同筆『秋山晩翠図軸』(五代・北宋)と巨然筆『蕭翼賺蘭亭図軸』(南唐)。宇佐美文理先生の『中国絵画入門』に出て来た名前だ。

 前半最後の1部屋は、元代文人の書画。この時代の作品は、日本に伝わるものが少ない、という解説があったように記憶する。趙孟頫(ちょうもうふ)の『調良図』は強い風の中に佇む馬一頭と人物一人。故宮博物院のサイト(日本語版)に「剽悍な漢馬、華やかな唐馬とは大きく趣を異にする」という説明があって、なるほどなあ、馬一頭にも時代精神が表れるものなんだなあ、と感心した。高克恭筆『雲横秀嶺図軸』も見たかった作品。まさに天地の「気」を描いた、典型的な華北山水の構図だが、その描写には江南山水の潤いある墨法が用いられているという。

 こうして見ていると、中国の絵画、いや中国の文化って、つねに前代を否定し、新しいものに生まれ変わろうとする特徴があるように感じる。古いものを維持・保存することには、日本人のほうが長けていそうだ。以下、後編(大階段の反対側の展示室レポート)に続く。


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