○国立劇場 12月文楽公演『義経千本桜』
http://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/index.html
今年9月、久しぶりに文楽(仮名手本忠臣蔵)を見て、いやーやっぱり面白いなあ、と思った。また以前のように熱を入れて通おうかな、と思っていた矢先、吉田玉男さんの訃報に接した。何だか気勢をそがれたようにも思ったが、気を取り直して、12月公演に出かけた。土曜日の昼から、ぶらぶら劇場に行ってみたら、夜の部のチケットがちょうど1枚だけある(あとは補助椅子が数席)というので、これを買って入った。
今月は、『義経千本桜』のうち、初段「堀川御所の段」と二段目「伏見稲荷の段」「渡海屋・大物浦の段」だけのダイジェスト公演である。それで結構。私は平知盛びいきなので、「渡海屋・大物浦」が見られれば満足である。覚悟の白装束の知盛も好きだが、冒頭、相模五郎の狼藉を制止して、「武士の武の字は矛を止めると書くと聞いておりやす」と諭す、ヘンに理屈っぽい知盛(銀平)も好きなのだ。当時の町人が、武士階級をどう見ていたかが、反映されているように思う。
今月のプログラムには入っていないが、「道行初音の旅」の段も好きだ。狐忠信、かわいいし。
『義経千本桜』の梗概を、初めて知ったときは、笑ってしまった。源氏の義経、平家の知盛、それから能登守教経、色男の三位中将維盛。要するに、源平の双方から、人気抜群のヒーローだけを選び出して、勝手に作り上げたフィクションなのである。『平家物語』を読むと、義経と知盛を好敵手として向かわせてみたい、と思う気持ちは、ものすごくよく分かる。しかし、そのために、西海に沈んだ平家の武将たちを生き返らせて「ありえない」後日談を作ってしまうのだから、いまのパロディ同人誌の感覚とあまり変わらないのではないか。
12月の文楽公演は、むかしから若手中心と決まっていた。だから、舞台上に文雀さんや蓑助さんの姿がないのは当然なのだが、知盛を見ていると、隣に玉男さんの姿を思い浮かべて切なくなってしまう。
この公演で知盛を遣ったのは、吉田玉男の一番弟子である吉田玉女。初役だそうだ。力に溢れた、若々しい知盛だった。「40年近く修行させてもらった師匠の芸を受け継いでいきたい」と語っているという。40年かあ。いまどきは、伝統芸能の世界でも、もっと早くからスター扱いされることのほうが普通だと思う。こんな、ゆっくりした世代交代を行っている世界って、他に無いだろうなあ。玉女の精進に期待したい。
■吉田玉女、師の芸受け継ぐ(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/mei/20061118/ftu_____mei_____001.shtml
http://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/index.html
今年9月、久しぶりに文楽(仮名手本忠臣蔵)を見て、いやーやっぱり面白いなあ、と思った。また以前のように熱を入れて通おうかな、と思っていた矢先、吉田玉男さんの訃報に接した。何だか気勢をそがれたようにも思ったが、気を取り直して、12月公演に出かけた。土曜日の昼から、ぶらぶら劇場に行ってみたら、夜の部のチケットがちょうど1枚だけある(あとは補助椅子が数席)というので、これを買って入った。
今月は、『義経千本桜』のうち、初段「堀川御所の段」と二段目「伏見稲荷の段」「渡海屋・大物浦の段」だけのダイジェスト公演である。それで結構。私は平知盛びいきなので、「渡海屋・大物浦」が見られれば満足である。覚悟の白装束の知盛も好きだが、冒頭、相模五郎の狼藉を制止して、「武士の武の字は矛を止めると書くと聞いておりやす」と諭す、ヘンに理屈っぽい知盛(銀平)も好きなのだ。当時の町人が、武士階級をどう見ていたかが、反映されているように思う。
今月のプログラムには入っていないが、「道行初音の旅」の段も好きだ。狐忠信、かわいいし。
『義経千本桜』の梗概を、初めて知ったときは、笑ってしまった。源氏の義経、平家の知盛、それから能登守教経、色男の三位中将維盛。要するに、源平の双方から、人気抜群のヒーローだけを選び出して、勝手に作り上げたフィクションなのである。『平家物語』を読むと、義経と知盛を好敵手として向かわせてみたい、と思う気持ちは、ものすごくよく分かる。しかし、そのために、西海に沈んだ平家の武将たちを生き返らせて「ありえない」後日談を作ってしまうのだから、いまのパロディ同人誌の感覚とあまり変わらないのではないか。
12月の文楽公演は、むかしから若手中心と決まっていた。だから、舞台上に文雀さんや蓑助さんの姿がないのは当然なのだが、知盛を見ていると、隣に玉男さんの姿を思い浮かべて切なくなってしまう。
この公演で知盛を遣ったのは、吉田玉男の一番弟子である吉田玉女。初役だそうだ。力に溢れた、若々しい知盛だった。「40年近く修行させてもらった師匠の芸を受け継いでいきたい」と語っているという。40年かあ。いまどきは、伝統芸能の世界でも、もっと早くからスター扱いされることのほうが普通だと思う。こんな、ゆっくりした世代交代を行っている世界って、他に無いだろうなあ。玉女の精進に期待したい。
■吉田玉女、師の芸受け継ぐ(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/mei/20061118/ftu_____mei_____001.shtml