〇根津美術館 企画展『香合百花繚乱』(2018年2月22日~3月31日)
ずいぶん昔、根津美術館では「茶入れ」の展覧会を見たことがある。よその美術館では「茶釜」とか「茶杓」の展覧会もあったが、「香合」をこれだけ(約170点)集めた展覧会は記憶にない。体系的に整理されているので、いろいろと勉強になった。
「香合」は「香」を入れる蓋付きの容器で、茶の湯の道具のひとつである。冒頭には、直径40センチくらいある円形の『堆黒屈輪文香合』が展示されていた。大きすぎて、旅館のおひつか湯呑入れみたいだ。こうした「大香合」は、大香炉と組み合わせて、仏教儀礼で用いられた。一般の香合はてのひらに乗るくらいのサイズである。初期の香合は堆朱や堆黒の唐物漆器が多い。平たいコンパクト型、中央が膨らんだマカロン型、立方体もある。明清時代の『宝珠香合』(素材:牙)は、クルミのようなかたちで、表面は氷裂文のようだった。
やがて、黄瀬戸や志野、織部、信楽など国産のやきものの香合がつくられるようになった。『黄瀬戸宝珠香合』は、白い薄皮に抹茶を散らした饅頭みたいでかわいい。寛永年間には、中国のやきもの(古染付)の香合が現れた。中国の薬容器を転用したものもあれば、日本の茶人の求めに応じて焼かれたものもあるそうだ。また、日本産や蒔絵や中国産の螺鈿の香合も用いられた。本展覧会に限ってかもしれないが、中国産の香合は、虫や動物のデザインが多いように感じた。『螺鈿虫文』(コオロギ?)とか『螺鈿蟷螂文』(カマキリ)とか。『古染付犬荘子香合』はナメクジみたいな姿態の犬が蓋の上に載っている。
中国産のやきものの香合は、祥瑞、呉州赤絵、交趾など、多様な展開を見せる。少数だが青磁の香合もある。日本産では鎌倉彫も忘れてはならない。やきものは京焼、楽焼など。近代の茶人は、鑑賞陶磁器として「発見」された唐三彩や、砂張の容器も香合として用いた。仁清の『色絵ぶりぶり香合』は私の大好きな品。内側のブルーが美しい。『交趾大亀香合』は×印の口を持つ亀がかわいかった。
興味深かったのは、香木と練香の各種材料をが参考展示されていたこと。麝香は毛皮を丸めたボールのようなかたちで、ほかに丁子やウコンなどがあった。薫陸(くんろく)というのは乳香なのか。展示ケースには「協力 麻布香雅堂」のキャプションあり。全て見るだけで、香をかがせてもらえなかったのは残念だった。
私はお茶を全くやらないので、パネルの説明を読んで、茶の湯では炭と灰の中でお香を焚くということを、恥ずかしながら初めて知った。そうかー。ただ部屋の中に置いておくものだとずっと思っていた。そして11月-4月の炉の季節には練香を使い、やきものの香合を使うこと、5月-10月の風炉の季節には香木を使い、漆器など木製の香合を使うことも初めて理解した。そうすると、当然やきものの香合には、正月や早春の意匠が多くなるだろうな。「ぶりぶり」もそのひとつか。
展示室2の「釜-茶席の主の姿-」は企画展と合わせて楽しめるテーマ。20点余りの釜を見ることができる。私は口が小さく、やや平たい肉まんみたいなかたちの釜が好き。展示では「天明釜」と呼ばれるものがそうかなと思ったが、天明は栃木県佐野市の地名に由来し、一定の形態を指すものではないらしい。しかし、縦に長い筒形とか六角形とか、造形が自由なことに驚いた。茶の湯って面白い。
1階が主に工芸なので、3階・展示室5は「歌詠みの書」と題して、中世から近世の懐紙や短冊を展示。展示室6は「花月の茶」で、床の間には柴田是真の『雛図』が掛かっている。
ずいぶん昔、根津美術館では「茶入れ」の展覧会を見たことがある。よその美術館では「茶釜」とか「茶杓」の展覧会もあったが、「香合」をこれだけ(約170点)集めた展覧会は記憶にない。体系的に整理されているので、いろいろと勉強になった。
「香合」は「香」を入れる蓋付きの容器で、茶の湯の道具のひとつである。冒頭には、直径40センチくらいある円形の『堆黒屈輪文香合』が展示されていた。大きすぎて、旅館のおひつか湯呑入れみたいだ。こうした「大香合」は、大香炉と組み合わせて、仏教儀礼で用いられた。一般の香合はてのひらに乗るくらいのサイズである。初期の香合は堆朱や堆黒の唐物漆器が多い。平たいコンパクト型、中央が膨らんだマカロン型、立方体もある。明清時代の『宝珠香合』(素材:牙)は、クルミのようなかたちで、表面は氷裂文のようだった。
やがて、黄瀬戸や志野、織部、信楽など国産のやきものの香合がつくられるようになった。『黄瀬戸宝珠香合』は、白い薄皮に抹茶を散らした饅頭みたいでかわいい。寛永年間には、中国のやきもの(古染付)の香合が現れた。中国の薬容器を転用したものもあれば、日本の茶人の求めに応じて焼かれたものもあるそうだ。また、日本産や蒔絵や中国産の螺鈿の香合も用いられた。本展覧会に限ってかもしれないが、中国産の香合は、虫や動物のデザインが多いように感じた。『螺鈿虫文』(コオロギ?)とか『螺鈿蟷螂文』(カマキリ)とか。『古染付犬荘子香合』はナメクジみたいな姿態の犬が蓋の上に載っている。
中国産のやきものの香合は、祥瑞、呉州赤絵、交趾など、多様な展開を見せる。少数だが青磁の香合もある。日本産では鎌倉彫も忘れてはならない。やきものは京焼、楽焼など。近代の茶人は、鑑賞陶磁器として「発見」された唐三彩や、砂張の容器も香合として用いた。仁清の『色絵ぶりぶり香合』は私の大好きな品。内側のブルーが美しい。『交趾大亀香合』は×印の口を持つ亀がかわいかった。
興味深かったのは、香木と練香の各種材料をが参考展示されていたこと。麝香は毛皮を丸めたボールのようなかたちで、ほかに丁子やウコンなどがあった。薫陸(くんろく)というのは乳香なのか。展示ケースには「協力 麻布香雅堂」のキャプションあり。全て見るだけで、香をかがせてもらえなかったのは残念だった。
私はお茶を全くやらないので、パネルの説明を読んで、茶の湯では炭と灰の中でお香を焚くということを、恥ずかしながら初めて知った。そうかー。ただ部屋の中に置いておくものだとずっと思っていた。そして11月-4月の炉の季節には練香を使い、やきものの香合を使うこと、5月-10月の風炉の季節には香木を使い、漆器など木製の香合を使うことも初めて理解した。そうすると、当然やきものの香合には、正月や早春の意匠が多くなるだろうな。「ぶりぶり」もそのひとつか。
展示室2の「釜-茶席の主の姿-」は企画展と合わせて楽しめるテーマ。20点余りの釜を見ることができる。私は口が小さく、やや平たい肉まんみたいなかたちの釜が好き。展示では「天明釜」と呼ばれるものがそうかなと思ったが、天明は栃木県佐野市の地名に由来し、一定の形態を指すものではないらしい。しかし、縦に長い筒形とか六角形とか、造形が自由なことに驚いた。茶の湯って面白い。
1階が主に工芸なので、3階・展示室5は「歌詠みの書」と題して、中世から近世の懐紙や短冊を展示。展示室6は「花月の茶」で、床の間には柴田是真の『雛図』が掛かっている。