見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

陰謀と野心渦巻く宮廷で/中華ドラマ『開封府』

2020-04-04 23:24:43 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『開封府』全54集(広東南方領航影視伝播有限公司、2017年)

 『琅琊榜』の誉王を演じた黄維徳(ビクター・ホァン)が宋代の名裁判官・包拯(包青天)を演じたドラマ。日本のBS・CSでも『開封府~北宋を包む青い天~』のタイトルで、2018年以来、何度か放映されている。気になっていたので、中国ドラマの新作が滞っているこの時期に見てみることにした。

 北宋・真宗の治世、人並み外れて真黒な男の子が生まれる。両親に疎まれたその子を兄夫婦が引き取り、包拯と名づけて育てる。その後、皇宮で皇子が誕生するが、すでに何人もの皇子を失っていた真宗は、弟の八賢王、腹心の陳太監と謀って赤子をすり替え、皇子・益児を侍衛の周懐仁に託して、都を遠く離れた村里でひそかに養育させる。

 月日が流れ、青年・包拯は科挙を受けるため上京し、宰相・王延齢の目に留まり、真宗の知遇を得る。真宗は益児を宮中に呼び戻し、皇太子に立てようとするが、毒殺未遂事件が起きる。捜査に乗り出した包拯は、事件の黒幕が八賢王だったことを暴く。これがいわば第一段で、以後、長年にわたり、いくつかの難事件を包拯が解決していく。ただ『大岡越前』や『水戸黄門』的なドラマ(ちゃんと見たことはない)と違うのは、年月の経過がはっきり描かれていて、前段の事件が登場人物に影響を及ぼした結果、後段の事件を生むことになっている。

 真宗の死によって幼い仁宗が即位したが、実権は皇太后の劉氏が握っていた。劉氏は、入内前に枢密使の張徳林と関係があり、今も想いを寄せていた。皇太后の弟(国舅)・劉復の悪事を包拯が裁くのが第二段。

 さらに月日が流れ、青年となった仁宗の皇后候補として、張徳林の娘の張燕燕と王延齢の孫娘の王霊児が後宮に入るが、ある晩、二つの放火事件が起きる。この真相を解明し、皇太后を退けて仁宗の親政を開始するまでが第三段。

 親政に意欲を見せる仁宗は、賢臣を得るべく范仲淹と包拯に命じて科挙を実施する。首席を得たのは張徳林の長男・張子雍。替え玉受験であったことが判明するが、その過程で陳世美という才子が見出される。仁宗は陳世美を気に入り、姉(幼い仁宗を育てた乳母の娘)の青女を嫁がせ、駙馬として遇する。これが第四段。

 この陳世美がとんでもない食わせ者だった。包拯の弟・包勉は地方官として、苦しむ民衆を助けるため、法律を犯してその弱みを陳世美に握られてしまう。人のいい包勉は、上京の途中、消えた夫を探している秦香蓮と二人の子供たちに出会う。実は秦香蓮の夫こそ、名前を変えた野心家の陳世美だった。陳世美を追いつめる過程で、包拯は弟の包勉を刑場に送り、妻の端午を失う。あまりにも悲しい第五段。

 当時、宋は国境で西夏と対峙していたが、宮廷に西夏の内通者がいると疑われる事件が起きる。宰相・王延齢か枢密使・張徳林か、張徳林の次男で幼い頃から仁宗に仕えてきた張子栄か。さまざまな陰謀と誤解が積み重なった結果、謀反の軍を起こしたのは張徳林。しかし、范仲淹と王延齢の策略、包拯と江湖の侠客たちの活躍により、仁宗は守られ、張徳林は自害して果てる。以上、第六段。

 「包拯もの」と聞いて、推理と弁論がメインの法廷ドラマをイメージしていたのだが全然違った。最後は城攻めの大軍勢が動く戦乱ドラマである。序盤から終盤まで登場する人物のイメージはずいぶん変わる。はじめは野心家の張徳林に対して、王延齢は包拯の守護者になるのかと思ったら全然違った。張徳林の長男・張子雍とその相棒・張東は、最初は無鉄砲な小悪党だが、最終話で見せる男気には泣かされた。誠実な次男・張子栄が、仁宗のため次第に陰謀家に変貌していくのは怖い。

 包拯伝説(包公案)について調べてみると、少なくとも第二段(鍘国舅)や第五段(鍘美案、鍘包勉)には典拠(?)があるようだ。古い伝説や戯曲の換骨奪胎を見るのは時代劇の楽しみだが、本作の場合、原形がよく分からないのが歯がゆかった。包拯の部下の王朝、馬漢、張龍、趙虎は「四大名捕」なのね。王朝(李暁強)と馬漢(巩天闊)のおじさんコンビは、古きよき時代劇を感じさせて好きだった。

 ビクター・ホァンの包拯は、序盤、あまり感情の揺れを見せず、ロボットみたいに正論を言い続ける。可愛いといえば可愛いのだが、ちょっと辟易する。しかしその前半があればこそ、第五段で「貴方の正義には血が通っていない」と非難され、「私も人間だ」と弱音を吐くところに真情が感じられた。あと好きだったのは、やんちゃものの張子雍(康恩赫)と第五段に登場する韓琦(劉誉坤)。俳優さんを覚えておこう。

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年々歳々/桜 さくら SAKURA 2020(山種美術館)

2020-04-02 22:00:15 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展『桜 さくら SAKURA 2020-美術館でお花見!-』(2020年3月14日~5月10日)

 3月15日(日)に府中市美術館の『ふつうの系譜』展とハシゴした展覧会である。府中市美術館でお会いした知人に、また山種で会ってしまい、この週末、このコースしかないものね、と笑い合った。三連休は関西へ出かけ、先週末は「自粛要請」に従ったので、今のところ東京で最後に行った展覧会になる。

 山種美術館は、毎年この時期に「桜」あるいは「花」をテーマにした展覧会を開催している。展示作品は、だいたい見たことのあるものだったが、去年と同じ木に咲く桜の花を見たときに似て、毎年同じ季節に同じ作品に出会うことの喜びがある。季節のめぐりを確認するような懐かしさと新鮮さ。

 これまでの「桜」展は、最初に風景画や花鳥画、後半に桜を配した人物画や歴史画という構成が多かったように思うのだが、今年は松岡映丘の華やかな『春光春衣』が冒頭にあってハッとした。十二単の女性たちが端居して庭の桜を眺めている。平家納経か扇面絵を思わせる情景。羽石光志の『吉野山の西行』も好き。森田曠平の『百萬』は桜の枝を肩にかつぎ、裸足で川を渡る女性の図。どこか尋常でないものを感じさせるけれど好き。守屋多々志の『聴花(式子内親王)』はさらに不安と不穏さに満ちているけれど好き。桜と女性を描いた作品には、覗いてはいけない心の蓋が開いたようなものが多い。

 満開の桜だけが描かれた小林古径の『清姫(入相桜)』には、人を愛しすぎた悲運の女性の物語がよみがえってきて心がざわつく。速水御舟が「道成寺入相桜」を描いた淡彩のスケッチさえも、知ってしまった物語を離れて、純粋に絵画を見るってできないものだ。

 奥村土牛の『醍醐』『吉野』を今年も見ることができて感謝。大野寺の摩崖仏を描いた小林古径の『弥勒』は古画を見るような趣きがある。小茂田青樹の『春庭』は、技巧を感じさせない純で素朴な雰囲気が好き。

 というように、美しいものを眺めて気持ちをリフレッシュするのは大切だと思うが、山種美術館のホームページを見たら、ついに「4月4日(土)から当面の間休館」のお知らせが載っていた。府中市美術館も週末は休館だそうだ。うーむ。開いている美術館や博物館がどんどん無くなっていく。今の東京は、それどころではないと分かっていても寂しい。次に気兼ねなく絵画や工芸作品を見ることができるのは、いつになるだろうか。

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話題作登場/2020年見るべき中国時代劇ドラマ(ぴあMook)

2020-04-01 22:59:08 | 読んだもの(書籍)

〇ぴあMook『2020年見るべき中国時代劇ドラマ』 ぴあ 2020.4

 こんな雑誌が出たことにびっくりした。私がCS放送のアンテナを立てて細々と中国ドラマの視聴を始めたのは2003~2004年頃で、当時は韓流ドラマならともかく、中国ドラマの話題を共有できる友人はほとんどいなかった。それが、この4~5年の間、SNSなどで中国ドラマの感想に接することが徐々に増えてきた。それも中国好きとか中国語学習者ではなくて、普通のエンタメファンが楽しんで見ているらしい。

 本誌によれば、2011年の『三国志』、2012年の『宮廷女官 若曦(ジャクギ)』、2013年の『宮廷の諍い女』の連続ヒットによって「中国時代劇」が人気を集め始めた(私はBS環境がなかったので、これらを全く見ていない)。2015年以降になると、中国ドラマの日本リリースタイトルが右肩上がりに増加というのは実感と合う。私はもっぱらネットで中国原版の無料配信を拾って見続けているのだが、日本国内に中国ドラマファンが増えるのは純粋に嬉しい。キネマ旬報ムック『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』が出たときも驚いたが、ついにぴあまで!!と嬉しさに震えてしまった。しかも、このムック、分厚い。

 「名作から最新作まで話題のドラマを105本厳選紹介」「深掘り厳選25本」「速報:新作19本」という構成である。新作は『陳情令』と『長安二十四時(長安十二時辰)』をトップ2推し。それぞれ主役二人の見開きビジュアルにも力が入っている。中国時代劇は登場人物が多くて関係が複雑なので、人物相関図がついているのはありがたいと思う。『陳情令』は日本でもどんどん人気に火がついている感じなので、これから見る。ラブ史劇にはあまり食指が動かないのだが『鬼谷子(謀聖鬼谷子)』は面白そうだ。調べたら2013-14年の制作なのに昨年ようやくYouTubeで配信されたらしい。覚えておこう。

 「厳選25本」は宮廷ものが目立つ。『瓔珞』は見たけど『如懿伝』は未見なので時間があったら。いちおう『軍師聯盟』や『三国機密』『九州・海上牧雲記』も取り上げられていてよかった。『将夜』もそのうち見たいと思っている。私の好きな作品で、全く取り上げられていなくて残念に思ったのは『九州縹渺録』と『慶余年』かな。まだ日本での放映が決まっていないから紹介しにくいんだろうな。

 巻末の「中国美男美女図鑑55人」も楽しく拝見した。でも世代が若いなー。私が好きな俳優さんは、もう少し世代が上なのだ。呉秀波とか趙立新とか倪大紅とか(笑)。まあ中国の俳優さんに人気が出て、時代劇やファンタジーだけでなく、現代劇も日本で放映されるようになるといいなと思う。『人民的名義』『大江大河』『都挺好』など、近現代を舞台にしたドラマにも面白い作品はたくさんあるので。

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