〇『開封府』全54集(広東南方領航影視伝播有限公司、2017年)
『琅琊榜』の誉王を演じた黄維徳(ビクター・ホァン)が宋代の名裁判官・包拯(包青天)を演じたドラマ。日本のBS・CSでも『開封府~北宋を包む青い天~』のタイトルで、2018年以来、何度か放映されている。気になっていたので、中国ドラマの新作が滞っているこの時期に見てみることにした。
北宋・真宗の治世、人並み外れて真黒な男の子が生まれる。両親に疎まれたその子を兄夫婦が引き取り、包拯と名づけて育てる。その後、皇宮で皇子が誕生するが、すでに何人もの皇子を失っていた真宗は、弟の八賢王、腹心の陳太監と謀って赤子をすり替え、皇子・益児を侍衛の周懐仁に託して、都を遠く離れた村里でひそかに養育させる。
月日が流れ、青年・包拯は科挙を受けるため上京し、宰相・王延齢の目に留まり、真宗の知遇を得る。真宗は益児を宮中に呼び戻し、皇太子に立てようとするが、毒殺未遂事件が起きる。捜査に乗り出した包拯は、事件の黒幕が八賢王だったことを暴く。これがいわば第一段で、以後、長年にわたり、いくつかの難事件を包拯が解決していく。ただ『大岡越前』や『水戸黄門』的なドラマ(ちゃんと見たことはない)と違うのは、年月の経過がはっきり描かれていて、前段の事件が登場人物に影響を及ぼした結果、後段の事件を生むことになっている。
真宗の死によって幼い仁宗が即位したが、実権は皇太后の劉氏が握っていた。劉氏は、入内前に枢密使の張徳林と関係があり、今も想いを寄せていた。皇太后の弟(国舅)・劉復の悪事を包拯が裁くのが第二段。
さらに月日が流れ、青年となった仁宗の皇后候補として、張徳林の娘の張燕燕と王延齢の孫娘の王霊児が後宮に入るが、ある晩、二つの放火事件が起きる。この真相を解明し、皇太后を退けて仁宗の親政を開始するまでが第三段。
親政に意欲を見せる仁宗は、賢臣を得るべく范仲淹と包拯に命じて科挙を実施する。首席を得たのは張徳林の長男・張子雍。替え玉受験であったことが判明するが、その過程で陳世美という才子が見出される。仁宗は陳世美を気に入り、姉(幼い仁宗を育てた乳母の娘)の青女を嫁がせ、駙馬として遇する。これが第四段。
この陳世美がとんでもない食わせ者だった。包拯の弟・包勉は地方官として、苦しむ民衆を助けるため、法律を犯してその弱みを陳世美に握られてしまう。人のいい包勉は、上京の途中、消えた夫を探している秦香蓮と二人の子供たちに出会う。実は秦香蓮の夫こそ、名前を変えた野心家の陳世美だった。陳世美を追いつめる過程で、包拯は弟の包勉を刑場に送り、妻の端午を失う。あまりにも悲しい第五段。
当時、宋は国境で西夏と対峙していたが、宮廷に西夏の内通者がいると疑われる事件が起きる。宰相・王延齢か枢密使・張徳林か、張徳林の次男で幼い頃から仁宗に仕えてきた張子栄か。さまざまな陰謀と誤解が積み重なった結果、謀反の軍を起こしたのは張徳林。しかし、范仲淹と王延齢の策略、包拯と江湖の侠客たちの活躍により、仁宗は守られ、張徳林は自害して果てる。以上、第六段。
「包拯もの」と聞いて、推理と弁論がメインの法廷ドラマをイメージしていたのだが全然違った。最後は城攻めの大軍勢が動く戦乱ドラマである。序盤から終盤まで登場する人物のイメージはずいぶん変わる。はじめは野心家の張徳林に対して、王延齢は包拯の守護者になるのかと思ったら全然違った。張徳林の長男・張子雍とその相棒・張東は、最初は無鉄砲な小悪党だが、最終話で見せる男気には泣かされた。誠実な次男・張子栄が、仁宗のため次第に陰謀家に変貌していくのは怖い。
包拯伝説(包公案)について調べてみると、少なくとも第二段(鍘国舅)や第五段(鍘美案、鍘包勉)には典拠(?)があるようだ。古い伝説や戯曲の換骨奪胎を見るのは時代劇の楽しみだが、本作の場合、原形がよく分からないのが歯がゆかった。包拯の部下の王朝、馬漢、張龍、趙虎は「四大名捕」なのね。王朝(李暁強)と馬漢(巩天闊)のおじさんコンビは、古きよき時代劇を感じさせて好きだった。
ビクター・ホァンの包拯は、序盤、あまり感情の揺れを見せず、ロボットみたいに正論を言い続ける。可愛いといえば可愛いのだが、ちょっと辟易する。しかしその前半があればこそ、第五段で「貴方の正義には血が通っていない」と非難され、「私も人間だ」と弱音を吐くところに真情が感じられた。あと好きだったのは、やんちゃものの張子雍(康恩赫)と第五段に登場する韓琦(劉誉坤)。俳優さんを覚えておこう。