久しぶりに東京国立博物館に行ってきた。「創立150周年記念事業」の実施(7/20~24は無料開館)と関連してか、けっこう珍しい作品が出ていた。
本館11室(彫刻)は、入ってすぐに、たなびく瑞雲の上の蓮華座に立つ美麗な地蔵菩薩立像( 善円作・鎌倉時代、奈良・薬師寺)が出ていた。2019年に大英博物館で展示されたものらしい。
■本館14室 創立150年記念特集『収蔵品でたどる日本仏像史』(2022年5月17日~7月10日)
飛鳥時代から近代まで16件の作品により、日本の仏像を通史的に紹介する。スペースの制約で大型の仏像は展示できないし、ちょっと無謀な企画ではないかと思った。とはいえ、古い時代には珍しい木製の如来立像(飛鳥時代・法隆寺献納宝物)や雲中供養菩薩像(平等院伝来)が出ていたり、円空仏と木喰仏が1躯ずつ並んでいたり、近代ものは佐藤朝山の龍頭観音像が出ていたり、セレクションに苦心の跡が感じられた。
15室(歴史の記録)では『文久遣欧使節写真』6件を展示中。福地源一郎がいる。18室(近代の美術)は、私の好きな前田青邨の『御産の祷』と『神輿振』が出ていた。やっぱり、今年の大河ドラマを少し意識しているだろうか? あと、高橋由一や伊藤快彦など、明治の風景画の素直な味わいも好きだ。ところで本館の展示が面白すぎて、平成館・企画展示室で開催中の創立150年記念特集『時代を語る洋画たち-東京国立博物館の隠れた洋画コレクション』(2022年6月7日~7月18日)を見落としてしまった。しまった。来週、もう一回行かなければ。
■本館2室(国宝室) 創立150年記念特集『未来の国宝-東京国立博物館 書画の逸品-』
東博の研究員が選び抜いた作品12件を「未来の国宝」と銘打って、年間を通じて紹介する企画。現在の展示は、雪村周継筆『蝦蟇鉄拐図』(2022年7月5日~7月31日)である。写真撮影OKなのがうれしい。鉄拐仙人がお腹の前に下げている、平たい壺のようなものは何だろう? 魂を出し入れする(?)瓢箪は別に下げている。調べたら、雪村はまだ国宝になった作品がないのだな。
3室(仏教の美術)では、春日信仰に関する美術品をミニ特集。『春日本地仏曼荼羅図』や『春日赤童子像』が出ていた。冷泉為恭らによる『春日権現験記絵巻』模本(巻第19、20)も美しかった。 室町時代の『春日宮曼荼羅彩絵舎利厨子』は内部の背面に、御蓋山に向かって伸びる参道の図が描かれている。『子島荒神像』『富士参詣曼荼羅図』など室町時代の神仏図は、独特の魅力があって、あやしく楽しい。
3室(禅と水墨画)に出ている「秀峰」印『山水図屏風』には見覚えがあって、これは雪村だっけな?雪村っぽいけど確定できないヤツだっけな?と考えながら近づいたら、解説に「かなり雪村風です」と書いてあった。うん、そう言いたくなる気持ちは分かる。7室(屏風と襖絵)には、伝・岩佐又兵衛筆『故事人物図屏風』が出ていた。出光美術館で何度か見たもの(蟻通とも)だが、個人蔵なのだな。
8室(書画の展開)は、かなり良かった。まず、長谷川等伯筆『牧馬図屏風』は記憶になかったが、さまざまな毛色の馬たちが描かれていて、中国っぽい画題だと思った。曽我蕭白筆『牽牛花(朝顔)図』『葡萄栗鼠図』は、蕭白らしからぬアッサリした墨画。 長沢芦雪筆『方広寺大仏殿炎上図』(個人蔵)が出ていたのはうれしかったが、写真撮影はNG。 林十江筆『蝦蟇図』も好きな作品。鍬形蕙斎筆『近世職人尽絵詞・上巻』も面白かったし、荻生徂徠筆『天狗説屏風』の書跡は読みやすくて好ましかった。
10室(浮世絵と衣装)は、だいたいサッと素通りしていくのだが、最後に祇園井特の肉筆画『婦女と幽霊図』2幅があって、ぎゃっと飛び上がりそうになった。この幽霊は、恨み骨髄に徹するような、恐ろしい顔をしている(写真を撮ってきたが、貼るのは自重)。
■東洋館(アジア・ギャラリー) 特集『清朝宮廷の書画』(2022年6月28日~9月19日)
清朝の歴代皇帝、親王や廷臣たちの書画を展示する。個人的に気になったのは、やはり乾隆帝第六皇子の永瑢である。初めてこの名前を意識したのは、2021年1~2月の『清朝書画コレクションの諸相』展で、乾隆帝の後宮を舞台にした中国ドラマ『延禧攻略』『如懿伝』を見たばかりだったので、おや?と思ったのだ。このときは皇六子の署名のある『山水図軸』が出ていた。今回はもう1件、何とも力の抜けた『魚蔬図巻』が展示されていた。これを乾隆帝の皇子が描いたと思うと、なんだか微笑ましい。私はこの作品を2018年にも見ているのだが、まさか作者にこんな思い入れが湧くとは思わなかった。
ちなみに今回は、乾隆帝の書はなく、康熙帝の書が2件出ていた。流麗さには欠けるが、おおらかで生真面目で、人柄のしのばれる好きな字である。